第1089話 どエルフさんと頑張れタケルどん

【前回のあらすじ】


 銀色のスケルトン軍団を撃退した女エルフ達。

 戦いを通してよしみを通じた攻カク○頭隊の少佐。詳細は故あって話すことはできないが、彼女と女エルフ達が同じ方向を向いていることは分かり合えた。


 女エルフ達をはめようとしている銀色のスケルトン軍団。

 それを止めようと、女エルフも、少佐も、キングエルフも動いている。この敵地のただ中にあって、こうして一堂に志を同じくする者達が集まれたのは偶然か、それとも必然なのか。


 男騎士を失った悲しみも今はしばし忘れ、力強い仲間を得たことを心強く思う女エルフ。そんな彼女達の耳に、またしても新たな登場人物の声が届く――。


「こらぁーっ!! こんな夜中になにやってるのー!! 近所迷惑でしょー!!」


 人類の命運を左右する大激闘。その最中のやりとりとしては、いささか気の抜けたその声の主。はたして、彼は女エルフ達の味方か、それとも敵なのか。


◇ ◇ ◇ ◇


 その赤い流線型のシルエットはサイバーパンクな未来の都市の夜によく似合った。

 まるで流れ星のように道路を駆け抜けてくる紅色の弾丸。テールランプは夜闇をバターナイフのように切り裂き蕩けさせると、長くまばゆい尾を引いた。


 排気音を置き去りにしてこちらに向かってくるそれに少佐の顔が引きつる。


「なぁっ!! まさか、もう嗅ぎつけられたというのか!!」


「どういうことなのムラクモ!!」


 女エルフの声はしかし、彼らの元にたどり着いた赤い流線型のそれと、少し遅れて到着した爆音によってかき消された。

 急ブレーキによりアスファルトを削って焦げたタイヤが白煙をくゆらせる。


 甘ったるいような苦いようなその匂いに一堂が顔をしかめる中、その赤いフォルムが躍動する。それは、まるでこれまで前方に倒れていたかのように起き上がると、天に向かって起立した。


 天を突く赤い巨体。

 ホイールを掴んでいた銀色の枝が分かれたかと思えば腕と脚へと変わる。

 ぐるりとその頭のてっぺんで揺らめいたのは白黒の目玉。

 そして、愛嬌のある顔――。


「お前らだな!! 知恵の神アリスト・F・テレスからの刺客は!! まったく、デラえもんめ!! まだ僕たち破壊神の陣営を倒すことを諦めていないのか!!」


「……嘘、でしょ?」


「そんな、その顔はまさか、あの時に見た」


「連戦ですよ。そんなの、無茶ですよ……」


「だぞぉ!! かっこいーんだぞ!! 凄いんだぞ!!」


 その姿を、女エルフ達は一度だけ見たことがある。


 知恵の神の根城。熱帯密林都市ア・マゾ・ン。

 そこを守護するマザーコンピューターの前。

 彼らから、こいつこそがこの地における破壊神の肝心要。最も破壊神にとって縁深き、頑張れロ○コン村を守護する一機――。


 ELF離れしたそのフォルム、見まごうはずがない。


「なんにしても、これ以上ダイナモ市で好き放題暴れるっていうなら、この僕が許さないぞ!! さぁ、かかってこい、デラえもんの仲間たちめ!! この破壊神さまが造りし最高のロボット――ロ○コンが相手だ!!」


「「「「がんばれ!! ロ○コン!!」」」」


 女エルフ達の目の前に現われたのは他でもない、この地のラスボス的存在。

 破壊神の使徒ロ○コンであった。


 思いがけない大物との遭遇にどうしていいか分からなくて一同が固まる。やはりというかなんというか、映像で見た時から感じていたが、ロ○コンどうにも絶妙に締まらない空気を持ったロボットである。


 そんな微妙な沈黙を、いったいどう解釈したのだろうか、ぴぃと何やらやかんが鳴るような音がしたかと思えば、ロ○コンが腕を振り上げた。


「どうした!! かかって来ないのか!! だったらこっちから行くぞ!!」


「えっ、あっ、ちょっと!!」


「僕のことをポンコツロボットだと思ったら大間違いだ!! 僕だって、やればでき――うわぁああああっ!!」


 ロ○コン、何もない場所で脚をもつれさせてこける。

 いや、それだけではない。そのまま勢いよく、後ろに倒れて後頭部強打。からの、のたうち回った先で顔面を瓦礫に激突。飛び起きようとした所で、ポールで股間を強打からの、白目を剥いての転倒。


 再び、先ほど走ってきたときと同じ前傾姿勢になったロ○コン。

 やって来たときには良い感じに煙を撒いて、なんだか超能力アニメに出てくる暴走族少年が乗るバイクみたいだったのに――どうしたことだろうか。


「……あの、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫。大丈夫だから。僕は強いんだ。がんばればなんでもできるんだ」


「めちゃくちゃ強がり言ってる」


 そんな強がりにダメ押しのように、どこからとも無くふってくる瓦礫。こぶし大の大きな岩を頭部に喰らったロ○コン。


 鋼の身体のおかげだろう、人間だったらひとたまりも無い一撃を食らいながらも、特におかしな様子はない。見かけ上、たしかにたいした怪我はないようだった。


 だが――。


「うっ、うっ、うぐぅっ……」


「ちょっと、貴方、本当に大丈夫? 強がっていない?」


「強がってなんか、強がって、なんがぁ……うわああぁああああん!!」


 心の方は大丈夫じゃなかった。トドメの一撃で、すっかりと心が壊れてしまったらしいロ○コン。さきほどまでの威勢も威厳もどこへやらだ。


 いや、最初に現われた時からあったかどうか。


「どうして僕はこうもダメなんだ!! なにをやっても空回り!! 街の平和一つ守れやしない!! あぁん、もう嫌になっちゃうよ!!」


「そ、そんなことないわよ。貴方、立派よ、よくわからないけれど」


「そうですよ。こんな夜中に、わざわざ見回りだなんてご立派ですよ。街のために頑張っていらっしゃるのは、見ればすぐに分かります」


「けどまぁ、確かにちょっと心配になる部分もあるというか」


「どういう素材で出来ているんだぞ? またELFとは違う感じなんだぞ? これはこれで知的好奇心をそそられるんだぞ!! すごいんだぞ!!」


「わぁああん!! ほっといてよ、僕なんて、どうせどうせ!!」


 そう言って暴れるかと思いきや、体育座りで拗ねたままのロ○コン。

 敵のボス。どんなに厄介な男かと思いきや、会ってみるとこれがまた、違う意味で厄介な感じ。いや、厄介というか放っておけないというか。


 本当にこれが自分たちの倒さなくちゃいけない巨悪の首魁なのか。

 そんな疑念に女エルフ達はたちどころに囚われた。


 ただし、一人冷ややかに時局を見守る、少佐を除いて――。


「ロボ○ン。お人好しで良い子ちゃんのお前が、どうしてこんな時間に街をうろついている。いつもならもうおねむの時間じゃないのか?」


「言い方に対してセリフの内容がトンチキ過ぎる」


「僕だって、もう寝たいよ!! 夜中に街を出歩くなんて怖いさ!! けど、仕方ないだろう!! 居なくなっちゃったんだから!!」


 居なくなった。

 いったい誰が。


 その時、またしても夜空に高らかに排気音が木霊する。

 ロ○コンの奏でたそれとはまた違う、野太くそして力強い音色が、女エルフ達を包んでいた緊張と静寂を打ち破った。


「せっかく元気になってきたのに。記憶はまだ戻っていないけれど、最近はよく笑ってくれるようになったんだよ。なのに、大陸の外からやって来た侵入者の顔を見たら、胸騒ぎがするって」


「……胸騒ぎだと?」


「侵入者って、もしかして私たちのこと?」


「うぅん? なんかね、鎧を着たお兄さんを見たら、急に怖い顔をして――」


 男騎士のことだろうか。


 彼を見て、どうして急に胸騒ぎがするのか。

 神々の命を受けて戦う勇者だからか。

 いや、男騎士がその役目を担うようになったのはここ最近のこと。

 彼の名前は知られていても、その姿が知られている訳ではない。かつて出会った偽物も、微妙に彼の特徴を捉え切れていなかった。


 ならば男騎士を見て胸騒ぎがするとは――。


「ティトの古くからの知り合い?」


「けど、こんな南の大陸に、居るのでしょうか」


「待ってください、さっきロ○コンは体調がよくなったって言いませんでしたか?」


「だぞ、何か理由があるんだぞ?」


 新女王とワンコ教授の問いにロ○コンが顔を上げる。

 どうしてロボットの瞳から涙が流れるのか。大粒の涙をこぼしながらも、赤いポンコツロボットは、こくりと彼女達の言葉に頷いた。


「数年前にこの大陸に流れ着いたんだ。ボロボロで、記憶も失っていて、名前も分からなかったんだ」


「大陸に流れ着いた」


「最初は助からないとみんな思ったんだ。けれど、ドクターオクトパスくんが、改造人間にすればワンチャン生きながらえられるって」


「改造人間になれば生きながらえられる」


「手術は成功して、無事に彼は蘇った。けど、記憶は失ったままだ。そんな彼を、僕たちはこの南の島の新しい住人として迎え入れたんだ。新しい名前を贈って――」


 星の瞬きの中に一条の流れ星が混じる。

 いや、それはバイクのヘッドライトが作った光の筋。

 それと共に、空中に現われたのは見事な巨体。


 野太い腕、丸太のような太もも、象のような大きな腹、いかつい顔。


 そして、ピッチリとしたライダースーツの下にも、はっきりとその形が分かるというか、あきらかに膨れている――股間!!


「ロ○コン!! 襲われているのか!! 助けに来たぞ!!」


「もうっ!! どこ言ってたのさ、タケルくん!!」


 タケルくんと呼ばれたその男は、ロボットが寄宿する家の子供というにはあまりにも老けていて、逞しく、そして、気骨に満ちた顔をしていた。

 そう、まるで国を滅ぼし建て直すような、偉大な男の気骨に。


 男が天に向かって猿叫を上げる。


「チェストォオオオオオオ!!」


「まさか、その叫び声は!!」


「嘘でしょ、あの人、死んだはずじゃ!!」


 黒いバイクに跨がって現われた巨漢の大男の名を女エルフは知っている。男騎士の古い友人で、東の島国を導いた偉大な指導者、そして、死してなお女エルフ達を助けた恩人。


 革命の礎となり死んだはずのその男は、なぜか南の大陸に生きていた。


「我が恩人であるロ○コンに手をかけるならこの私――性郷猛が許さん!!」


「「「「「性郷どん!!」」」」」


 名と、姿と、ノリを若干変えて。

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