第1087話 どエルフさんと四つ巴

【前回のあらすじ】


 キングエルフ巨大化する。


 ワイバーンに変身した銀色のスケルトンに圧倒される女エルフ達。そんな彼女達とは別にデビルほにゃンダムと戦っていたキングエルフ。


 どうにも動きが無いことを不穏に感じていた女エルフ。その不安は的中。なんと彼は、デビルほにゃンダムに生体ユニットとして取り込まれてしまった。


 自己増殖タイプのロボットに味方が吸収されるのは王道展開。

 そして、主人公に近しい人間、特に血を分けた兄妹が囚われるのは激アツ。


 しかし――。


「くそっ!! この俺でいやらしいことをするんだな!! 同人誌みたいに!! エロ同人誌みたいに!!」


「需要がねぇー!!」


 むくつけきおっさん、ガチムチの男エルフではちょっと需要がなかった。

 たとえパロ元でも実の兄が生体ユニットにされていたとしても、ちょっと勘弁して欲しいチョイスだった。


 触手でネチョるにしても、もっとこう居るやろ。

 せっかくおあつらえ向きにエッチな魔法少女になったキャラクターも居るのに。


 なんにしてもキングエルフを取り込んだデビルほにゃンダムは、さらに機械鎧として進化。一度大きな繭を作って、自己進化を促進すると、その外観を大きく変えた。


 そう――。


「……そんな、嘘でしょ?」


「えぇっ、そ、そんなバカな……」


「おいおいマジかよ。聞いてないぞ」


「そんな、キングエルフさん!!」


『デビルほにゃンダムをさらに完全な機械鎧にするために。より、人間に近い機械鎧として完成するために。そして、完成した姿が、この――ビックキングエルフ!!』


 ほんともうどえらく大きく。


 巨大なキングエルフ――ビッグキングエルフがここに爆誕した。


◇ ◇ ◇ ◇


「ちょっと!! あんた何してんのよ!! なにそんなに大きくなってんの!!」


『……なんでやろなぁ』


 真面目にやって来たからよと返したくなるような、とぼけたことを言うビックキングエルフ。デビルほにゃンダムに生体ユニットとして捉えられたにしては、随分と余裕なことである。


 じゃぁ、一安心かと言われればもちろんそんなことはない。

 摩天楼のように突如としてダイナモ市の夜空にそびえ立ったエルフの巨人は、女エルフを見つけるや、咆哮を上げて襲いかかってきた。


 完全に紫のアレである。


 とはいえ、大ぶりの突進攻撃。訳もなく女エルフはそれを回避する。すれ違いざま、彼女は魔法少女ステッキを肉親に向けると、躊躇無くその首筋に放った。


 直撃。

 肉が焼けるかと思いきや中身はしっかりと鋼で出来ている。かるく焦げ付いた装甲は、すぐに自己進化ロボットの真骨頂、自己修復機能によって光沢を取り戻した。


 とぼけた展開と格好にかかわらず、厄介なことになった。


『すまないフェラリア。私のミスだ。どうもこのロボットのコントロールは、デビルほにゃンダム側にあり、私からではどうすることもできない』


「ほんと、なにやってるのよもうっ!!」


『なんとか私の方で、コントロールを奪えないか試行錯誤はしてみるが、すぐに皆を連れて逃げてくれ』


「おっと、そうは問屋が卸すかな?」


 ビックキングエルフの頭上、月を背にして飛ぶ影が見える。

 銀色の翼に赤い瞳。けれどもワイバーンと言うには前足が発達している。

 ついでに言えばその身体も、これまで女エルフ達に向かってきたものより、一回りほど大きかった。


 ドラゴン。

 銀色のドラゴンが冷たい息を吐き出しながら、女エルフ達を見下ろしている。

 また、そいつが発した声色には、間違いなく男騎士の面影があった。


「ティトの偽物!! まさか、これもアンタが!!」


「その通り。お前達がダイナモ市に潜入した隙を狙って、封印されていた機械鎧の一つを復活させてもらった。まさかそれが生体ユニットを取り込んで、このようなことになるとは思ってもみなかったがな……」


 夜空に響くドラゴンの忍び笑い。

 相変わらず、彼がどの陣営の手のモノかは分からない。

 ただ、ここまで女エルフ達を追い詰めたのだ実力は本物だろう。男騎士の不在に加えて、キングエルフまで奪われたのはかなり痛い。


 ワイバーンの群れに襲われた時よりも、事態は確実に悪化している。

 どう切り抜けるか。女エルフ、そして、宇宙戦艦オーカマのクルーに戦慄が走る。


「このまま、我々にとって都合の良いように動いて貰おうかなと思っていたが、創造神が介入してきたのならまた話は違ってくる。ここで死んで貰おうか――この時代の勇者パーティーよ!!」


「くっ、貴方、いったいティトをどうしたの!! まさかとは思うけれど!!」


「知ってどうする。これからまるで羽虫のように踏み潰される存在だというのに」


 女エルフ達の頭上で、ビックキングエルフの身体が躍動する。

 その巨体には似合わない、見事な動きのキレを見せて、彼は大きくその場に舞い上がると、地面に向かってその踵を向けた。


 地面を突き刺すようなビックキングエルフの一撃。

 あわや、これまでかと女エルフ達が目を剥いたその時。


「おっと、その話、是非とも私も聞かせて貰いたい所だな」


 聞き覚えのある女の声がしたかと思えば、ビックキングエルフの足があらぬ方向にねじ曲がった。いや、自分からねじ曲げたというべきだろうか。


 一時的にキングエルフが、機械鎧のコントロールを取り戻したのか。

 なんにしても危機一髪。


 それだけではない。


「……な、なんだと!? 私の機械竜軍団が!!」


「視覚情報から電脳をハックさせてもらった。めまぐるしく変わる状況に、彼らは対応することが出来ず、きりもみしてその場に落下する。そういうお前も、気をつけていないとハックされるぞ。このウィルスは、お前達が使っている読心魔法を媒体にして伝搬・発動するのだからな……」


 ぐぅっと唸って男騎士に化けていた機械のドラゴンが空でよろめく。

 もつれた翼の動きは、一度乱れればもう戻らない。


 ふらふらと、身体を揺らして偽男騎士だったものがに急降下していく――。


 それを眺めるのは、女エルフ達が泊っていたカプセルホテルの屋上に佇む女。


 むっちりとした身体をラバースーツで包み込んだ、エロスと荒々しさを兼ね備えたそのELFを、女エルフ達は知っている――。


「なんで、ここにお前がいるの、攻カク○頭隊!!」


「……少し、予定が変わったのでな。ここでモーラさん達に倒れられては困るのだ」


 女エルフ、宇宙戦艦オーカマ、謎の銀色のスケルトン軍団、そして攻カク○頭隊。


 三つ巴ならぬ四つ巴。

 いよいよ、戦局は混乱の様相を呈してきた。


「さて、それでは――もう少し漁夫の利を漁らせて貰うとするかな」


 そう言って少佐がビルの床を蹴る。そのまま夜闇に宙返りして飛び込んだ彼女は、器用にビルの壁や、看板を蹴って、ビックキングエルフに肉薄するのだった。

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