第1090話 ど性郷どんと性郷猛

【前回のあらすじ】


 ついに会敵した破壊神第一の使徒。南の大陸に君臨する赤いロボット。

 がんばれロ○コン村を預かるそいつの名は――ロ○コン。

 赤い二輪車に変形して颯爽と女エルフ達の前に現われた彼。すわ、一触即発の大激戦、血で血を洗う戦いが始まるかと思いきや、そうはならない。


 というのも。


「僕のことをポンコツロボットだと思ったら大間違いだ!! 僕だって、やればでき――うわぁああああっ!!」


 なにもない所で転ぶロ○コン。

 派手にこけて満身創痍。ドミノ倒しのように見事に自滅したロボットからは、なんというか威厳もなければ威圧もない。ただただ、同情しか浮かんで来ない。


 まさしくがんばれ。がんばれロ○コンというロボットだった。


 しかし、脅威は彼だけではなかった。

 ロ○コンがこの場に駆けつけたのは、とある人物を探してのこと。


 その探し人は、南の大陸に数年前にたどり着いた男で、立派な身体を持ちながらも死に瀕していた。イカスミ怪人工場の力により改造人間として生き返った彼は、流れ着く前の記憶を失っていたのだが――。


「チェストォオオオオオオ!!」


「まさか、その叫び声は!!」


 旧知の仲である男騎士の顔を見て、不安を感じてここに立ち上がった。


 そう、彼こそは猛くん。

 記憶を失い、下の名前を失い、さらに名前がヤバイことになった侍マッスル。


「我が恩人であるロ○コンに手をかけるならこの私――性郷猛が許さん!!」


「「「「「性郷どん!!」」」」」


 死してなお、男騎士達を救った東の大英雄。

 性郷隆盛こと性郷どんに間違いなかった。


◇ ◇ ◇ ◇


 説明しよう。


 性郷猛は改造人間である。彼を改造したイカスミ怪人工場は地域社会への貢献と明るい未来の創造をモットーとする地域密着型の優良企業である。性郷猛はCO2削減と再生可能エネルギーの利用率向上と資源の再利用のため、今日もイカスミ怪人工場の庶務課唯一の男手として、工場周辺の清掃活動に従事するのだ。


「いや!! 全然説明になってない!!」


 女エルフたちの前に現われたむくつけき大巨漢。

 黒いバイクに跨がって現われたそいつの名は性郷猛。


 しかし、どこからどうみても、どう考えても、それは彼女達の知り合い以外の何ものでもなかった。


 性郷隆盛。


 東の島国をまとめあげ、開国へと導いた偉大なる指導者。しかしながら、新政府内で孤立し、自分の思想に殉じて死んだ大英雄。高潔な闘士に間違いなかった。


 どうして彼がこんな所に――。


「いや、そうかそういうことか!!」


「どうしたんですモーラさん!?」


「だぞ、何か分かったんだぞ!?」


「いやまぁたいしたことではないというか、そのまんまさっきそこの赤いのが言ってた通りなんだけれど。死んだと思っていた性郷どんは、この南の大陸までたどり着いていたのよ。それで、この大陸の技術によって、通常なら回復できない所を、ここまで回復したってこと――」


 説明された通りだった。


 東の島国の政争で行方不明となった性郷隆盛。そんな彼は、波濤万里を越えて紅海を横断すると、ここ南の大陸に漂着した。そして、そこから東の島国に帰ることなく性郷猛としての第二の性を歩むことになっていたのだ。


 生死不明だからこそ、かつて東の島国では性郷の帰還にあれほど混乱した。

 彼を排斥した政府達はその生存を危ぶみ、再び戦火の種とならないかと危惧した。

 一方で、彼を信奉し政権を打倒する力を夢見た者達は、その生存を信じて彼が東の島国に帰還するのを待っていた。


 そんな多くの人類のに希望と不安は、今ここに現実となった。


 やはり性郷は死んでいなかったのだ。


 もっとも、東の島国を導いた性郷隆盛という人格がそっくりそのままであるかという点については――いささかの疑問があったが。


「お前達!! さては知恵の神が送り込んだスパイだな!! この平和な破壊神の都市に潜入してなにをするつもりだ!!」


「いや、アンタが何をしているんだ性郷!! お前、生きてたんかい!!」


「……貴様、俺のことを知っているのか!?」


「知ってる知ってる。いや、なんか私たちが会ったのとはちょっと違うけれども。とにかく、アンタは性郷猛なんていう版権的にも、字面的にもヤバイ奴じゃないの。お願いだから正気に戻って」


「……いや、惑わされんぞ!! 俺を騙すつもりなのだろう!! 俺は知っているんだ、おっぱいの貧しい奴は、発想も貧しいと!!」


「偏見じゃい!! それはおっぱいの貧しい人への偏見じゃい!! それならこっちのボインボインが言ったら信じるんか!!」


 なんか真面目な流れだったのに小休止。

 女修道士シスターを前に出して、どうなのよと迫る女エルフ。胸の大小で人間性を語られれば、確かにちょっとカチンとくるのは無理もない。


 照れ照れと頬を掻く女修道士。

 女エルフと違って貧しくないお胸。いや、とっても豊か。ファンタジー世界でも、これほど見事に育ったパイオツはないですよと、一等賞か特賞を貰える見事なそれをぶら下げて、彼女は大性郷の前で面はゆそうに笑った。


 ギンとその眉間に深い皺が寄る。


「いけない!! ダメだよ、タケルくんにそんなものを見せたら!!」


「いやけど、こいつがおっぱいがどうとか――」


「ダブル!! タイヘーン!!」


 何ごとと思った時にはもう遅い。センシティブは突然に。絶叫と共に腰を前に突き出した大性郷。その股間で、何かが激しく渦巻いていた。


 ぐるぐると回るそれは赤い風車。

 腰に巻いたベルトがずれ落ちて股間の前に収まるや、激しい音を伴ってベルトの中の風車が回転していた。いったいそれがなんなのか、どういうものかは分からない。

 ただ、またトンチキな話がはじまるんだなということだけは分かる。


「わわわ!! 大変だ!! タケルくんのダブルタイヘーンが動いちゃった!!」


「……なんなのよいったい」


「さっきも言ったけれど、タケルくんは瀕死の状態を改造人間になることで助かったんだ。けど、改造人間になるっていうことは、戦う力を得るってことでもある。彼の中には、彼の優しい性格とは別に、もう一つ――冷酷な戦闘マシーンとしての性格が眠っているんだよ」


「そんな真面目な話だったっけこれ!!」


 その冷酷な戦闘マシーンの血が、どうして今騒いだのか。なんで女修道士シスターのおっぱいを前にして発動してしまったのか。

 そんなシリアスな展開なんてなかったはずなのに。


 どういうことよと女エルフが雄叫びを上げ、女修道士たちが青い顔をする。

 暗夜に沈む破壊神の都市。その路上で、大性郷はうなり声をあげると、その回転するベルトの前に手を添える。


 そこから半月上に腕を回せば。


「……変態!!」


「だからお前、言葉を選んで!!」


 大性郷は白い光を背負って輝くと、暗い夜空に向かって飛び上がった。

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