第1041話 ど勇者さんとセイソ・マス

【前回のあらすじ】


 南の国の太守の娘。

 白百合女王国の第三王女。

 そして、東の島国により発掘された神代兵器。


 国家運営の要が次々とクルーとして登場する事態に、少し肝を冷やした少年勇者。しかし今は人類の存亡をかけた危難の時、そのような甘いことは言っていられない。


 そんなものかと納得したとき、ついに彼の前に最後のクルーが登場する。

 赤い服を身に纏ったそいつこそは――。


「最後に紹介しよう。このクルー達をまとめているリーダー」


「……この方は、まさか」


「そう。かの中央大陸連邦共和国騎士団第二部隊隊長カーネギッシュどの――の妹。セイソ・マスさんだ」


 女装した仮面の騎士ことエドワルドであった。


 ちなみに元ネタ分かりますよね?(幼年期の偽名エドワウ・マスが元ネタです)


◆ ◆ ◆ ◆


 説明しよう。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 暗黒大陸からの刺客こと仮面の騎士。彼はまんまと凶騎士を罠にはめると彼に成り代わってオーカマに乗り込むことに成功した。


 かと思いきや。


「……仮面被ったくらいじゃ誤魔化せないんじゃねえこれ?」


 同じ仮面キャラである凶騎士と入れ替われば楽に済むと思っていたが大誤算。

 かなり二人の体格には差があった。


 なよなよとした言動が見受けられる凶騎士だが、身長はけっこうある、筋肉量もそれなりだ。ちょっと耽美な感じのある仮面騎士とは、一回りほど体格が違った。


 突っ込まれれば即バレる。どうしたものかと思案した仮面騎士は――。


「よし、こいつの弟ということで一つ手を打とう」


 凶騎士の弟を名乗ることにした。

 しかし、それが間違いだった。


「え、カーネギッシュどのには妹はいらっしゃいますが弟は」


 抜かった。

 凶騎士の家族関係を仮面の騎士は把握していなかった。

 その場をしのげれば――くらいのつもりで嘘を吐いたのが命取りだった。


 前の話でもちょいちょい触れているが、人類側の情報をけっこう把握している戦艦オーカマのスタッフ達。すんなりとその事実関係の矛盾を指摘した。


 これにすぐさま仮面の騎士。


「いや、実は世間的には女ということになっているが、実際には男なんだ」


 さらに嘘を重ねる。

 無理くり言いくるめて押し切ろうとした。


「いや、既に中央連邦共和国の良家に嫁いで、三男二女に恵まれていると」


「……女です」


 しかしオーカマ側が押さえている情報の方が多かった。

 言い逃れできなくなった仮面の騎士は、仕方なく凶騎士の妹を名乗ったのだ。

 仮面を被り、赤いドレスを着て、すね毛を丁寧に処理しながら。


 そう、そんな訳で仮面の騎士は美少女になってしまったのだ!!


 まさかこんなことになろうとはいったい誰が思ったか。

 仮面の騎士も思っていなかった。

 少年勇者も想像しなかった。

 作者も想定していなかった。


「「……どうしてこんなことに」」


 正体を隠して組織に侵入するのは古来からの伝統。まさしく今、男騎士達も違う場所でやっていることだが――性別まで偽ることはめずらしい。

 なかなかマニアックでコアな展開である。


 とはいえ仮面の騎士にも暗黒大陸陣営を建て直すという目的がある。

 ちょっとやそっとのことでは諦めるつもりは――。


「あの、どなたか存じ上げませんし、どういうつもりか分かりませんけれど、その女装は流石に無理があると。大丈夫ですか?」


「……大丈夫じゃねえ、今すぐやめれるものならやめてぇ」


「やめればいいじゃないですか」


「いいかな? 俺、ここまで身体を張るつもりはなかったんだよ……」


 ダメだった。もうけっこう限界いっぱいいっぱいだった。

 少年勇者に背中を押されて、簡単に諦めてしまいそうな感じだった。


 人間、羞恥心には勝てない。

 女エルフがどんな目にあってもケロリとしているから、羞恥プレイへの反応がバカになっているが、いい歳したおっさんの女装とか拷問以外のなにものでもなかった。


 そして、割ときれいめに化けれているのが余計に哀れを誘った。

 きっと頑張ったのだろうなと、想像させる女装の仕上がりであった。


「という訳で、以上がパイロットだ。君たちには機械鎧に乗ってこれから戦ってもらうことになる。どうか人類の未来を守るために協力して欲しい」


「……ところで、いったい誰と戦うんです」


「そうだぜ。そこん所がちょっと聞きたかったんだ。魔神シリコーンは封印されたんだろう。いったい誰が敵になるって言うんだよ」


 仮面の騎士の目的はあくまで暗黒大陸を利することにある。

 今回の侵入も、対立している七柱の神々の力を削ぐのが目的だ。


 時機を見計らって仮面の騎士は寝返る。

 あるいは、七柱の神々と対立している勢力と手を組む。

 この危機を利用してなんとしてでも中央大陸再侵攻の足がかりを見つけたい。そんなことを内心では考えていた。


 いい歳して女装なんてしたのだ。意気込みもひとしおだ。

 仮面の下から強烈なプレッシャーを放って、彼は艦長を問い詰めた。


 それに対して、そうだな説明する必要があるだろうと艦長は頷く。


「実は、この事は対外的には伏せていた。ただでさえ暗黒神との戦いで神経質になっている人類に対して、余計なプレッシャーをかけるのはどうかと思ってな」


「暗黒神との戦いに神経質?」


「……まさかシリコーン以外に敵対している神がいるっていうのか?」


「いる。しかも七柱の中に。この戦いは、七柱の神々による内紛だ。そして、だからこそ君たち、現在の人類の手助けが必要になってくる」


「……ほう、そんな話を聞かされては、この私もついていかねばなるまい!!」


「「「誰だ!!」」」


 その時、艦内に緊急事態を告げる警戒音が鳴り響く。

 点滅する赤いランプ。混線する艦内放送。そして、響くオペレーターの声。


『艦長!! 大変です!! 前方から高速接近する未確認飛行物体が!!』


「なにっ!! すぐに映像を映してくれ!!」


「……なにっ!!」


「こ、こいつはまさか!! あの最終決戦の!!」


 水色の光を脚から放って飛んでくるのは生身の身体。振り乱すのは金色の髪。太陽の光を浴びて、眩しく輝く白い肌。


 そしてふんどし。

 長い耳。


 そう!!

 戦艦オーカマに向かって飛んでくる、そいつの正体を私たちは知っている!!


「セクシー!! エルフ!!」


『高エネルギー反応の正体補足!! エルフ!! 空飛ぶエルフです!!』


「「「なにぃっ!?」」」


 キングエルフここに参戦。

 名前的にも、確かにこの宇宙世紀パロに参戦しそうな男であった。

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