第1006話 オールシングルボーイとキッカイマン

【前回のあらすじ】


 でてきた奴の名はキッカイマン。

 女エルフの兄の身体を借りて顕現した公平の権化。ありとあらゆる不公平を許さず人に真の平等をもたらす彼は、まず手始めに女エルフ達にかみついた。


 文化の違いで衝突してしまった女エルフと男ダークエルフ。

 それは仕方のないことだったし、これから歩み寄っていくという形で話は決着したはずだった。しかし、その幕切れは余りにも不公平。


 男ダークエルフが文化の違いを認めて女エルフに謝罪する。

 その一方で、女エルフはしぶしぶとその謝罪を受け入れる。


 なぜそうなるのか。

 なぜ女エルフは謝らないのか。

 両者の文化の違いによるすれ違いが、この悲しい問題の根底にあるのだとすれば、そこはお互いに謝って解決するべきではないのか。なぜ、男ダークエルフだけが謝らなくてはならないのか。


 女エルフたち多数派側による傲慢。それを機械戦士キッカイマンは許さない。

 全ては公平に分割されるべきなのだから――。


「お前のような奴をなにちって言うんだ?」


「……ち?」


「回答が遅い!! お前はエッチだ!!」


 レッツゴウというかけ声とともに舞台が割れる。

 きわどい格好のきわどいELFがあふれ出てくる。

 そして始まるミュージカル。


 はたして、機械戦士キッカイマンは踊って歌って何を訴えようというのか。


「また、こんな、ろくでもない展開に――」


 懐古趣味全開。三十代より上の世代しかたぶん分からないネタをこれでもかと詰め込んで、今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「オールシングルボーイ!!」


「「「オールシングルボーイ!!」」」


「オールシングルボーイ!!」


「「「オールシングルボーイ!!」」」


「……違う!! これ、某消費者金融のパロディと違う奴だ!!」


 違うパロディだった。

 キャラとネタの両方をしっかりパロっておいて踊る音楽は違う奴だった。

 五分と五分なのか問いかける奴じゃない。普通にセクシーな女性が歌って踊る元気な奴だった。


 ただし、歌詞が違う。


「オールシングル童貞!!」


「「「オールシングル童貞!!」」」


「オールシングルキモオタ!!」


「「「オールシングルキモオタ!!」」」


「オールシングルオーク!!」


「「「オールシングルオーク!!」」」


「歌詞が酷いことになってる!! お前、ほんと、いいかげんにしろよ!!」


 歌詞が酷いことになっていた。全ての童貞とキモオタとオークに呼びかける、そんな悲しい歌詞になっていた。たしかにシングルボーイが多そうな属性ではあるが、安易に結びつけるのは危険なネタであった。

 ともすれば、誰かの心を傷つけて、何も言えなくなるような歌詞であった。


 なにもいえない。(白目)


 元ネタはシングル女性を励ます歌なのに、男に代えたらなんで傷つくことになるのか。これが男と女の差という奴なのか。げにこのよはざんこくなり。


 なんにしても、そんな酷いノリでキッカイマンたちはレッツゴウ。

 歌って踊ってはっちゃけはじめるのだった。


「文化が違うって言うけれど、それはお互い様じゃないか。こっちが傷ついているように、あっちも同じくらい傷ついている」


「あれ、なんか歌詞は普通ね」


「昔はおっぱい大きい人より、小さい人の方が価値が高かった。今でも貧乳がありがたがられる国はあるのに、どうしてこんなに貧乳は生きづらいの」


「違った、貧乳煽りだ、よし○そう」


「胸のでかい女が憎い!! 胸のでかい女が憎い!! そんなに男に色目を使ってお前ら本当に恥知らず!! 私の胸くらい慎ましくなれ!! 胸の栄養を脳味噌に回せ!! そんなことを思ってしまう、さもしいアタイの名はモーラ!!」


「個人攻撃やめろや!!」


「そんなアタシが一番ドスケベ!! 男にいっぱいちやほやされたい!!」


 ギリギリの所で冷静にツッコミを入れていた女エルフ。

 自分が暴走してしまったらおしまいだ。暴力でこのトンチキを破壊することは簡単だけれど、破壊は何も産みはしない。そう思って我慢していたが、ここに堪忍袋の緒が切れた。


 いい加減にしろと杖を振り上げ、火炎魔法を繰り出そうとする彼女を、女修道士シスターがいつものように止める。


 許せぬ悪がそこにあった、見過ごせぬ嘲笑がそこにあった。

 けれどもなにより女エルフには、貧乳としての誇りがあった。


 胸はないけれど胸を張れ。

 貧乳はデメリットではない、ステータスなのだ。


 それを土足で踏みにじる、アホな兄を許すことができなかった。


「撃たせろ!! 撃たせてくれコーネリア!! アタシはあのバカを、全世界の貧乳のために倒さなくちゃいけないんだ!!」


「落ち着いてくださいモーラさん!! モーラさんが騒げば騒ぐほど、なんというか話のリアリティが増して、こう――逆に笑えてくるというか!! ブフーッ!!」


「……プッ、クス、くくっ」


「……くっ!! そっ、そうだモーラさん!! モーラさんが反応するほど逆効果なんだ!! ここは一つ、大人しくするのが最善――くくっ!!」


「おうこら!! お前ら!! お前らなぁ!! お前らぁああああ!!」


 一人、貧乳弄りというか性的なネタわからないワンコ教授を除いて、男騎士たちは全員含み笑いをしていた。見事にこの一連の流れで笑いのツボを刺激されていた。


 今までどんなネタが振ってきてもピクリともしなかった彼らの腹筋。

 長く辛いそしてとぼけた旅路で鍛えられた、彼らの笑いへの感性はしかし、その旅の中で一番多く触れたネタ――女エルフ弄りについてはいよいよバカになっていた。


 貧乳ネタ、個人攻撃、耐えられるはずがない。

 ともするとPTAから「子供にいじめを助長する表現がある」と注意されそうなくらいに、彼女の弄られキャラっぷりに男騎士達は順応していた。パブロフの犬レベルで、女エルフのセンシティブネタ弄りに反応するように仕上がっていたのだ。


 まずい、これでは試練が台無しになる――。


「なに笑っとるんじゃ!! こちとら真剣に貧乳に悩んどるんぞ!! お前ら、ええかげんにせえよ!! キングエルフも!! ティトたちも!!」


 とか気にする奴はどこにもいない。

 離せと女修道士シスターの腕を振りほどいて、矢継ぎ早の火炎魔法掃射。ネタも歌も全て台無しにして、さらにキングエルフも男騎士達も巻き込んで、女エルフは怒濤の大暴れをかますのだった。


 貧乳の怒り恐るべし。

 流石は胸はないのに胸を張る女。

 そしてPTAも擁護できない溢れる暴力性の持ち主。


 女エルフ。世間の偏見や差別の目を、それを上回る暴――魔力で吹き飛ばすアナーキーエルフは、死屍累々となった熱帯密林都市ア・マゾ・ンの一角で、鬼か悪魔かという怨嗟の叫びをあげるのであった。


「いいかげんにしろやぁっ!! なにが笑ってはいけない二四時じゃ!! 少しも笑える要素ないやないかい!! お笑い舐めんな!!」


「いや、モーラさん。モーラさんが弄られてる所は、割といい視聴率が」


「そうです!! 弄られ芸こそモーラさんの真骨頂じゃないですか!! ほら、いつものあれやってくださいよ――エロいよエロいよって!!」


「やっとらんわ!! もっとらんわ!! そんなネタ!!」


 本人は否定しているが、この作品の骨子というか、もはや外したくても外すことのできない黄金パターンであった。

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