第991話 どエルフさんとチームリベンジャーズ2

【前回のあらすじ】


 女エルフ、しぶしぶ衣装を着替える。

 同調圧力に屈して着替えることにした女エルフ。

 かくして、男騎士達は秘密戦隊になるべくコスチュームチェンジ。中世ヨーロッパ風の装いから、サイバーパンクに姿を変える。


 まずは男騎士。パーティのリーダーらしく赤いフルプレートメイル――ならぬ赤いパワードスーツ。日本の漫画ではなく、海の向こうのアメコミ。大人気、アイアンのマンよろしくなメタリックボディになった男騎士であった。


 続いて女修道士シスター。青色の貫頭衣に青色の帽子、黄色い全身タイツに身を包んだ彼女は、秘密戦隊というよりも某ゲームの女僧侶。ドラゴン退治の息吹を感じさせながらも、なんというかエロ同人みたいないやらしさを随所からにじみ出させる格好になるのだった。


 そう。

 この脈絡のなさ。

 そして、キャラに合せたような、酷いコスチュームの選。

 この辺りから察していただけると助かるが――。


「……これ、絶対悪ふざけしている奴よね?」


 絶対に笑ってはいけない秘密戦隊の時点で察していただきたい。

 某番組も、そして某番組と並び立つ番組の戦隊パロも、普通にパロディすることはなかった。いつだって変化球、予想もしないキャラを出して笑いを取ってきた。


 これもまた同じ。

 そして、待っているどエルフさんの扱いもまた同じ。


 分かる人には分かるオチの匂いを感じさせながら、物語は徐々に徐々に進んでいくのだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「ティトさんは秘密戦隊のレッド。コーネリアさんは秘密戦隊のブルーですね。二人とも戦隊のリーダー役という大切な役目があります」


「ほう、色にそれぞれ役割が設定されているのか」


「どういう理屈でそのような割り振りになったのかはわかりませんが、私がリーダーですか。はたしてそんな大役が務まるかどうか」


「まぁ、皆さんがやられるのはまねごとですので。けれども、ティトさんの言うことにはよく従ってくださいね。戦隊は規律が大切。変に仲間内でざわついていると、それだけで懲罰部隊に目をつけられてしまいますから」


 なるほどと納得する男騎士。

 ただ格好を変えるだけではダメなのですねと、神妙な顔をする女修道士シスター

 そんな感じに緊張がチームに走るや、すぐに男ダークエルフが、まぁそんなにこわばらなくても大丈夫ですよとフォローを入れた。


 しかしながら、おバカではあるが根が真面目な男騎士パーティ。

 すぐに男騎士も女修道士も、顔を男ダークエルフの方に向ける。


「それで、このレッドというのはいったい何をすればいいんだ? どこまで出来るか分からないが、出来る範囲で俺もそのレッドに寄せていこうと思う」


「私も、このブルーさんに、できる限り寄せていこうと思います。マイコーさん、どうかご教授をお願いできませんか?」


 男騎士と女修道士シスターが、自分たちが演じるキャラクターについて男ダークエルフに問い合わせる。少し困ったようにはにかんで、男ダークエルフは耳の上をぼりぼりと掻いた。


「キャラクターですか。まぁ、戦隊を演じるだけで、特定の誰かを真似るという訳ではないので、これといった例は出しづらいのですが……」


「そこをなんとか」


「せめてどのように振る舞えば自然なのかくらいの指針を教えていただけると。何分、不勉強でこの手のことについては私は無知ですので。どうかお知恵をお貸しいただけませんか」


「そうですねぇ」


 まぁ、一例ですがと前置きして、男ダークエルフはまずは男騎士を指差す。


「まず、ティトさんのレッドはリーダーですが、成熟したリーダーではありません。どちらかというと成長途上、成り行きで仕方なくチームのリーダーになったという若々しいキャラクターが一般的です」


「成り行きでリーダーか……大丈夫なのか?」


「リーダーの資質が簡単に獲得できるものではないのはティトさんが一番よくご存じなんじゃないですか。仲間との衝突をくりかえして、レッドはチームのリーダーとしても人間としても成長していくんですよ」


 なるほど、そう言われると納得できるかもしれないと、男騎士が頷く。

 男騎士もパーティのリーダーを務めている経験から、それを務めるのが一朝一夕にできるものではないのはよく分かっている。

 そして、今のようにチームが自分から連携して動けるようになるまで、莫大な時間とコミュニケーションを要することも。


 大丈夫だと言ったのは男騎士だが、なるほど確かにそんなものなのかもしれないと彼は自分で納得したようだった。


 できる人間がやるのではない。

 立場や環境が人をできる人間に育てていくのだ。

 そういう意味では、未成熟な男がリーダーというのは、別にそれほどおかしな話ではなかった。


「また、開発してしまった兵器でうっかり世界を滅ぼしかけてしまったり、それを自分一人でなんとかしようと突っ走ってしまったり、頼れるサブリーダーと衝突したあげくにチームを分断させ、壮大な内部抗争を引き起こしたりしますね」


「……大丈夫なのか?」


 確かにレッドでリーダーの奴の所業だった。

 奴だったが、ヒーロー戦隊ではなかった。


 アメのコミの劇場版の展開だった。


 それを若さ故、未成熟故の過ちとしてしまっていいのか、判断に困るレッドのキャラクターであった。


 予想もしていなかったキャラクターに閉口する男騎士。すると、では私はどうですかと、今度は女修道士シスターが男ダークエルフに声をかける。


 ブルー。秘密戦隊のサブリーダー。

 はたしてそれに求められるキャラクター性とはどういうものか。というか、格好は完全に戦隊モノではないのだけれど、どのようなキャラを演じればいいのか。


 女修道士シスターの疑念に、また穏やかに男ダークエルフは微笑む。


「ブルーは主にレッドの未成熟な部分を補うサブリーダーですね。レッドが行動的で、時にその未成熟さ故のエネルギーで物事を解決使用とする際に、適切にアドバイスをしてそれを軌道修正するのが主な役割です」


「なるほど、随分とな立ち位置なのですね」


「えぇ、ですのでティトさんのサポート役に徹していれば問題ないかと」


 知性が足りず、チームメンバーになにかとサポートされている男騎士。そういう意味では、彼を未成熟なレッドに据えるのはあながち間違いではないのかもしれない。

 そして彼女が演じるブルーもまた、いつも男騎士や女エルフを相手に彼女がやっていることの延長線上のものだった。


 思った以上に演じることは難しくないのかもしれない。

 女修道士は男ダークエルフの言葉に、少し安心したように息を吐いた。


「ただまぁ、レッドと同じようにリーダーですから、いろいろと情報をキャッチしてしまい懊悩する立ち位置でもあります。レッドでは考えられないような複雑な問題について考えたり、仲間との橋渡しをするうちに、思わぬことでチーム内で孤立してしまったり、チームを分断する切っ掛けになったりします」


「……まぁ、まぁまぁ」


「レッドとブルーでチームを二分し、かつての仲間通しで血みどろの戦いになることも。それでも、レッドのことを深く信頼し、敵対し続けながらも仲間意識を抱く。そんな、重たいメンヘラ女みたいなキャラクターがブルーですね」


 確かにブルーで副リーダーの所業だった。

 しかし、アメでコミでキャプテンだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る