第759話 ど男騎士さんと嵐を呼ぶ

【前回のあらすじ】


 男騎士との既成事実を造るべくタッグを組んだ女エルフと赤バニからくり娘。

 そんな彼女たちに対抗するべく男騎士。自らの身体を機械油に浸すと火にかけて、男の塾名物である機械油風呂にて、その身を護るのだった。


 何を言っているのか分からないだって。


 僕も分からん。(お目目ぐるぐる)


「この作品、もう正気の奴が一人もいなくなってきたんじゃないの」


 まず作者が正気ではない。

 なんかすみませんねと思いつつ、海の上で戦うのはパロ元でもあったから許してほしいなと、苦しいことを言うのであった。

 天桃五〇大会。


「けど、途中までしか読んでないんでしょう、男の塾も」


 いつかちゃんと全部読むから許してください(慢性的金欠)。


◇ ◇ ◇ ◇


「さて。機械油風呂に入ってさっぱりした所で、落ち着いたかねモーラさん。それとアシガラ」


「……はい」


「……私たちがどうかしておりました」


 しおらしい。

 それまでのアラサー女の執念かくや、恐ろしい形相で男騎士に迫っていたのが嘘のように、すっぱりとしおらしくなった女エルフと赤バニからくり娘。


 いや、もはや二人ともそんな時代錯誤のおっぱっぴーな格好ではない。


 一方はいつもの魔道服。

 女っ気もなければ、まったくもって芋っぽい服装に。


 そして、もう一方は軍服姿。

 ちょっと女性的な感じはするが、それでも確かな規律を感じさせる落ち着いたものに着替えていた。


 男が機械油の風呂の中で胡坐をかいて苦悶に耐えている。

 そこまでして自分たちに迫られるのが嫌かと思えば、それは当然ちょっと心に来る。そして、それを四半刻も見せつけられれば、流石に心もへし折れる。


 そう、女エルフたちは心をへし折られていた。

 乙女心をへし折られていた。

 いや、益荒女心と言ってもいいかもしれない。


 とにかく、女として完膚なきまでに、自分たちが間違ったことをしていると、思い知った。そして改心していた。


 こんな自分たちでは、男の心をつかむことはできない。

 ドキドキの方向を明後日の方向に間違って解釈していたのだ。

 そんなことを思い知った時、彼女たちはようやく自分を取り戻した。

 自分を取り戻し、そして、何をやっているのだと正気になった。


 ここに、唐突に始まり、あれよあれよと流されるままに突っ走った、訳の分からぬ悪ふざけは決着した。

 女エルフと赤バニからくり娘。

 二人の深々とした土下座によって。


「私たちがどうかしておりました」


「婚期に焦るばかりに、つい、年齢も考えずにはっちゃけてしまいました」


「恋人を取られると思って、思わず変な感じになってしまいました」


「……よろしい」


 男騎士が許す。

 機械油でぎっとぎっとのテッカテッカ、むわっと匂い立つ独特の男くささ。胸板をこれでもかと強調した男前は、目の前の女たちの凶行を広い心で許した。


 本当に、男として広い心で許した。


 普通、あんな飢えた獣のように迫られて、恐怖を覚えてもしかたないというのに。そこは男騎士、女エルフと長いことコンビを組んできただけはある。

 毎度毎度、どエルフに付き合っていれば、心臓にも毛が生えていた。


「いや、私が悪いんかこれ?」


「しーっ、いいから謝っておきなさいよ、女エルフ!!」


 いつの間にか悪者にされていることに、ちょっと疑念を持った女エルフを、からくり娘が止める。

 せっかく男騎士が許したというのに、それを不意にするのは愚かというモノ。

 賢明な判断であった。


 さて、それはともかく。


 話はいったん落ち着いた。


「君たち二人が婚期を焦っていること、そして、どちらのウワキツ力が上かということで、ことの決着をつけようというのはよくわかった」


「分かるんだ」


「今となっては、私もちょっとどうかしていたと反省しているんだけれど、分かっちゃうんだこの人」


 お人よしの男騎士である。

 妙齢を越えて、結婚適齢期もちょっと越えて、いよいよヤバいかなという感じの女たちの焦る心はしっかりと受け止めていた。

 ちょっとその方向性が間違っていて、自分の身に危害が及びそうだったので止めたけれども、そこはそれちゃんと理解していた。


 どこまでも底抜けに優しいこの男。

 自分の貞操の危機だったというのにも関わらず、仏の心でそれを許した。

 しかし、魔剣エロスが許すかなというギャグさえ出さずにそれを許した。


 目の前できょとんとする二人に冷静に視線を向ける男騎士。

 冒険技能で代替できない場面だというのに、やけに今日は頭がよく見えた。


「この最後の大一番、それぞれ死力を尽くした戦いに水を差すのはどうだろうか。そう思ったから俺も、耐えれる所までは耐えてみた。ひとまず、二人のドキドキシチュエーションというものがどういうものか、あえて受けてはみた」


「流石ティト、人間としての器が違う」


「本当ね。なんか、勢いで番にするとか言ったけれどこれ思わぬ優良物件だわ」


「しかし、こんなトンチキファイトを見せられても、俺の心は変わらない」


 じっと見るのは女エルフ。

 その視線が意味する所は、今更言葉にしなくても皆に伝わった。


 これにはさしものどエルフでも、ちょっと度肝を抜かれてしまう。

 かぁと頬を赤らめた彼女は、そんな、いきなりという感じで慌てふためくと、てれてれと男騎士から視線を逸らして、膝をこすり合わせるのだった。


 どんなことがあっても、男騎士の想いは変わらない。

 いつだって、どんな時だって、彼は女エルフのことを愛している。


 そういうことであった。


 そしてそれは、男騎士にとって恥ずかしがることもなければ、揺るぐこともない真実まごころからくることであり、このような茶番に意味がないということを指していた。


 だからこそ――。


「俺では、公平な審判をすることができないと考えた。二人のウワキツ力、もとい、結婚適齢期をこじらせた女の本気を判断するには、俺では力不足」


 とんちきなことをまた言いだす。


 何を言い出すのと思った次の瞬間には早着替え。

 彼は、股間に巻き付けた見事な褌をたなびかせると、雲一つない晴天に向かって叫んだのだった。


 そう、この場を納めるのに最適なモノの名を。


 古今東西、老若男女のラブコメに長けた奴の名を。


「カイゲン!! 風の精霊王カイゲン!! ちょっと来てくれー!!」


「なんじゃーい!! へっ、へっ、へーくしょん!! まだまだ寒いこの季節、みなさん風邪のヒキ初めには気をつけましょう!!」


 そう、彼と契約した精霊王。

 最強の精霊王にしてラブコメ大好きおじさん。


 風の精霊王カイゲンを、男騎士はオブザーバーとして召喚したのだった。

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