第994話 どエルフさんと豊乳戦士ボインジャー

【前回のあらすじ】


「皆、それぞれの衣装に着替えたか!?」


「「「応ッ!!」」」


 いくぞ第九部熱帯密林都市ア・マゾ・ン。

 戦え男騎士、がんばれ男騎士、人類の明るい未来のために――。


 という感じで終わるかと思われたどエルフさん。

 けれど、この作品はどうしようもないスットコどっこいファンタジーなんだなぁ。そして、まだ一人返事をしていなかったんだなぁ。


 ねぇ、モーラさん?


「……はいはい、どうせこんなオチだと思いましたよ。ピンクじゃなくていいのって喜んだらこれなんだもの。勘弁していただきたいわよね」


 という訳で、やっぱりこういうオチだよどエルフさん。

 恥ずかしい展開回避と思いきや、やっぱり巻き込まれるのはご愛敬。今回も今回とて、やっぱり女エルフが酷い目に会うのは避けられないのだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「なによこの格好!! 一人だけなんかテイストが違うんだけれど!!」


「……うむ、実に見事なピンク衣装だ」


「なんだか見世物や喜劇で出て来そうなポップな格好ですね」


「だぞだぞ!! とってもかわいらしいんだぞモーラ!!」


「なんとう時代を先取りしたファッションリーダーっぷり!! そのキャッチーでビビッドなピンク衣装は、お義姉ねえさまのようなドスケベエルフしか着こなせません!! 流石です、お義姉ねえさま!!」


「うれしくないわい!!」


 Vラインくっきりのピンクレオタード。

 そこにスカートのように布が生えている。

 きわどい股のラインからするりと伸びた脚には純白のニーハイソックス。手にも肘まで伸びるロンググローブ。くびれの部分には紅色のアクセント。


 ちょっとお洒落なその格好は、八十年代特撮ヒロインか、はたまた近年エロゲシーンでよく見られるようになった変身ヒーローものか。


 いつもの女エルフさん魔法少女フォームとはまたちょっと違う趣き。

 いかがわしいというか、こいつはマジでウワキツというか、洒落にならない格好になった女エルフが更衣室から出て来た。


 いや、洒落になっていないのは格好だけではない――。


「それとなによこの胸!! なんでパッドなんて入れなくちゃいけないの!! しかも大きすぎるわよ、偽物だってこんなのモロバレじゃない!!」


「あらあら女性がモロなんて言ったら下品ですよ? ねぇ、モーロさん?」


「モーラじゃい!! 誰が下品な名前じゃ!! しばくぞ!!」


 そう胸回りもちょっと洒落になっていなかった。

 え、そのサイズはちょっと、人間として無理があるんじゃないですか。

 そうついつい聞いてしまいたくなるほど、モロにパッドであった。


 というか鞠であった。

 バレーボールであった。

 いや、バスケットボールサイズであった。


 女エルフの平らな胸にそのパッドは異質。

 なまじっかないだけにパッドがより強調される。


 はたしてこの衣装を用意した人間が何を考えてこんなパッドを付けたのか定かではないけれど――。


「こんなん、晒し者も良いところじゃないのよ!! ヤダァーッ!!」


 女エルフにはいささか残酷すぎる格好だった。

 まぁ、それでも着てしまう所が、真面目な彼女らしいといえば彼女らしいのだが。


「いいじゃないかモーラさん。似合っているぞ」


「その胸の詰め物の偽物感も合わさって、実にパチモノっぽい仕上がりですね」


「だぞ!! 格好いいんだぞ!! 憧れるんだぞ!!」


「ほら、子供に大人気ですよ!! よかったですね、お義姉さま!!」


「よかないわい!! 子供に人気が出てどないするっちゅうねん!! これからワシらは敵の本拠地に侵入するが言っちょるに、なしてこげなたわけた格好せにゃならんと!! かーっ、なーに考えとんがね、このダークエルフどもは!!」


 おもわずキャラも壊れる精神的ショック。

 どう褒められても嬉しくないと、女エルフはその格好に臍を曲げるのだった。


 まぁ、ピンクンジャーみたいなことにならなくてラッキーと思っていたらこの仕打ちだ。流石に憤慨するのは仕方ないだろう。


「モーラさんはピンクンジャーが嫌だとおっしゃられたので、ちょっと違う毛色で攻めてみました。秘密戦隊のヒロインというよりは、単品ヒロインですね」


「単品ヒロインですか?」


「だぞ?」


「秘密戦隊とは違うんですか?」


「いいのよあんたたちそんなの聞き返さなくったって。別に聞いた所で、ろくでもない返ししかしないんだから」


「えぇ。秘密戦隊とは別に、モーラさんのような変身少女もまたライダーンは幾つか造っているのですよ。ちなみに、こちらがその例になります――」


 マザーコンピューターが光り、またしてもホログラムが空中に表示される。

 またこのパターンかと女エルフが死んだ目で見上げる先に、浮かび上がるのは彼女とそう変わらない格好をした可愛らしい変身少女だった。


 金髪碧眼ツインテールに低身長。

 幼さと美しさが混じり合った、実にオタク好みのその格好。


 決定的に女エルフと違うのは――その胸のサイズ。


「なんであんな子供なのにバインバインなのよ、おかしいじゃない」


「変身少女はライダーンの力によって理想のスタイルに変身することができるんです。なので、胸とかお尻とか、そういう大きければ大きいほど嬉しい箇所は、どうしても強調されるんですね」


「なんでそこは忠実に再現しないのよ、おかしいじゃない」


 巨乳になりたかったんですかという女修道士シスターの問いをスルーする女エルフ。虚無顔。ムキになって言い返さない辺りに、女エルフの矜持が見て取れた。


 なんにしても、変身少女の姿は女エルフの鼻についたようだった。

 そんな少女に何ができるのよと、彼女は興味もなさげに渋い顔をする。

 その前で、ホログラムは変身少女とは違うもう一つの影を映し出した。


 全身緑色。

 人間とは思えない狂気的なデザイン。

 そして聞こえてくる不気味なうなり声。


『出たわね!! 植物怪人ウツボン!! これ以上の暴虐はこの私が許さないんだから!! 覚悟なさい!!』


『ひょーっ、ひょっひょっひょ!! 出たな豊乳戦士ボインジャー!!』


「豊乳戦士て」


『今日こそはお前の胸から、ドキドキホルスタインパワーを抽出してくれるわ!! 食らえ、触手万華鏡束縛地獄!!』


『きゃぁああああああっ!!』


 現われた怪人の触手が伸びたかと思うや、あっという間に変身少女の身体に絡みつく。哀れ身動きを封じられた変身少女。怪人の宣言通り、凶悪な容貌のその触手が彼女のたわわに実った胸に狙いを定める。


 なんというピンチ。

 このまま変身少女は触手怪人にいいようにやられるのか。

 そんな醜悪な同人CGスタイルモンスターに、為す術もなく敗れてしまうのか。

 まさかのこの小説始まって以来の、触手展開になってしまうのか。


「だぞ、がんばるんだぞ、ボインジャー!!」


「頑張ってください!! そんな触手に負けてはいけません!! 刹那の快楽に身を委ねてはいけません!! 耐えれば耐えるほど、快楽というのは……」


「あぁ、お義姉さまどうしましょう!! 画面の中の少女がピンチです!! これはもしかして、お義姉さまもこんな目に!!」


「しんそこどーでもいー」


 しかし、女エルフは心ここにあらず。

 たたみかけるようなトンチキ展開にもはや彼女の心は静かに死んでいたのだった。

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