第774話 どエルフさんとそっくりウワキツ人

【前回のあらすじ】


 本格的なファンタジー小説のように唐突に出て来たセブンカースなる設定。

 はたして、神と人を別つ儀式とはなんなのか。七つの呪いとはなんなのか。そもそも魔神シリコーンとはなにものなのか。


 そして、場面変わって地獄の釜の底。

 そこで繰り広げられる会話の意味は。

 どこかその喋り方に聞き覚えがある、仲間を憂う女の正体は誰なのか。

 彼女に力を貸した神、ナッガイとはなんなのか。


 さまざまな謎が一気に提示された前回。

 はたして、作者はどういう気持ちでこんな話を書いたのか――。


 三週間ぶりで覚えてねえです。


「うぉい!! いきなり私生活をぶっちゃけるな!! うぉい!!」


 コロナ禍の最中に、いろいろとありまして、忙しすぎてちょっとストック放出してたらこのザマです。いやはや、いったい三週間前の僕は、何を考えてこんな話を書いたんですかね。こんな、大ぶろしきをひろげるだけ広げて。


 ほんと、ひろげるだけひろげやがって、三週間前の僕!!


「自分に怒ってどうするのよ本当にもう!!」


 このあらすじは、年齢的にやばくなった脳みそと記憶力を揺り起こし、前回どういうものを書いていたのかなというのを思い出す、そういう儀式的なものとして書いている側面もあるのですが、流石に三週間も離れるとそれも辛い。


 はたして、今週もまともにはじめることができるのかどエルフさん。

 仕事がきつくて割としんどいぞ、どエルフさん。

 それでなくても、新連載を並行して始めてから、どん詰まりだぞどエルフさん。

 けれどもやっぱり、コロナ禍で作業スペースが確保できないのが、一番つらいぞどエルフさん。


「もっと、内容に触れて!!」


 ほんと、はやく、収まってくれないですかね。

 新型コロナ。(自宅のリビング横のスペースでこれを書きながら)


◇ ◇ ◇ ◇


「さて、まぁ、いろいろとウワキツ人格付けチェックをやった訳ですが」


「ワイン、食パン、薬草、魔術。いろいろやりましたが、いやー、こんなこともあるものですね。ティトの字さん」


 場面は再び、ウワキツ格付けチェックが行われている風の精霊王の結界の中。

 女二人がそろって椅子を並べていた。


 一人。

 ゴージャスな仕立ての椅子に腰かけ、脚を組み、黒い髪を流していかにもできる女ですという感じの仕草をしてみせる女。

 彼女は、当然という感じに流し目を男騎士たちに向けると、ふっと息を吹く。


 七人の最初の原器の一体にして、最強のウワキツ力を秘めたからくり娘。

 アシガラである。


 なんとここまでノーアウトならぬノー減点、一つもウワキツ格付けチェックで判定負けをしていない彼女は、一流ウワキツ人を死守していた。

 別に死守するようなものでもないのに、死守してた。

 更に言えば、なんかそれを得意げな感じにしていた。


 ウワキツだからって何もいいことなんてない。

 だというのに、やってやったわという感じであった。


 その辺りが輪をかけてウワキツであった。


 そして、彼女が全勝ということは――。


「一流ウワキツ人としてもはや貫禄さえあるアシガラさん。いやー、できるウワキツは違いますね。なんというか、佇まいからもう既にキツさが滲み出ています」


「ぶっちゃけ、ここまでやるとは思っていませんでしたね」


「ふふっ、もっと褒めてくれてもいいのよ。これが大人の魅力よ、ほーっほっほ」


「いや、褒めてはおらんのじゃがのう」


「それに対して――まさかまさか、ここまでまったくポイントを入れられないとは。ちょっとパートナーとしても驚いている自分がいますよ」


「健闘虚しく――いや、健闘どころかなんもできていない感まであるがのう。のう、モーラちゃん、の、そっくりさん」


「……はい、モーラのそっくりさん。しまむらモーラじゅうななさいです」


 一人。

 なんかもうパイプ椅子に緑のスリッパ、安っぽいマットの上に佇んでいるのは女エルフ。


 しかも、それまでのウワキツい衣装とは違い、彼女はなんか普通の主婦が着ていそうな、いや、もしかするとちょっと若い子も着ていそうな、いやいや、やっぱり社会的な落ち着きのある女性しか着れないような、そんな服を着ていた。


 白いニットのハイネックの上着に丈の長いスカート。

 いかにもお安いファッションセンターで売っていそうなコーディネート。


 もはや、そこにヒロインとしての矜持も格好も微塵もない。

 女エルフは完全にウワキツと和解して、普通の女性になっていた。


 そう、一般女性になっていた。

 ウワキツともなんとも言われない、ヒロイン性の欠片もない、普通の女の子に。


「えー、しまむらモーラちゃんは、普段なにとかしてんの」


「そうですねー、普段は近くの公園とか散歩して、お花とか鳥とかみてますねえ。あと、公園のベンチで本を読んだりとか好きです」


「あら、素敵なご趣味ですね」


「本当は犬とか猫とか飼いたいんですけど、ほら、ちょっと生活に余力がなくってぇ。うちではもう、制御不能のモンスターを何匹も飼っているというか――って、何言わせんじゃいこんちくしょう!!」


 なんじゃこりゃぁと叫びをあげる女エルフ。

 ノリツッコミ、完璧なノリツッコミであった。


 もはや、少しも駄目だしするところのない、完成されたツッコミは、ヒロインにしかできない芸当であった。


 けれども、彼女はそっくりさん。

 一流ウワキツ人ではなく、そっくりウワキツ人。

 しまむらモーラちゃんじゅうななさいなのだった。


「どうしてこうなる!! いや、別に構わないけど、どうしてこうなる!! 私ヒロインやぞ!! 一応、この作品のヒロインやぞ!! なのに、なんでこんなモブキャラみたいな格好してるの!! 教えて、なんでなの!!」


「ウワキツヒロインとしての格が、アシガラさんと比べて低いから」


「ぶっちゃけ、モーラちゃんのウワキツは、いまひとつ迫力に欠けて、守りに入っている感じがあるから」


「守りに入りもするわいな!! 誰が悲しくて、自分のウワキツっぷりを、人様にお見せしなくちゃならんのか!! 私だって――自分がウワキツなのは自覚しているわよ!! それを、頑張ってやったというのに、最後の仕打ちがこれか!!」


 やれやれ、という顔をする、男騎士と風の精霊王。

 そんなことで取り乱しますかという表情に女エルフが眉間に青筋をたてる。


 しかし――。


「はい、ではね、そろそろ最後の格付けチェックに参りましょうかね」


「さくっと終わらせましょう、さくっと」


「ちょっと待って!! ここ、いつもなら、なんやかんやと難癖つけて、流石だなどエルフさんってなる流れの所でしょう!!」


「いやだって、そっくりさんじゃから、しまむらさんは」


「そうですよ、しまむらモーラさんは一般女性なんですから。そういうのはよくありません。アレはヒロインで、一流ウワキツ人のモーラさんだからできる芸当」


「嬉しいけど!! 嬉しくない!! なにこのジレンマ!! ほんとやめて!!」


 ウワキツヒロインとしての格の低さが露呈した女エルフ。


 その扱いも当然雑になる。


 いつもなら、言われるキメ台詞をキメて貰えなかった女エルフは、ウワキツ格付けチェックの部屋で天井を仰いで慟哭するのだった。


 言われたら言われたらキツイし、言われなかったら言われなかったでキツイ。

 複雑なウワキツ心であった。

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