第995話 どエルフさんと機械のおっぱい

【前回のあらすじ】


 女エルフ、安定の出オチ要員にされる。


 ピンクンジャー回避で恥ずかしい格好しなくていいんですか、ヤッターと喜ぶ彼女に渡されたのは、変身少女のコスチューム。

 確かにそうね、そういうのもやってますねライダーンの元ネタの原作者。したって、まさか300歳エルフに、そんな格好させるとか誰が思いますかよ。


 昭和の変身少女か、はたまた平成のエロゲシーンで大活躍した変身少女かという、ピンクレオタードに着替えた女エルフ。

 なによこれと叫び憤慨するのは仕方なし。彼女になんとかそのコスチュームを着て貰うよう説得するべく、ダークエルフは実例を交えて説得するのだった。


「……なんでこの作品はさ。私にさ、こんな恥ずかしい格好ばかりさせるのよ。この歳で、流石にこんなきわどいのは穿けないわよ。なによこれ、下着よりも色々とでてるじゃないのよ」


 そう言いつつも、試着するだけしてくれるあたりは流石はどエルフさん。

 話の流れを読んでくれてて助かりますよ。


 着ないで衣装持って抗議してくれればいいのに、どうだこんな恥ずかしいことになるんだぞと実演してくれるんだから。


 嫌よ嫌よも好きのうち。

 そういうことなんだな――どエルフさん。


「すみません、どこか私を雇ってくれる作品ありませんか? 清楚エルフ300歳なんですけれど? こういう汚れ役、もう辞めたいんですけれど?」


 ヒロインなんだからそんな簡単に辞めるとかいっちゃダメ。

 辞めないでどエルフさん。なんだかんだでアンタ便利なんだから……。


◇ ◇ ◇ ◇


『んほぉおぉおおおお!! らめぇえええ!! 捕虫袋の中、魔法ステッキでホジホジしたららめなのぉおおお!! バカに、バカになりゅうううう!!』


『オラァッ!! なーにが今日こそドキドキホルスタインパワーをいただくじゃ!! こんなちょっと力入れたらブチッといく、か弱い触手でイキりやがって!! 見た目だけじゃなくって、もっと中身を硬くしてこんかい!!』


『あっ、あひぃいいいいいっ!!』


 補虫袋に魔法ステッキ(巨大化)を突っ込まれて、ガタガタ言わされる触手怪人。


 それはどこかで見たことある光景。

 具体的には、最近復帰した女修道士シスターがよく戦闘でやる奴。

 なるほど、変身少女ってのは女修道士みたいなことをするんだなと、冷めた目で納得する女エルフ。


 そんな中、変身少女の勝利を告げるナレーションが静かに入る。


 あぶなげなく触手怪人に勝利した変身少女。

 彼女はまるで汚物でも見るような瞳を、体中からいろんな汁を吐き出して悶死した怪人に向けると、ペッと唾を吐きかけるのだった。


 あまりにもバイオレンス&ハードボイルド。

 とても子供に夢を与えるような内容ではなかった。

 事実、この場で一番童心に近いワンコ教授は、白い彫像のような顔をしてその映像を眺めていた。


 なんてものを見せるのだ。

 気まずい空気を漂わせたまま立体映像が立ち消える。


「とまぁ、今のが変身少女の例ですね。ご理解いただけたでしょうか」


「なるほどライダーンの僕が、とてつもなく暴力的なことだけはわかったわ。そして、子供にとって悪影響だということも」


「だぞぉ……だぞぉ……怖いんだぞぉ……」


「ケティさんしっかりしてください。大丈夫、エリィは大丈夫です……ぶるぶる」


「神の愛を注入するにしてもいささか乱暴なやり方ですね。力ずくでは真に愛を伝えることなど難しいというのに。そのことが、どうやらまだ若い彼女には分からないようですね。やれやれ、これはひとつ、私が真に愛の注入方法を」


「対抗せんでよろしい!! ステイ、コーネリア、ステイ!!」


 四者四様の反応を見せた男騎士パーティー。

 パーティーリーダーの男騎士だけは、肝が据わっているのかはたまた何が起こっているのか分からないのか、ずっと黙り込んでいる。まぁ、彼には関係のない話だ。心ここにあらずとなるのも仕方ない。


 男ダークエルフが女エルフに視線を投げかける。

 彼女がこの変身少女になることに納得できたか、問いかけるようなその眼差しに、うざったそうに女エルフが眉根を寄せた。


 もちろん、納得などできるはずない。


 なかったが、こういう理不尽を飲み込むのは冒険者稼業の常。


「やりたくないけれど、他に方法があるならそっちを試したいけれど、これをしなくちゃ潜入できないって言うなら仕方ないわよね」


「おぉ!! やってくれますか、豊乳戦士ボインジャーを!!」


「いや、ボインジャーはともかくとして、この格好するのは分かったわ。いいわよ、やってあげるわよ。別に知り合いもいないんだし、旅の恥は掻き捨てって言うしね」


「あらあらモーラさん、そんなことを言っていると、ひょこっと知り合いが出て来てしまいますよ? いいんですか? お兄さんとかにその姿を見られて?」


「やめてコーネリア。アンタが言うと本当になりそうだから」


 苦虫をかみつぶしたような顔をする女エルフ。

 知り合いがいないから耐えられるだけで、知り合いが出て来たらこんな格好していられない。男騎士達はこういう格好も展開も見慣れたパーティなので大丈夫だが、身内に見られるのは女エルフもキツかった。


 なにより一番しんどいのはその胸。

 なぜこんなあからさまにパッドを詰めるのか。どうして大きくしなくてはいけないのか。意味がちょっと分からなかった。


 外したいけれども、服の方がそのサイズに合わせてできあがっているので外すと大惨事になってしまう。エロ惨事を取るか、プライドを取るか。そこは女エルフも女の子である、プライドを殺してエロ惨事を未然に防いだ。


 まぁ、見るとこどこにもなんにもない、ナイアガラの滝みたいな胸がちらりと見えた所で、誰も喜ぶ奴などいないんですがね。


「……どうしましたモーラさん? 急にそんな怖い顔して?」


「なんか今、とてつもなく失礼なことを誰かに言われた気がする」


「気のせいですよ。ここには私たち以外、誰もいませんよ


 そうそう、気のせいですよ。

 危ない危ない。第四の壁を突破される所だった。


 流石のどエルフ。貧乳弄りの気配に敏感だ。


 まだちょっと警戒を緩めない女エルフに、まぁ、その胸についてはいろいろと事情があるんですと男ダークエルフが補注する。詳しくは話さなかったが、どうやら詰め物をしてまで大きくしなくてはいけない理由のようなものがあるらしかった。


「まぁいいわよ、偽りとはいえ巨乳になるのも悪い気分じゃないわ」


「あ、よかったら肉体改造して機械のおっぱいを付けることもできますが?」


「なにそれやばそう」


「本物の弾力見た目はそのままに、ビームからロケットランチャー、いざというときには手投げ爆弾になる優れた機能付きです。オプションで、おっぱいロケットとして射出する機能も付けられますよ」


「おっぱいにそんなきのうもとめてない」


 付けるにしても普通のおっぱいにしてよ、もう。

 そう言いながらも、ちょっといいかもという顔をする女エルフ。

 

 大きくなるなら大きくしたい。

 切実な乙女心であった。


「まったく。せっかくおっぱいを装備するのに最適な胸をしているのにもったいない。おっぱい装備しないでどうするんです? 胸の2スロットが泣いてますよ?」


「もうすでに装備しとるわ!! 薄くて軽くて付けてる感じのしない奴!! って言わせんなバカ!!」

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