第755話 どエルフさんとクリスマス熱

【前回のあらすじ】


 前回のどエルフさんにおいて、いささか行き過ぎた表現があったことをここにお詫び申し上げます。しかしながら、当方も婚期を逃した男の墓場であるWEB小説書きなので、そこは許してクレメンス――。


「いや、許されへんやろ。正気を失っているからって、これはいくら何でも言い過ぎ、やり過ぎなのでは」


 けど僕、こういうぐいぐい来る感じのウワキツキャラ嫌いじゃないですよ!!


 どうでしょうか!!

 婚期を逃した地方在住ほぼ無職(職人修行中)の僕でよければ、ウワキツ女子のみなさま!! こう見えて頼りがいありませんよ(残念すぎるアピール)!!


 なにはともあれ――。


「「さぁっ!! どっちがよりウワキツか、勝負といこうじゃないの!!」」


 女エルフも。

 バニーからくり娘も。

 びっくりするくらい正気を失っているのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「そんなモーラさん。ウワキツから羞恥心を取り払ったら、ただの危ない格好をしたヤベー女だというのに。あるいは、幾つになってもコスプレを楽しんでいたい、ピュアな心を持った乙女だというのに」


「……それは悪いことではないのでは?」


 女エルフから羞恥心が蒸発してしまったので、代わりに法王ポープがツッコミを入れる。


 確かに前者はともかく、後者は別に悪いことではない。

 趣味に没頭するのは悪いことではない。

 幾つになっても、コスプレに精を出したっていいじゃない。

 ちょっと体型を造るのが難しくなっても、それはそれじゃない。


 キャラに成りきるのが難しくても、キャラになりたいと思う心は大切じゃない。


 そんな法王からの謎擁護が飛び交う中――。


「だぞ!! やっぱり、あれは間違いないんだぞ!!」


「どうしたんだケティさん!!」


「どうかしたんですかケティさん」


「やっぱりって――まさかお義姉ねえさまのいつにないはっちゃけぶりに心当たりがあるというのですか、ケティさん!!」


 何かに気が付くのは彼女の役目。

 今回の章では割と戦いでも大活躍、ワンコ教授が声を上げた。


 彼女は、どうやら男騎士さえも気が付かない女エルフの不調の原因に気がついたみたいだった。


 だぞという台詞と共に、彼女の顔が急速に真剣みという名の劇画調になる。

 知っているのかメソッドを発動させた幼いワンコ教授は、その幼さに似合わない濃い顔をして、海の真ん中へと移動した女エルフに視線を注いだ。


「あれこそは間違いない――クリスマスの季節に羞恥心を蒸発させてしまうという謎の病気。病気だけれどもそんなに後遺症はない。ちょっとテンションが変になって、後で消せない黒歴史を刻むだけというもの!!」


「後で消せない黒歴史!!」


「まさしく、お義姉ねえさまの今の状態は、後で思い返して床の上で転がる感じの奴です!!」


「なんなのですかケティさん、その恐ろしい病気とは!!」


「……クリスマス熱!!」


「「「クリスマス熱!!」」」


【バッドステータス クリスマス熱: ふぉっふぉっふぉ。クリスマス熱にかかると、霊基が変質して色んなクラスになってしまうのじゃよ。そして、いつもの感じとはちょっと違う、ゆるっとしてかわいらしい感じになるのじゃよ。皆、それはよく知っているじゃろう。え、罹患してもあんまり変わらない奴らがいた。そんなバカな――】


「……いや、モーラさんは生きているだけでいつだって恥のかきっぱなしじゃないか。誤診じゃないのか」


 とは男騎士。

 流石に女エルフと長い付き合い、彼女のことをよく見ているだけある。故に、これ平常運転なんじゃねえと、ワンコ教授に切り返した。


 しかしワンコ教授、解説役としての矜持があるのか。

 はたまた、よほどの確信があるのか。

 彼女は劇画調の顔を崩さない。


 これは本当にそうなのだろうかと男騎士、彼もまたいつになく劇画っぽい顔になると、ごくりと喉を鳴らす。


 話に信ぴょう性が出て来た。

 しっかりと間を取って、ワンコ教授は続ける。


「だぞ、ティトも言ったんだぞ。羞恥心を失くしては、ウワキツは成立しないと。この羞恥心の喪失は間違いなくクリスマス熱によるものに間違いないんだぞ」


「いやしかし」


「確かに、モーラさんはどちらかというと、ちゃんとフリをしてからネタに入るタイプのエルフでしたからね。こんな唐突に、出オチみたいな恰好をするとはちょっと思えない」


「リーケットまで」


「そうです。確かにお義姉さまのウワキツ力は、この私も認めるところです。けれども、こんな風に自分から喧伝することはなかった。隠しても隠し切れない、ウワキツ強者としての風格こそがお義姉さまの真骨頂だったはず」


「エリィ、君もか」


 ウワキツ強者とは。


 強い言葉がぽんぽんと出てくる状況。

 男騎士たち、熟練のどエルフ節になれた者たちでなければ、たちまち置いて行かれる所だっただろう。そこは、常日頃、女エルフのドスケベっぷりに振り回されているだけあって、彼らにも幾らか余裕があった。


 そしてだからこそ分かる。

 確かに、今日の彼女のどエルフっぷりは変だと。

 何かちょっと喉に魚の骨がひっかかったような、そんな感じがあるなと。


「ほほほっ、たかが世界創造の瞬間から存在している程度の分際で、生意気な態度でおじゃる。いいでせう、このパープル式モーラが、真の熟女の魅力とはどいういうものかおしえてあげませう」


「ちょっとちょっと、何マジになっちゃってんの。大人気なさすぎテン下げなんですけれど。もっとこう、バブリーにジュリアナにパリピじゃなきゃ、今どきのヒロインは務まらないっていうかみたいな」


「……なんか違うイベントになっていないか?」


「その混乱もクリスマス熱によるものなんだぞ」


 話せば話すほど、確かに今の女エルフの状況は、羞恥心を蒸発させている感じがする。これは本当にそうなのか。


 気がつけば、向こうも違う画風で睨み合っている女エルフと赤バニからくり娘。

 男騎士。もはや言い逃れはできぬとばかりにため息を吐いたその時である。


 ぐるりと二つ。

 飢えた女の獲物を見るような視線が、彼の方を唐突に向いたのだった。


「よし、それじゃぁ、どっちがよりウワキツか、あそこの男に決めて貰おうじゃないの!!」


「いいわよ!! ダーリンのハートは私のものなんだから!! 心理的にも物理的にも!!」


 妙なテンションの妙な女たちにロックオンされた男騎士。

 ぶわっと噴き出る汗と共に、慌てて彼女たちから視線を逸らすがもう遅い。


 すぐに彼は、まるで原住民に生け捕りにされた現代人のごとく、女エルフと赤バニからくり娘に鹵獲されるのだった。


 せっかく助けられたというのに。


 雉も鳴かずばなんとやらである。


「た、助けてケティさん!! いったいどうすればクリスマス熱は治るんだ!!」


「だぞ、クリスマス熱に有効な治療法は確立されていないんだぞ――」


「そんな!!」


「知りうる限りでは、一晩男女で激しくプロレスごっこをしてからよく寝ると治る。そう書いてある文献を見たことがあるんだぞ!!」


「……賢者になる奴じゃないですかヤダァーッ!!」


 男騎士の絶望の叫びが木霊する。

 ウワキツに理解があり、男女の仲についてもよくわかる、聖なる夜の過ごし方についても知っている男騎士ではあったが、それはそれである。


 そういうのはこそこそとしたい。


 このまま為す術もなく、勝者とプロレスする未来が待っている。

 それをみんなに知られる。

 しかも、なんか妙なテンションで一晩中相手をしなくちゃいけない。


 いくらウワキツ耐性があると言っても限度がある

 男騎士とも言えど、叫ばずにはいられなかった。

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