第1040話 ど勇者くんと坊やだからさ
【前回のあらすじ】
不穏な展開こそあったが宇宙戦艦オーカマに乗艦した少年勇者。
艦長や艦橋スタッフに歓迎された彼は、すぐに自分と同じく請われてこの宇宙戦艦に乗ったメンバーと顔合わせする。
最初に出て来たのは褐色の肌の少女。
彼女はかつて少年勇者と共に戦った南の国の太守の娘こと戦乙女だった。
久しぶりの再会を懐かしむ二人。彼女のように、世界各地からいろいろなスタッフが何人も宇宙戦艦には搭乗しているらしい。
なんにしても知り合いとの再会にほっと息を吐く少年勇者。
しかし、そんな彼らを後ろから腕を組んで眺める、腕まくりした赤い服装の男の怪しい視線が射貫いていた。
いったい、ナニトロなんだ……。
「いや、まぁ、ゼータネタだとは思っていたけれど、本当にやるのこれ?」
◆ ◆ ◆ ◆
「続いてこちらは白百合女王国の第四王女ミレディどのだ」
「……よろしく」
「白百合女王国の王女さまですか? 大丈夫なんですか、そのような方をこんな命がけのミッションに参加させて」
自分も王族に連なる人物だがそれを棚に上げて少年勇者が言う。
先の戦乙女もそうだが、いささか参加したクルーが国の要人に偏りすぎではないだろうか。命に貴賤はないにしても、もっとバランス良く人材を採用するべきではないかとちょっと不安に思った。
そんな少年勇者の不安な視線に艦長は真顔を向ける。
戦に私情は持ち込むなとばかりの冷徹なそれに少年勇者もたまらず襟を正した。
「アレックスどの、パイロットに出自は関係ない。我々は、協力してくれると言う者をあまねくその手で拾い上げる。それが王族だろうと、奴隷だろうとそれは変わらない。人類の危機に立ち上がってくれた者の気持ちを、最大限に尊重するつもりだ」
「……そうですね、僕がどうかしていました」
「それにミレディどのは今回のミッションにとても意欲的だ。なみなみならぬ意気込みで事に挑んでくれている。その気持ちを尊重してやって欲しい」
すみませんでした。
そう言って第四王女に頭を下げる少年勇者。
彼は自分の不明を恥じた。
勇者としての実績やこれまでの経験に天狗にならないようにと思っていたのに、ついつい相手の気持ちを軽視した発言をしてしまった。
未熟。
至らなさに彼の目元が潤む。
まだまだ純情な少年である、思わず涙をこぼしてしまうのは仕方ない。
そんな彼の頬をそっと撫でて第四王女がその横を通り過ぎる。
なんて優しい人だろうか。そう思って、はっとした顔を少年勇者がした瞬間――。
「……お前を、殺す」
デデン!
デデンデデン!
緊張が少年勇者と第四王女の間に流れた。
なぜここでそんな物騒な言葉が出てくるのか。殺すのは人類の敵ではないのか。なにもかも分からなくなった横で、ぽんと少年勇者の肩を艦長が叩く。
「なぜか彼女は乗艦してからこの調子なんだ。ニヒルな殺し屋キャラクター的なモノを演じているんだよ」
「ニヒルな殺し屋キャラクター」
「あ、見てください。何か手を顔の前に当てて足を開いて眩しそうに」
それ以上はいけない。
厄介なパロディに行く前にと艦長が少年勇者の視線を逸らした。
続いて、出てきたのはボディコンなお姉さん。ボンキュッボン。この作品には珍しい女性的な身体付きの彼女は、少年主人公を見るなり妖艶な笑顔を向ける。
身につけているのは着物。
前襟を開いてその豊満な胸を見せつけると、彼女はにっと少年勇者に微笑んだ。
「あら、かわいい子ね。これから良い男になりそうな顔をしているわ。今から唾をつけておこうかしら」
「あっ、やっ、やめてください」
「反応までかわいらしい。ちょっとつまんじゃおうかな……」
縮こまる少年勇者。年相応の年齢らしく、まだそういう経験はないらしい。長らく同年代の女の子と一緒に冒険していたというのに潔癖なことである。
もうからかわないであげてくださいとすかさず止めに入ったのは戦乙女。
ごめんごめん可愛かったからと彼女は手を合せて謝った。
黒い髪を揺らして決めポーズをとるその女は、かつて男騎士たちと激戦を繰り広げた女。いや、正確には――。
「彼女は厳密には人間ではない。我々と同じ破壊神さまに作られた人間に近い別の存在。からくり娘、最初の原器の一機ことアシガラだ」
「破壊神さまから呼び出されるなんて何千年ぶりかしら。東の島国でぶらぶらしているのも性に合わなかったし、ちょうどよかったわ」
「……人間じゃないんですか、このおば」
「おば???」
「……お姉さんは?」
賢明な少年勇者は咄嗟に殺気を感じて言い換えた。
もし迂闊に言い切ってしまっていたら、それこそまた内紛が勃発する所だった。
キマった顔をこちらに向けるからくり娘。そんな彼女からひたすら視線を逸らして逃げる少年勇者。
かわいがりから一転した非難するようなその態度。
大人げないからやめなさいと、思わず艦長が止めに入った。
「そうだアシガラは人間じゃない。彼女は我々と同じロボット。いや、それよりも、遙かに高度な権限を与えられた存在だ」
「だったら、召集しても意味がないんじゃ」
「言っただろう、遙かに高度な権限を与えられたと。確かに君たちに乗って貰う機械鎧を扱うことはできないが、彼女にはやってもらうべき事がある」
「破壊神さまの危機とあっては、使徒の私も黙っちゃいられないわ。それに、人々の安寧を守るように言われているしねわ」
「……アシガラさん」
怖いが悪い人ではないようだ。
ちょっと怯えていた少年勇者が彼女に手を差し伸べる。それを握り返して、からくり娘はさっぱりとした笑顔を浮かべた。
「よろしくねアレックスくん。何か困ったことがあったらお姉さんに言うのよ」
「はい」
「ふふっ、それと……。十年経ってもお姉さんのことが忘れられないなら」
「あ、それは大丈夫です。僕、貧乳派なんで」
ずいぶんきっぱりとした断り方。
もうちょっと言い方もあるだろうに、よっぽどからくり娘が嫌なのか。
なんにしても、機先を潰されて何も言えないからくり娘から、そっと少年勇者は離れるのだった。これ以上、変に目をつけられるのはやめておこうとばかりに。
さて、いよいよほとんどのクルーと挨拶が終わったと思ったその時、赤い服を着た奴がふらりと少年勇者の前にやってくる。
「最後に紹介しよう。このクルー達をまとめているリーダーで、圧倒的なカリスマを放っているクルー」
「……この方は、まさか」
「そう。かの中央大陸連邦共和国騎士団第二部隊隊長カーネギッシュどの――の妹。セイソ・マスさんだ」
やけに筋肉質で胸板が厚く、不遜な顔をしたそいつは、艦長の紹介に合せてサングラスを外すと整った顔を少年勇者に向けた。
凜々しい顔立ち。
その甘いマスクに、女性クルーが悲鳴を上げてもおかしくない。
そう、もしも彼が男だったならば。
「……男ですよね」
「言っただろう、カーネギッシュの妹だと。私は女よ。ちょっと胸板が厚くって、身体がごつくって、声も低くて青髯も濃いけれど、間違いなく女なの」
「……いや、無理がないですか?」
無理があった。
とても、かなり、どん引きするほど、無理がある格好だった。
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