第1085話 新女王さんと魔法少女ジェネレーション

【前回のあらすじ】


 君も魔法少女になれる!!(特デカ虹文字)


 そんな感じであおられて、魔法少女に変身するハメになった新女王。

 偽男騎士の攻防から逃げ切り、デビルほにゃンダムの攻撃を躱しながら戦うには、新女王を抱えていてはちょっときつい。そんな女エルフの思惑から、彼女は再び夜のダイナモ市の宙に放り投げられた。


 確かに過去に新女王は魔法少女に変身している。


 それは女エルフからアイテムを借り受けての一時的な変身という、魔法少女モノで一回くらいはある、モブキャラがメインになる感じの変身。

 実力で新女王が魔法少女に変身したわけでは断じてない。


 正直、それを引き合いに出して、大丈夫と言われてもしっくりこないのは仕方ない。しかし、今は迷っている余裕なんてなかった。


 自分の殻を破る時は往々にして突然やってくる。それも、それを越える事ができなければ死ぬというような、抜き差しならない状況で襲いかかってくるモノだ。

 それに立ち向かい、越えてこそ見えてくる自分がある。

 あるいは惨めに負け、その中に大切なモノを掴み取ることもある。


 なんにしても、ここが新女王にとっての大一番。

 破れかぶれではあるが、彼女は魔法少女になる決意を固めると、月下に叫んだ。


「お姉さま!! あぁ、お姉さまのお古の水着を装着して魔法少女になるとか、これってもうほとんどSE〇と言って過言ではないのではー!!」


「……ちゃっかり、変身の言葉覚えているじゃないのよ」


 酷すぎるそして久しぶりの変身呪文を――。


◇ ◇ ◇ ◇


 新女王の身体が光に包まれる。

 魔法少女の変身バンクには切っても切れないまばゆい光。身体のラインとか色んなモノを隠さなくちゃいけない、より不自然に降り注ぐギリモザ光線。

 純白の光を浴びて、新女王は今新たな姿に生まれ変わろうとしていた。


 前回変身した時には、新女王はピンクコスチューム――魔法少女モノの主役ポジの衣装を身に纏っていた。今回はどうかといえば、ちょっとカラーリングが違う。


 基調となるカラーは高貴さを現すパープル。いわゆるバイオレットヒロイン。

 ピンクが正統なメインヒロインなら、その対抗馬。ライバルポジションの魔法少女に与えられるカラーリング。

 そして、どちらかといえばピンクが少女然とした幼いディティールのコスチュームなのに対して、パープルは大人びたどこかエロティックな匂いが漂うコスチュームになることが多い。


 まさしくそのイメージ通り。

 怪しく黒光りするハイヒール。謎繊維。脚のラインはくっきり見えるのに、なぜか肌がまったく見えない濃いニーハイソックス。紫基調のスカート一体型のレオタードスーツ。しかも、腋や背中が丸出し。なかなかの軽装甲であった。


 可愛らしく頭に乗っかったのは帽子ではなくリボン。


 間違いない――。


「これ!! 魔法少女でもエッチなのに出てくる方の奴だァ!!」


「……やれって言ったのは私だけれど、まさかそっちの方が出てくるとは」


 |エッチな方の魔法少女≪対魔忍が流行る前の奴≫!!

 魔法少女モノ全盛期の中でも、日夜触手や男の欲望と戦い続けた感じのコスチュームだった。まず間違いなく、安全安心フリフリタイプじゃない。デリケートタイプ。


 それも、布面積の割にセクシャルな感じが強い、本気で色々と攻めてくる感じの奴だった!!


 包まれているはずなのに、何故か恥ずかしいデリケートゾーンを押さえ込みながら、新女王がゆっくりと女エルフの方に降りてくる。バイオレットヒロインにしては少しコミカルな表情を作って、あぁんと彼女は女エルフの背中に隠れた。


「違うんですお義姉ねえさま!! 私、こんな感じになろうとは思っていなくって!! もっとお義姉さまの隣に立っても違和感ないような、そういう感じのになりたかったんです!!」


「……いや、ある意味で違和感はないわよ」


 安心フリフリ、もっさりとしたお嬢様タイプの魔法少女の隣には、こういうちょっときわどくてミステリアスなコスチュームの、クール魔法少女が割と映える。

 フェ○トちゃんしかり、ほむ○ちゃんしかり、コレクターの方のア○ちゃんしかり。そういうものなのである。


 ゆるふわ系ピンク少女の隣に立つには、パープル系セクシー少女でなくてはいけない。これは歴史が証明しているのだ。


 いいね。


「もうこんなのお嫁に行けませんよォ!!」


「大丈夫。アンタはお婿さん貰う方なんだから――それより!!」


 視線を向けたのは、彼女達が飛び出してきたビルの方。紅色の瞳が光ったかと思えば、そこから飛び出してきたのは先ほど彼女達が吹き飛ばした偽男騎士だ。

 すっかりと人間の形を失った彼は、勢いよく飛び出すと大きな羽を広げる。


 ドラゴン――いや、ワイバーンの姿を取った銀色のバケモノは、大きな口を開いて女エルフと新女王に襲いかかった。


「このぉっ!! エリィ!! アンタも武器を取り出しなさい!!」


「えぇっ!? いきなりそんなことを言われても、どうしたらいいのか!!」


「大丈夫よ!! 心配しなくてもノリと勢いで幾らでも出るわ!!」


「そんな軽いアイテムだったんですかこれ!?」


 迫り来るワイバーンを得意のハイメガ粒子砲で蹴散らす。そんな女エルフの横で、新女王は武器を念じて取り出す。


 現われたのは大きな赤い槍。なるほど、これはやっぱりエッチな魔法少女の方。

 もうこれは逃げられないなと覚悟すると、新女王はそれを握りしめて、女エルフの前に出た。


「お義姉さま!! 前衛は私がやります!! 後方援護を頼みますね!!」


「いきなり直接戦闘は難易度が高いわよ!! 退がりなさいエリィ!!」


「大丈夫ですお義姉さま!! 武器の感じから、私、戦闘タイプのようなので!! それに、これでも剣術はもちろん、武器の扱いはそこそこ覚えがあるんですよ!!」


 以前、紅海で海賊衆と戦った時にも、そういえば剣を抜いて戦っていた新女王。

 パーティのお荷物とはいえ、戦えないことはないのだ。ファンタジー世界における一国の女王ともなれば、最低限自分の身を守る程度の武技は持ち合わせている。


 自分を守ることに手一杯で、いつもはそれを積極的に使うことはないが。


「魔法少女になったからには話は別です!! 魔法少女勝負中は、ダメージが蓄積されることはない――だったら、何も恐れることはありません!!」


 やぁという一声と共に槍を繰り出す新女王。

 機械の竜の喉を突き刺すと、それは空気を切って稲妻のように地面に向かって落下する。そのまま、ワイバーンの身体を地面に縫い付けると、強烈な衝撃音と共に巨大なクレーターをその場に生み出した。


 なるほど、結構これは頼もしい魔法少女のようだ。

 女エルフが新女王のそんな立ち回りに感心した次の瞬間――。


「ダメ!! エリィ、回避して!!」


「……えぇっ!?」


 もう一体、銀色のワイバーンが新女王の背後から躍りかかった。

 いや、一体ではない。次々に、その銀色の竜は、女エルフ達が逃げ出したホテルの扉から、矢のように飛び出してきたのだった。


 絶対絶命である。

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