第768話 ど女エルフさんとドキドキラブハイスクール

【前回のあらすじ】


 これからはじまるウワキツ劇場。

 どエルフ女子高生編。


 あたしモーラ・ウワキツ!!

 どこにでもいるエルフの女子高生(三百歳)!!


 はたして、こんな横暴が許されていいのか。

 フィクションでも、もっと手心を加えてもいいんじゃないのか。

 三百歳女子高生のウワキツ無双が、いまここに始まる。


 はたして、読者のライフは持つのか。

 そして、男騎士と風の精霊王の歪んだ性的嗜好に突き刺さるのか。


「ウワキツ居酒屋!!」


「本日開店!!」


「めっちゃはまっとるやないか!!」


 めっちゃ面白いですね、あの番組。


◇ ◇ ◇ ◇


 時間は巻き戻る。


 そう、解説するために映像を止めたので、時間は巻き戻さなくてはならないのだ。カイゲンの特殊な能力でも、男騎士の隠された能力でもなんでもなく。そういうテイストのウワキツ格付けチェックなので、そこの所は仕方なかった。


 演出上、どうしても巻き戻す必要があった。


 という訳で、再び、モーラさんの一人芝居から映像は始まる。

 

「ドシーン!! いったーい!! もうっ、どこ見て歩いてるのよ!!」


「……あぁ、ごめんごめん。怪我はないかい、キューティーガール」


「ちょっと待て!!」


 そしてまたちょっと待てボタンが炸裂する。


 しかし、風の精霊王は押していない。

 素早くそれを押したのは、男騎士の方であった。


 しかも、今までなんだか、これから本気のモーラさんの底力をみせてあげますよと、自信満々だった彼は、いつの間にか顔面蒼白になっていた。


 無理もない。


「誰!?」


「まぁまぁまぁ」


「誰ぞ!! モーラさん、そいつはいったい誰ぞ!! ここにティトはおりますよ!!」


 パートナーが突然自分以外の男とぶつかったのである。

 いや、ぶつかるだけならまだいいけれど、なんか恋のお相手という感じで出てきたのである。


 これには男騎士、流石に焦った。


 まったくウワキツ格付けチェックの趣旨から外れていると言うのに、いろいろと進行を妨げていると言うのに、構わずちょっと待てボタンを押した。


 もはや今更しつこく言う事ではないのだけれど、男騎士はなんだかんだで女エルフのことを大切に思っている。普段、どエルフどエルフと弄り倒しているけれど、なんだかんだで彼女のことをちゃっかり愛している系男子であった。


 そこに来てのこの突然の裏切り。

 ちょっと顔が某三代目みたいな抜き差しならない感じになっていた。


 いますぐ、魔剣エロスを引き抜いて、テイスティングルームに突入しそうな、そんな感じになっていた。


「ティトの字。これはほれ、モーラちゃんの妄想じゃから」


「妄想でも、自分以外の男といちゃいちゃする姿を見るなんて、耐えられるほど俺はメンタルが強くないんです」


「知力1じゃからのう」


「あー、もー、どうしよう。これで、なんか宝〇の男役みたいな感じのヒーローが出てきたら、どうしよー。そんな感じにちょっとなれる自信がない」


「なるんか。ティトの字、お前、モーラちゃんのために宝ジェン〇になるんか」


 エルフィンガーティト子役が板についてきた男騎士である。

 まぁ、やれないことはなさそうな感じはあった。


 彼ならば、宝〇的なヒーローもやってやれないことはないんじゃなかろうかという感じはあった。


 もちろん、宝〇は女が男をやるから格好いいのであって、男が女をやる奴が男をやるからといって格好良くなるはずはない。

 だが、それはともかく男騎士ならできないことはなさそうだった。

 ノリノリで、歌って踊ってヒーローやりそうなところはあった。


 女が男に求める理想というのは、時として複雑怪奇である。

 まぁ、いい歳をしていれば、そこは現実的な所に寄せてくるのだけれど、エルフだけあってその辺りの引き際がガバかった。

 三百歳なのに、汚れキャラをやらされているし、それに甘んじている辺りから、その辺りの危機意識が足りていなかった。


 まさか、理想の王子様をこの場面でぶつけてくるとは。


「……ところでカイゲン。これはウワキツ有効なのでは?」


「うぅん。まぁ、いい線はいっとるんじゃがのう。なんというかまぁ、これから先にどんな奴が待っとるか次第じゃのう」


「……くっ!!」


 理想のヒーローを登場させただけではなびかない。

 有効を出さない。そこは風の精霊王カイゲン、ラブコメにうるさい男はちょっと一筋縄ではいかなかった。


 なんにしても、大切なのはこれから先。


 再び、止まった時を巻き戻して男騎士と風の精霊王。

 はたして女エルフの理想の王子様はどんなものと確認することにした。


 女エルフがこの小芝居のために、魔法で編み出したのだろう。

 はたして、彼女にぶつかった男は――。


「……あぁ、ごめんごめん。怪我はないかい、キューティーガール」


「あぁっ!? 誰かと思ったら、幼馴染のクール・ガイ・ティト(三割増し)!!」


「「ちょっと待て!!」」


 転げる。

 男騎士と風の精霊王、座っていた椅子から転げ落ちる。


 関西のバラエティ番組では鉄板の動きをして二人、もんどりうって床の上を転がると、ばしりばしりと彼らは床を叩いた。


 まるで陸に打ち上げられた海洋生物のごとく。

 アシカか。

 オットセイか。

 セイウチか。

 鮭か。


 という感じに、びったびったと床を叩いた。


 ひぃひぃと、声を切らせて笑い転げてから、一言。


「……三割増して!! モーラさん、三割増して!!」


「三割ますんや!! 今のティトに、三割増さなくちゃいけないところがあるゆうことか、モーラちゃん!! いや、三割なのか、三割でいいのか!!」


「現実的な数字でちょっと安心したわ。いや、三割やったら、まだギリギリワシも歩み寄れるわ。ワシもまだ、モーラさんが望むティト(三割増し)になれるかもしれんわ」


 はぁよかったと安堵する男騎士と風の精霊王。


 そこはやっぱり、なんだかんだでパートナー。

 男騎士が女エルフを大事に思っているように、女エルフもちゃんと男騎士を大事に思っている、理想の男性像も、彼をベースに組み立てているのだった。


 とはいえ――。


「三割かぁ。何がワシには足らんのじゃろう」


「まぁ、普通に考えて、知力じゃないかのう」


 三割増し、男騎士に女エルフが求めている魅力があるのもまた事実。

 なかなかありのままを受け入れてもらえる関係というのは難しいのだなと、男騎士は嬉しいようなもどかしいような、そんな顔をしてしまうのだった。

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