第777話 どエルフさんと真のヒロイン

【前回のあらすじ】


 魔法によって、増えた男騎士。

 見た目も言動もそっくりの彼らのどちらが本物かを当てるのが、最後のウワキツ格付けチェック。


 しかしながら、女エルフは少しの逡巡もなく本物の男騎士を当ててみせた。


 対して、元赤バニからくり娘。

 機械の身体であるからこそ、曖昧なものが分からぬ彼女は、ついに男騎士を見分けることができなかった。


 ウワキツで勝ったが、ヒロインとして負けた。

 愛する相手が本物かどうかも分からなくては勝負も何もあったものではない。

 そう、一般ウワキツ人までおいこまれた女エルフ。


 ここに見事に逆転を果たして、からくり娘に勝利したのだった――。


 そう。


「ウワキツじゃない上にヒロインとしての太鼓判貰うとかこれ大勝利的では?」


 この作品のコンセプトをぶち壊して勝利したのだった。


「コンセプトとか、思いつきで書いてるこの作品に、そもそもないのでは?」


 そういうこと言わない。


◇ ◇ ◇ ◇


「どうやら、婚期に焦るばかりで大切なダーリンを見失っていたようじゃな。本当に大切な相手なら、このような魔法をかけられたとて心で通じ合えるというもの」


「アシガラ。これが人間の愛の力よ、よくわかったかしら。幾ら貴方がウワキツで、類まれなる大人の色気の持ち主でも、愛の前にはそんなもの無力なのよ」


「コレガ……コレガ、アイ」


「なんか感情を理解した化け物みたいなことを言っているが、大丈夫かこれ?」


 眼からあふれ出る機械油を拭って呟くアシガラ。


 完全敗北。

 人間の愛の凄さを見せつけられた彼女は、今、それを知識として理解するべく、ちょっと頭がオーバーフロー気味であった。


 それまで、ウワキツ強者の余裕に溢れていた彼女の姿はどこへやら。

 糸の切れた操り人形のように床に倒れた彼女を、ちょっと心配そうに女エルフたちは見つめた。


 なにもここまで落ち込む必要はないんじゃないか。


 男騎士と女エルフ。

 勝利の余韻に浸る間もなく、戦った相手のことを心配し始めるあたり、やはり根が底抜けにお人よしであった。


 まぁ、それはそれ。

 ここにウワキツ格付けチェックは、予想外の終幕を迎えた。


「いやー、このままじゃと、モーラちゃん、映す価値なしで消えるところじゃったけれど、最後の最期でヒロイン力を見せたのう。よかったぞい、愛の力。ラブコメ力はやはりお主ら折り紙付きじゃのう」


「いやいやいや、たまたまですよ、こんなの、あっはっは」


「……割と、普通に当ててきて、モーラさんの愛が重いなと思ってしまった。すまないなどエルフさん、すまない」


「え、いや、そんな重い話!?」


 重いか重くないかは、当人の感じ方だろう。

 男騎士は、どうも女エルフの今回の行動を、それなりに重く受け止めていた。


 知力は1だが、なんだかんだで、こういうことには気を揉む苦労性の男である。

 ここまで思ってくれているのだから、大切にしなければな、なんてことを改めて感じていたのだ。


 そんな彼に、そういう顔しないのと気軽に絡む女エルフ。

 さながらその絡み方は、正妻の余裕というかなんというか。

 なんにしても、こいつは俺の男だという有無を言わせぬ力強さを伴っていた。


 そんなものを見せつけられて。


「うぅっ、せっかく久しぶりにいい男と出会えたと思ったのにぃ。あんまりよぉ、こんなのってあんまりよぉ。私も番が欲しい、いい男と一緒になりたぁい」


「アシガラ」


「うぅん、この拗らせっぷり。なんともたまらんのう。ラブコメNGの行動さえなければ、この娘で一本なんか作りたい感じのキャラクター性。実にもったいない」


「ラブコメNGってなによぉっ!! いつだって、恋する乙女は全力全開!! 恋のためならば何をやっても許されるものでしょう!!」


「「限度があるわ!!」」


 声がハモった男騎士と女エルフ。

 そんな所まで仲良しで、見せつける必要ないじゃないのよと、またしても元赤バニ娘は泣き崩れる。


 あぁ、これはもう収集がつかないな。

 諦めた彼らの前で、おいおいとからくり娘は泣き耽るのだった。


 悲しみに暮れるからくり娘。

 ここに全てのからくり娘は倒された。

 男騎士たちは、長く苦しい、この海での戦いに勝利したのだ。


 そんな安堵からか、男騎士と女エルフが顔を合わせる。


 お互い、先ほどあれだけこっぱずかしいやり取りをしたばかりだというのに、目が合うなり顔を赤らめる。その初々しさまでが、また愛らしくて、隣で見ていた風の精霊王がにんまりと頬を釣り上げた。


「ん、まぁ、モーラさん。君ならきっと勝ってくれると思っていたよ」


「……当然じゃない!! この世でアンタのことを好きな女なんて、アタシくらいなもんよ!! 感謝しなさいよね!! このモーラさんが一緒にいることを!!」


「おうおう、またなんかええ感じの台詞を言うのう」


「もぉやだぁ!! なんでそんな死体蹴りを見せつけてくれるのよぉ!! 降参って言ったじゃない!! 酷いわぁ!! 独喪女性にそのラブコメは酷いわぁ!!」


 かくして、長く、そしてキツイ、ウワキツ格付けチェックは幕を閉じた。


 女エルフ。

 彼女の圧倒的なヒロイン力による、反則勝ちという結果で。


 そして――。


「それじゃ、ワシの魔法を解こうかのう」


 彼らは再び現実へと戻る。


 そう。


 彼らが少し目を離したすきに――。


「……なに、これ?」


「……どういう、ことだ?」


「……え!? ちょっと!? みんな!? えっ、なにどうなってんの!?」


 味方、敵、双方息も絶え絶え。

 地獄と化した東の海の果てに。

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