第858話 デビちゃんと次元突破
【前回のあらすじ】
迫り来る人間の業を司りし魔物第六天魔王。
快楽・悦楽の園を統べる魔王の顕現に、魔性少年とデビちゃんが戦慄する――かと思いきや。
「ゲソー、なにが第六天魔王だゲソ!! さっきも言ったように、海からの侵略者デビちゃんの方が怖いでゲソ!! こうなったら、こっちも本気を見せてやろうじゃなイカ!!」
ゲソちゃんもまさかの領○展開――ならぬ本領発揮。
そう、彼女もまた奇妙なことに妖怪をその身に宿した身の上であった。
彼女が操るそれは、神代の奇跡にして理想郷【
しかしその断末魔も、永遠の夏という穏やかな空間に毒されていく。
いつしか、その叫びが朗らかな笑いへと変わったとき、闘いは幕を閉じた。
誰も、ギャグ時空に勝つことなど、不可能なのだ。
「いや、ギャグ時空って!!」
ギャグ領○展開には勝てないのだ。
「呪術かゲゲゲかどっちかにしろ!!」
いや、これは○闘士ですよ?
なんにしても、まさかのパロディ異次元攻撃で敵を倒す。デビちゃんあっぱれの大金星であった。という所で、今週もどエルフさんはじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
「デ、デビちゃん!!」
魔術と魔術のぶつかり合い。
いや、正確には妖術と言うべきか。
なんにしても、二人の強力な妖術使いの闘いにより、おいてきぼりを喰らった魔性少年。二人が消えた虚空を眺めながら、彼は悔しそうに奥歯をかみしめた。
もし、今この瞬間、彼に力があったならば。
デビちゃんと魔性僧侶の闘いについて行けるだけの強い力があったならば、こんなことにはならなかったことだろう。
自らの身を案じて駆けつけてくれたデビちゃんに対して、自分が何もしてやれないことがここまで歯がゆいこととは。
魔性少年は握りこぶしを造ると、それを石造りの床にたたきつける。
悔しさが涙の滾りとなって頬を流れ落ちる。
しかし、その無力さと情けなさを慰めるものは誰もいない。
魔性少年はこのとき、己の無力さと一人で立ち向かわなければならなかった。
無力故に、仲間をみすみすと危険にさらした。
彼女は自分を守るために虚空に消えた。
どれだけ超能力を極めたと言ってもこの程度か。
押し寄せる後悔の波に、彼の心が揺れる。
次いで、慟哭と共に彼の思いがその口を吐いた。
「僕が、僕がもっと強ければ!! デビちゃんとマカ・ラマの闘いに割り込めるほどの力を持っていれば!! こんなことにはならなかったのに!! デビちゃん、ごめんよデビちゃん!! 僕が頼りないばっかり――」
「ただいまでゲソー」
「普通に戻ってきた!!」
デビちゃん。
どこからともなくこちらの世界に帰還する。
ひょいと空間に切れ目が出来たかと思うと、そこから、ぴょんと跳ねるように出てくるデビちゃん。妖力がぶつかり合って次元の狭間に消えたと思ったのに、あっけらかんと帰って来た彼女に、思わず魔性少年は顎を落として絶句した。
そんな魔性少年に対して、なんでゲソその顔と笑うゲソちゃん。
緊張感も敵もブレイクするその不敵な笑顔。魔性少年が心配するまでもなく、彼女は素敵に無敵、強い女の子であった。
「デビちゃん、その、大丈夫だったんですか?」
「あぁ、大丈夫でゲソ。まぁ、私の手にかかれば、こんなのは赤子の手を捻るようなもんと言っていいんじゃなイカ」
「赤子の手を捻るようなもの……!!」
あれだけ自分が苦戦した相手に、そう言い切られるとちょっと微妙である。
魔性少年、その身を心配していたというのに地味に心をえぐってくるデビちゃんの言葉に、ちょっとばかり複雑な表情になるのだった。
世の中とはげに理不尽である。
強い奴は生まれついて強いのだから仕方が無い。
個としての強さ、種族としての強さ、修練による強さ、いろいろなものがある。
だが、そんなものを覆す、でたらめな強さというものがこの世界にはあるのだ。
いちいちそれに傷つく方が悪いというより他なかった。
いや、それにしたって、もう少し手心があっていいだろうが。
なんにしても残酷なこの世の理に違いなかった。
「ゲソゲソ。まぁ、魂だけの存在だが、【
「……えぇ」
「今頃海の家『みかん』で気むずかしい坊主キャラクターとしてコメディリリーフしているでゲソ。万が一にもあの無間地獄から脱出できたとして、出てくる頃にはすっかり毒気が抜かれた感じになってるんじゃなイカ」
伝説級の超能力者をギャグキャラクターに貶める。
なんという術だと、魔性少年がよく分からないままに息を呑む。
そんな彼の前で腰に手を当ててわははと笑っていたデビちゃんだが。
「……おっとでゲソ」
「デビちゃん!!」
ふらり、と、その身体が揺れた。
あわててデビルフィッシュ娘に近づく魔性少年。
彼が抱き留め、なんとか姿勢を持ち直すことはできたが、思った以上にデビちゃんの身体は疲弊しているようであった。
荒い息。
重たく魔性少年の腕にしがみつくデビちゃんは、いやー、久しぶりに張り切りすぎたでゲソと、気丈なことを言う。
「ゲソゲソ。【
「デビちゃん。すまない、僕なんかのために」
「いいんでゲソよ。船の動力源である、コウイチが死んでしまったらそれこれそ大変でゲソ。それより、少しだけ休ませて貰うゲソ。大丈夫、少し寝ればこんなのすぐに治るでゲソよ」
そう言って、静かに瞼を閉じるデビちゃん。
仲間のために彼女もまたその命をかけていたのだ。
彼女の献身に、また、その頬を涙でぬらした魔性少年。
ゆっくりと、その命の恩人の身体を床に置いた彼の耳に――。
「んー、むにゃむにゃ、もうそんなにエビは食べられないでゲソよー」
「……本当に疲れて寝ただけだった」
どうにもしまらぬ、お調子者な寝言が届くのだった。
ほんと、世の中とは理不尽なものである。
理不尽な者が強いのがこの世である。
コウイチ、もはや苦笑いを浮かべるより他に、できることは何もなかった。
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