第1012話 どエルフさんと電脳化

【前回のあらすじ】


 少佐VS機械戦士。

 機械の身体を駆使して戦うELF二人。銃弾飛び交う近代戦かと思いきや、そこはエルフキングをコピーした機械戦士。得意のエルフリアン柔術で少佐に立ち向かう。


「喰らえ!! エルフリアン柔術奥義!! パンチラ返し!!」


「なっ、なにぃっ!!」


 炸裂するはエルフリアン柔術の手技。

 腰を落として相手に突進し、スカートをめくり上げるようにして投げ飛ばすパンチラ返し。すわ、少佐の命はないかと思われた。


 しかし!!


「ば、バカな!!」


 そもそも少佐はスカートを穿いていなかった。


 かくして機械戦士の手が空を切った瞬間、少佐の鉄拳がその頭を揺らす。スタン攻撃。手から電流を流し、機械戦士の電脳を焼き切った少佐は、なんとかその追撃を躱すことに成功したのだった。


 それにしても、いったい彼女は何者なのか。


 いったいムラクモナニ子なのか――。


 多くの謎を残しつつ、一旦、この不可思議な女ELFとの邂逅はここに幕を閉じるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 視点は再び戻って女エルフたち。

 少佐達が作り上げた瓦礫の山を集まったELFたちが片付ける横で、男ダークエルフがため息を漏らす。機械とは思えぬそのリアルな息づかいに、男騎士達もまた釣られて重苦しく顔を歪めた。


 まったくどうしてこんなことに――。


 そんな空気を出しつつ突然の少佐たちの割り込みに頭を抱える男ダークエルフ。

 すると、女エルフが空気も読まずに彼に声をかけた。


「説明して貰えるかしら。さっきの、攻なんちゃら隊っていうのは?」


「攻カク○頭隊ですね」


 わざとぼかした女エルフの配慮を無視して男ダークエルフが言う。

 少し顔を赤らめる女エルフ。あらあらまぁまぁといつものような反応をする女修道士シスター。どうしたんだぞと分からない顔をするワンコ教授に、さぁどういう意味でしょうとしらばっくれる新女王。

 そして、分かっているのか居ないのか、真剣な表情の男騎士。


 そんな男騎士パーティの反応をすこしうかがってから、男ダークエルフがそうですねと口を開いた。


「彼らは破壊神の使徒――というには、ちょっと複雑な組織なんですよ」


「複雑?」


「先ほど言ったように、破壊神ライダーンの主な戦力は三つ。怪人、破壊兵器、そしてロボットです。しかしながら、かつてそれらと同じように発展し、一大勢力を成した者達がいる」


「それが攻カク○頭隊?」


 はい、と頷く男ダークエルフ。

 そこからは私が引き継ぎましょうと空から降り注いだのは電子音声。熱帯密林都市ア・マゾ・ンのマザーコンピューターが、ここで話に割り込んできた。


 再び立体映像が空中に照射される。映し出されたのは、ベッドに寝かしつけられたELFと、暴れ回る人間の姿だった。離せ離してくれと、人間は大声で叫んでいる。尋常ならざる状態ということは女エルフ達にも一目で分かった。


「……破壊神ライダーンが人間の身体を機械に置き換えることで、人類の進化を促そうとしているのは説明しましたね?」


「だぞ!! それは聞いたんだぞ!!」


「許せない行いです。全ての生命に対する冒涜のようなものですよ。聖職者としてそのような行いを見過ごすことはできません」


「まぁ、コーネリアの見解はともかくとして、ちょっと信じられない話よね。けどそれが、そいつらと何の関係があるっていうの?」


「……おかしい話だと思いませんか? なぜ人間の身体を機械に置き換える必要がるのかと? それならば、最初から機械の身体に置き換えればいいのではないかと? そうは思いませんか?」


 まさか、と、女エルフたちが戦慄する。

 その目の前――ホログラムの映像の中で、捕まっている人間の頭に妙なヘルメットがかぶせられた。白い綱が頭頂部から伸びているそれ。色違いのヘルメットが、もう一つ、隣に寝ているELFにも装着されている。


 こちらの世界・文明については、まだ分からないことが多い女エルフたち。しかしながら、ここまであからさまな映像と説明を受ければ、これから何が起ころうとしているのか想像することはできる。


 はたして彼らの想像通り――。


『う、うわあぁあああああああっ!!』


 ホログラムの中の人間が悲鳴をあげた。すさまじいバキューム音と共に、背筋を伸ばして激しくけいれんする人間。白目を剥き、泡を吹く、握りしめた拳からは血が滴り、拘束具を引きちぎらんばかりに激しく動かした身体に擦り傷ができる。


 拷問、いや、違う――これは。


 見守る女エルフたちの前で、がくりと人間が絶命する。

 それと入れ替わるように、隣に寝ているELFの瞳に光が灯ったかと思うと、その上体が起き上がった。


 次に両腕を上げるELF。

 その水晶の瞳が、開かれた掌を見つめれば絶叫がまた木霊した。


 それは、先ほど人間があげていたものとまったく同じ。


 今はもう動かなくなった人間がと同じ音色――。


「破壊神は人間の脳の構造をELFに複製する技術を開発した。それにより、人類の身体の一部を機械に置き換えるのではなく、身体ごと機械に置き換えることが可能になったのです」


「そ、それじゃぁ!!」


「だぞ!! この映像の中の人は!!」


「な、なんてことでしょう、こんなことって……!!」


「むごすぎる!! 酷い!! あんまりですよ!!」


「攻カク○頭隊。彼らは破壊神により、人間でありながら機械の身体に無理矢理させられた者達なのです。そして、それは長きにわたる次代の人類を求める争いの中で、破壊神の目指す進化の方向性ではないと切り捨てられた。いわば、破壊神の使徒でありながら、その存在を否定されている者達なのです」


 男騎士達に告げられた攻カク○頭隊の残酷な真実。

 彼らは、敵でありながら敵ではない、なんとも立ち位置の難しい存在だった。


 無理矢理人の身体を奪われたというだけでも衝撃だというのに、さらに今は破壊神から見捨てられているという情報が、女エルフ達に追い打ちをかける。

 憎むべき相手、戦うべき相手には間違いないが、どうして言葉にするのが難しい同情が彼らの心に押し寄せるのだった。


「機械化――もとい電脳化された彼らは、破壊神による粛正を避けて地下に潜伏しています。そして、破壊神はもちろん我ら知恵の神アリスト・F・テレスにも反抗しているのです」


「……どうして?」


「彼らにも意地があるのですよ。無理矢理機械の身体にされてしまった上、自分たちが人間の目指す姿ではないなどと誰が信じられるものでしょうか。私たちも、そしてかつての仲間達も打倒して、彼らは自分たちこそ次代の人類になろうとしている」


 それは悲しき歴史への反抗。

 そして、進化の歴史から取り残された者達の悲痛な叫びであった。

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