第981話 どエルフさんと【ピー!!】

【前回のあらすじ】


 謎の刺客の破壊光線をしのぎぎった男騎士。

 なんとか紙一重の所で戦いに勝利した彼に謎の刺客が投げかけたのは、罵倒でもなければ皮肉でもなく謝罪と救援だった。


 何者かの命を受けて、男騎士を迎えに来たという偽女エルフ。

 激昂する魔剣に「まずは名前を名乗り身分を明らかにしたらどうか」と詰め寄られるも、頑なにそれを明かそうとはしない。


「何卒、このアリスト・F・テレスの眷属の目が走る場では、我が素性を隠すことをお許し願いたい。そしてその非礼を承知で重ねて申し上げる。どうかティトどの、そしてエロスどの。この私に黙ってついて来てはくださらぬか」


 助けを請う彼女の眼差しは真剣。さらには、このままアリスト・F・テレスの言うとおりにしていては、人類は滅ぶとまで彼女は言い出す。

 人類を救うためにアリスト・F・テレスに協力を申し出た男騎士からしてみれば、あまりにも寝耳に水なその情報。そして、信じるにしても、あまりにもうさんくさすぎる状況に、思わず彼は黙り込む。


 しかしながら、彼の卓越した冒険者としての勘は、先ほどの戦いを通して目の前の偽女エルフの正体に一つの仮定を導き出していた。


 もし、その仮定が正しいのであれば彼女は――。


 はたして男騎士の選択やいかに。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて。

 場面変わってこちらは本物の女エルフ。

 彼女はいそいそと身支度を整えると、部屋の鍵を手にして立ち上がった。身体はふかふかとした純白のバスローブに包まれている。個室風呂で清められた身体はすっかりと輝きを取り戻し、まさしく妖精のような人ならざる美しさを放っていた。


 間近でその身体を整える仕草を見ていた新女王がたまらずとろけるようなため息を漏らすほどだ。


 実際、ベッドの上でとろけるようにうなだれた新女王は、今からうきうきと男騎士の部屋に出かけようとする彼女を、止めることもできずに力尽きていた。

 今の彼女にできるのは、女エルフをただ眺めるだけである。


 得意の魔法で髪を乾かし、櫛を通してさっと梳く。

 椿油で仕上げれば金色の髪がまばゆく輝く。

 つづいて細かい格子模様の入った金属を取り出せば、それで爪先を磨き上げる。緩やかに弧を描いて整えられたその爪先。これまたふっと女エルフが息を吹きかけるとまるで宝石のように輝きはじめた。


 白い肌に金色の髪、エメラルドの瞳というただそれだけでも美しい容姿に、さらに魅惑的な衣服までまとって――。


 まさしく女エルフは臨戦態勢。

 女と男の夜に挑まんというスタンバイが完了していた。


 そう。


 この女エルフ、やる気満々であった。

 呼ばれたのは作戦会議だが、その流れでちょっとスキンシップを図る気満々であった。先ほどの偽女エルフのことをどうこう言うことができない、ともするとさらにやらしいことをしそうな、そんな感じであった。


 もちろん、そんな様子に新女王も嫌でも気づく。


「あぁ!! お義姉さまったらそんなにおめかしして!! お楽しみのつもりなんですね!! 今夜は、ティトさんとお楽しみのつもりなんですね!! 一緒にお風呂に入った私とではなく!! やっぱりティトさんがいいんですね!!」


「いや、私にはそっちの気ないって言ってるでしょ。それにそういうこと、レディが言うもんじゃないわよエリィ。気づいてても気づかないふりするのが大人の女よ」


「いやだぁーっ!! お姉さまったら○ックスするつもりなんだぁー!! 健全冒険ファンタジー小説なのに、こいつら良い宿屋に泊ったからって、ハメを外して○ックスするつもりなんだぁー!!」


「いや、言うほど健全かこの作品?」


 セルフレーティング息してないレベルで、その手の描写は今までなかった本作。しかしながら、先週のサービスお風呂回を経て、何か制限でも取れたのだろうか。

 匂わせもクソもない、身も蓋もないお色気ムーブをかます女エルフ。


 はたして女エルフはしゃなりとベッドの上から立ち上がると、るんるんとご機嫌に鼻歌を口ずさみながら部屋を後にするのだった。


 まぁ、言うて彼女も人並みの女性である。

 好きな男と一緒の旅路で、そういう気持ちが高まるのは仕方ない。時と場所と条件さえ揃えば、当然のようにいちゃつきたいという気持ちは彼女の中にもある。


 それでなくてもここの所、世界の危機だとか仲間の命を救えだとかで、まともに息つく暇もなかったのだ。こうしてゆっくりと休むことができる場所に泊ることができた日くらい、ハメを外してもいいだろうと気が緩むのも仕方ない――。


「ぐへへへ、久しぶりのまともな【ピー!!】だわよ。ほんと、ここの所、ティトってば戦いに疲れ果ててまともに【ピー!!】が機能してなかったものね。時間もないし明日もあるからってはぐらかされてたけれど、今日は逃しはしなわいよ。そりゃもう【ピー!!】からの【ピー!!】して、上に下にの大【ピー!!】で、たっぷり可愛がってもらうんだから!!」


 だいぶ直接的な表現だった。


 思わずいつもなら○とか使ってぼかすところを、あまりの下品さに【ピー!!】とか使って隠さなくてはならないくらいに、卑猥なことを言い出す始末だった。


 侮るな、年頃の女性の性欲。

 それでなくてもエルフ。三百歳は伊達ではない。

 性に関して疎いエルフ族は、一度そういうのにハマるととことんとは言うが、ここまでどはまりするとは誰が思っただろう。


 そして、今日に限って本当に、言い逃れができないほどにどエルフ決まっていることになるとは、誰が想像しただろう。


「旅先でいろんな道具もこっそり仕入れてたしね。そうそう、効きそうな回復薬もこれでやっと試せるわ。普通の戦闘で使うのはもったいないって、ずっとキープしてたんだけれど、ケティとか相手に誤魔化すの難しかったのよね。言えないわよね、まさか【ピー!!】を元気にするために、これは取っておくのよなんて」


「……お義姉さま、ちょっと、発言をセーブした方が」


「うるさいわねぇ!! いいじゃないのよ、私だって年ごろの女なんだから!! そりゃ普通に、男の人にめちゃくちゃにされたい夜だってあるわよ!! 普通に人並みの性欲だってあるわよ!! 【ピー!!】したいとかも普通に思うし、ご無沙汰だったらちょっとした相手の仕草だけで【ピー!!】が【ピー!!】して【ピー!!】【ピー!!】【ピー!!】するわよ!!」


「お義姉さま!! 清楚!! 清楚キャラを保ってください!! まったく知性を感じない、なんかエロ漫画に出てくる奴隷女エルフになってますよ!!」


「うっさい、ファンタジーに出てくる女エルフなんて、どれもこれもお高くとまってるけれども一皮剥いたら【ピー!!】【ピー!!】【ピー!!】じゃぁい!! 男の【ピー!!】を【ピー!!】したくて、【ピー!!】【ピー!!】【ピー!!】するような、そういう浅ましい生き物なんじゃい!!」


 落ち着け、女エルフ落ち着け。


 かつてないどエルフぶりを発揮する女エルフに、唖然とする新女王。

 はたしてこれがあの、エロネタ振られれば狼狽えるばかりの、弄られ女エルフだろうか。ともすれば女修道士シスターよりもやばいのではという奔放ぶりに、もはや絶句するしかない。


 それだけ溜まっていたということだろう、怪しい女の顔をして女エルフはふっふっふと部屋に残す新女王に微笑むのだった。


「そういう訳だからエリィ、先に寝ちゃっててちょうだいね。口裏だけは合わしてくれると助かるわ」


「うぅっ、そんな。酷いですお義姉さま。エリィの心を弄んだんですね」


「いつもアンタたちにおもちゃにされてるんだから、別に今日くらいいいでしょ。それじゃぁね、バイニィー!!」


 そう言って、喜色満面で女エルフは自分の部屋を後にしたのだった。

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