第1044話 ど勇者さんとなんか武者っぽい

【前回のあらすじ】


 宇宙戦艦オーカマを乗っ取った我らがキングエルフ。

 流石のエルフィングフリーマン(謎)。有無を言わせぬ強引な理論で、お堅い艦長を黙らせるとまんまとリーダーポジションをせしめるのだった。


 そんなこんなで、さっそく艦隊を掌握したキングエルフが行ったのは、機械鎧のパイロットへの割り振り。


「よし!! そこのなんか主人公のライバルっぽい感じのお前!! 仮面付けてる格好つけ!! お前の機体はあのピンクの奴だ!!」


 仮面の騎士にキングエルフが割り当てたのはピンクの機械鎧。

 他のモノより一回り小さく、小回りが利きそうなそれは、なるほど主人公のライバル機っぽい機体には間違いなかった。

 仮面の騎士の元ネタ的にも、ばっちりハマったカラーリング。

 ちょっとマゼンタっぽいがそこは目を瞑ることにした――。


「いや、これ主人公機じゃねえかよ。しかも一世を風靡した超有名な奴」


「○野縛りとみせかけて、いきなり他の宇宙ロボットモノは卑怯ですよ」


 まぁ、いいじゃないですか。


 仮面でピンクの機体乗りの復讐者。

 そもそもからして狙っている訳ですし。


 あと、そもそもあの作品は、そういうお約束を擦っていくパロディ的な部分が面白い――って、話じゃないですか。まだ見れてませんけれど。


「「せめてちゃんと履修してからやれ!!」」


◆ ◆ ◆ ◆


「まぁ、別に乗れればなんでもいいけれどさ」


「よし。決まりだな。戦闘までによく乗りこなしておけよ。こういう専用機と違って量産機っぽい奴は、パイロットの技量が如実に出るからな。むしろ、玄人にはこっちの方がウケがいいし評価が厳しくなる」


「変なプレッシャーかけんなよ」


「赤い彗星になるか、真紅の稲妻になるか、それともアカハナになるか。全てはお前の腕次第だ」


「なんでそこまで宇宙世紀に詳しいくせに、変化球投げてくんだよ」


 まぁいいですよやりますよと、さっそくコクピットに乗り込む仮面の騎士。

 機械鎧の装甲を蹴って、二階以上の距離を登り切った彼に、おぉと少年勇者が声を上げる。キングエルフも、なかなかやるではないかと首を振った。


 重たい起動音と共にその目が光る。緑色の光を発したピンクの機体――メンズエステは、まるで感触を確かめるようにその手を何度も握っては開きを繰り返した。


「ふぅん。なんか思ったよりも操作は簡単だな。座って念じたら思うように動いてくれるとはこりゃいいや。一つ持って帰りたいくらいだぜ」


「コクピット内部には戦闘シュミレーターも搭載されている。動作チェックが終わったらそれで一通り戦闘訓練をしてみるといい」


 立ち直った艦長にへいへいと軽い返事をする仮面の騎士。

 すぐに瞳から光が消えた所を見るに、さっさと戦闘シュミレーターに移行したらしい。戦闘狂の仮面の騎士らしいと言えば彼らしい行動だった。


 ただ、当初の目的をすっかりと忘れているのも彼らしい。


「……おあつらえの機体を与えてやったんだから、さっさと裏切って宇宙戦艦から出て行けばいいのに」


「強奪フラグですよね。気づいてないんでしょうか」


「……おほ、なんだこれ、すっげぇな。これで模擬戦闘なのかよ。おぉい、坊や、この戦闘シュミレーターすげえぞ。お前も早く乗ってみろ」


 敵の試作機を奪取するという鉄板展開をすっかり忘れて機械鎧に夢中になる。どうもこの仮面の騎士は、元ネタよりは頭が回らないようだった。


 まぁ、パロディに回されるとこういう役回りよな。

 妙な納得をするキングエルフたち。


「それじゃ次。なんかティトを差し置いて主人公っぽいそこのお前」


「主人公っぽいって。そんな言い方あんまりじゃないですか」


「うむ、その口答えもなんだか主人公っぽいぞ。ひねくれててグッドだ」


 なんて褒め方だと思いながらも前に出る少年勇者。

 こう見えて、彼も若くしてそれなりに苦労を重ねてきている。

 こんなくだらないトンチキは彼もはじめてだが、それでも目の前の男に変にたてついても、話が長引くだけなのは直感で分かった。


 色々と思う所はあってもここは黙って受け入れよう。

 まぁ、言ってもただ自分が乗る機械鎧を見繕うだけだ。

 命までは取られないだろう。


 やれやれとため息混じりに彼は視線を格納庫に彷徨わせる。すると、その視界になんともおあつらえ向きな、トリコロールの機体が目に入った。


「うーん、やっぱり僕はあの白と青と赤のマシンになるんですかね」


「まぁ、そうなるだろうな。お前みたいな少年で選ばれし勇者には適切な乗り物だろう。異世界から呼ばれたみたいな感じもあると尚良いのだが」


「それはちょっとリアル指向からズレていません?」


 ごく平凡という訳ではないけれど、内向的で思春期拗らせた等身大の少年。

 そういうのが乗るにはぴったりの白くて青くて赤い機械鎧が、でーんと格納庫の中央には設置されていた。武装は思ったよりも少ないが、そのシンプルさ故に強キャラの匂いが漂ってくる渋い機体。


 昔から、主人公機はシンプルな方が良いのだ。

 ごてごてしたのはそれこそ、後半で追加装甲でマシマシしたり、カスタマイズしたり、新型機に乗り換えたりいくらだってできるのだ。

 それよりスマートなかっこよさを感じられる方がいい。


 同様に主人公もあまり特殊じゃない方がいい。

 普通にそこら辺にいそうな繊細な少年や青年が、過酷な運命を背負わされて戦うからこそ人の心をうつのだ。


 勇者でなくたっていい、選ばれし者でなくてもいい、そこにリアルがあれば――。


「なにを言っているんだ。あんな独特なフォルムの機械鎧、勇者じゃなかったら逆に恥ずかしいだろう」


「……え? あの中央にある奴じゃないんですか?」


「違う違う。その下にあるほら、三頭身くらいの――」


 違った。

 もっと小さいのがその下にあった。

 スーパーな大戦でもないのに、既にデフォルメ済みの白くて青くて赤くて武者っぽい機体がそこには格納されていた。


 武者っぽいけど、頑駄○ではないロボットがそこに転がっていた。


「これ龍神○じゃないですか!!」


「そうだワ○ルよ」


「ワ○ルじゃないです、アレックスです!! 嫌ですよ、ロボットじゃないでしょこれ!! スーパーの方にもカテゴライズ難しい奴じゃないですか!!」


「いや、そんなことはない。ちゃんと参戦している」


「スパ○ボの参戦経歴の有無でありかなしかを論じないでください!!」


『ワ○ルよ!! 今はそんなことを言っている場合じゃない!! 世界の危機なんだ!!』


「だからワ○ルじゃないって!! ナチュラルに喋ったな機械鎧!!」


 ロボットなのにガッツリ金属の剣でチャンバラしちゃう感じの奴。

 意思とか宿していて、時に主人公を導いちゃう感じの機械鎧がそこには転がっていた。そして、それも確かに主人公機で白くて青くて赤い奴だった。

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