第1016話 ど凶戦士さんと立候補
【前回のあらすじ】
創造神オッサムの使者ブライト。
対するは、リーナス自由騎士団の若きホープ女軍師。
二人とも、大人にはなりきれないヤングアダルト。ブラジャーと呼ぶか呼ばないか、セクハラかセクハラじゃないか、みたいなくだらないやりとりを挟みつつ、ついにいろいろな真実があきらかになっていく。
破壊神に迫る謎の勢力。
彼が担っていた神としての役割。
人類と神を隔てるよう破壊の権能を行使していたライダーン。彼が倒されることになれば、神々は堰を切ったように人に干渉するようになるだろう。
女エルフ達がまさに破壊神を打倒しようとしている所に、突如として報じられたこの凶報。はたして、破壊神は人類の味方なのか。知恵の神アリスト・F・テレスが、女エルフ達を欺いているということなのか。
それとも――。
神々の陰謀が交錯する中央大陸。
はたして、中央連邦共和国騎士団とリーナス自由騎士団は、創造神の使徒達の申し出に、どう答えるのか。
◇ ◇ ◇ ◇
「破壊神ライダーンは、使徒として貴殿らも会ったからくり人形を保持している。それだけではない、神々が率いる軍勢として、私たちのようなからくり人形や数多くの兵器を、七つ柱の神々に供与している。かくいう私もその一体。そして、この宇宙戦艦オーカマもまたそのひとつだ」
「……そんな」
「しかしながら、からくり人形はその力を破壊神により設計の段階から制限されている。どうしてだか分かりますか?」
「さぁ、分かるわけがないじゃない。私たちは、破壊神ライダーンの役割も、その使徒の制限も、貴方に説明されて知ったんだから」
「使徒がそれだけの力を持っていたら、ライダーンさまが人類に干渉してしまう。詳しい経緯は省きますが、神々は現在の人類に不干渉という方針を遙か昔に建てています。今、魔神シリコーンの登場により、その例外はにわかに崩れつつありますが、それでも人に神が不必要なまでに影響を与えてはいけないのです」
神と人を隔てる立場にある破壊神。だからこそ、それが行使できる力は必要最低限にしなければならないということなのだろう。
それでも、一体で一個師団相手に戦うのだから、神の力とは恐ろしいものだ。
話は分かった。
だが、なぜそこで女軍師達の力が必要になってくるのかが分からない。
いや――。
そこは知略と軍略に長けた女軍師である。広範の事象については、三つの魔脳を操り、膨大な情報を精査する魔脳使いには劣る彼女だが、この手の軍事上の駆け引きや規律・歴史については感が働く。
「つまり、破壊神ライダーンの力を解放するには、私たち人類側の協力が必要。なにかしらの兵器を使用するための、キーになっているということね?」
「その通り」
艦長が頷く。
すると次の瞬間、彼の代わりに巨大な鋼の巨人がそこにそびえ立った。
立体映像。先ほどまで、巨大な男が現われたように見えていたが、それは白い木馬が空中に照射した映像に他ならなかった。そして、破壊神の使徒の代わりに、今度は鋼の巨人が、女軍師達の前に現われた。
姿は変わったが、聞こえてくるのは艦長の声――。
「これこそ破壊神ライダーンさまが鋳造した鋼の巨人。ひとたび腕を振り回せば、大地は燃え、海は蒸発する、強大な力を宿した機械鎧」
「……こいつはすごい。カツラギ、これは厄介なことになったぞ」
「あれだけの巨大な鎧、ガワを作るだけでも今の人類には不可能よ。神が造りたもうたというのは嘘じゃないわね」
「それで、いったい私たちはどうすればいいの!! その機械鎧に、私たちがどう関係するっていうの!!」
「もう分かっているだろう。破壊神の力を解放するのには、現在この世界のメインプレイヤーの座にある、人類の承認が必要――つまり」
その機械鎧に乗る人間が必要だ。
艦長は女軍師を筆頭に、その場に集まった人類に向かって言った。
「機械鎧の全ての機能を解除し、その力を十全に使うには、この胸部コクピットに人類が乗り込み操作する必要がある。頼む、この人類の危機に、どうか貴殿らの力を貸してはくれないだろうか。このままでは、破壊神ライダーンさまはこの世界の裏側に追いやられてしまうだろう」
「……そんな、けど、どうしたら」
「なるほど。そういうことならば僕がいこうかな。この手の荒事は、女の子たちには危険で任せられないからね」
女軍師たちの背中から声がする。出て来たのは、鹿毛色のマッシュルームヘアーを揺らしたピンクの騎士。相変わらず、壮絶にダサいセンスをこれでもかと発揮して、周りに妙な沈黙を振りまく男――。
第二騎士団隊長こと凶戦士カーネギッシュであった。
まさかここで彼が名乗りを上げるとは思っていなかった。
女軍師はもちろん、彼の上司の老将軍まで、何を言っているんだと声を荒げる。そんな前で、まぁ落ち着いてくれよと、凶戦士はそのふさふさの髪を揺らした。
ふぁさりと揺れるモンブラン色の髪。キューティクルが痛まないように細心の注意が払われた彼の髪は、はらはらとまるで繊細な細工のように揺れ動く。
なんでこんな些細な挙動の一つ二つが絶妙に気持ち悪いんだろう。
「首都リィンカーンの復興には、バルサ老の指揮能力は不可欠だ。同じく、無事な近隣都市との連携を円滑に進め、旅立ったティトくんたちをサポートするためにも、自由騎士団の面々も動かせない。となると、行くのは僕が適当だろう」
「いや、けど、カーネギッシュどのも、我々の立派な戦力」
「僕は指揮官としての能力は二流さ。そこに加えて、暗黒大陸は今回の戦いで疲弊している、しばらくは攻めてくることはないだろう。それなら、個人戦闘能力の高い僕を遊ばせておかず、この任務に向かわせるべきだ」
話の筋は通っていた。
確かに、全軍率いて激突した暗黒大陸と連邦共和国には、お互いに大軍を動かす余力は無い。一騎当千、このメンバーの中で最も強いのは間違いなく凶戦士だったが、それでも、連邦共和国騎士団にもリーナス自由騎士団にも、彼の代わりを務めることができる人材は幾らかいる。
それならば困難な任務にこの人材を投入しない手はない。
「しかし、いいのですか、カーネギッシュさん?」
「さっきも言っただろう。女の子たちにはこんな荒事を任せられないって。もちろん、君たちを侮っている訳じゃない。これは男としての責任感さ」
「とはいえ貴方は連邦共和国の将。ここにとどまって居た方が」
「僕はそもそも剣を振るうのが得意なだけの乱暴者さ。それに、僕があの船の中に潜り込めば、いざとなったら反旗を翻すことだってできる。奴らがまだ、完全に信頼できる存在だとは言えないからね」
ねぇ、危険な任務に違いないだろう。
そう言って、またそのマッシュルームヘアーを揺らす。
格好の付け方を間違っている。せっかく良いことを言っているし、臭いことを言っているのに、たったそれだけの仕草でもういろいろと台無しだった。
とはいえ、そこまで言うのなら断る理由はない。
ではお願いしますと女軍師。
あぁと頷く凶戦士。
かくしてここに凶戦士の破壊神への協力が決まった。
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