第751話 どコンゴウさんとアシガラさん

【前回のあらすじ】


 アシガラの繰り出すウワキツ旋風。


 見る者を不安にする、そのちょっと危ない発言に、次々に人々が倒れていく。


 ウワキツとはすなわち、共感性羞恥。

 他人の奇行を目の当たりにして、ついつい耐えられずに動き出してしまうこの気持ち。


 感じたならば貴方もUWK値チェック。

 なおこのUWK値チェックは、いい歳したおっさんの大人気ない行動などでも発揮されることがあります。みなさんも注意してください。


「……なんで、なんでいい歳した男と女に厳しいの、この作品は」


 作者がそろそろいい歳したおっさんに差し掛かろうとしているからです。


「いい歳してこんなパロディだよりのへっぽこファンタジーしか書けないの恥ずかしいと思わないの!?」


◇ ◇ ◇ ◇


 アシガラのUWK値判定攻撃により、死の海と化した紅海。

 真っ赤なバニースーツの前にもはや全員が息していない状態。処置が遅れれば、大変なことになってしまう。

 あの年齢と自分の容姿を考えないUWK案件を処理しないと大変なことになる。

 そんな緊張感が漂う中――。


「ふむ、しかし赤バニーか。珍しい装備もあったものだな。青バニーの方がよく見るが」


「青バニは遊び人の装備だからな。割といろんな所で取り扱われているし、そもそも市民権を得ている。けど、赤バニはなかなかマニアック。パフパフでも刺激が強すぎるからと禁止されているからな」


「だぞ、よく分からないけど、何を着ようと人の自由なんだぞ。獣人の物まねも自由。うさぎさんの真似してかわいいんだぞ」


 平然とする三人。


 ウワキツな人の相手には一家言どころか自信のある男騎士。

 そんな彼と同じでウワキツにも理解が深い変態店主。

 そして、うわきついという感覚さえも分からない純真さの塊であるワンコ教授。


 彼らはアシガラのUWK値判定を見事に乗り切って、この広い海で人ながらにして神造兵器の精神攻撃に耐えきってみせたのだった。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。

 久ぶりのどエルフ案件である。


 日頃、彼女の奇行という名のウワキツ行動と姿を見て来たメンバーである。

 もはや多少の事では動じることなどない。


 もうUWK値が馬鹿になっていた。

 正気と狂気の境界が異様に低く設定されていた。

 長らくのUWK値チェックに晒されると、時にこういう事もおきる。ウワキツに触れるということは同時に、自らの精神をすり減らすということ。


 狂気とUWKはいつも裏表なのだ。


 まぁ、そんなことはさておき。


 突然海上に現れたレッドバニーにどうしていいか分からず、唖然とする男騎士たちをよそ眼に、颯爽と船上から躍り出たのはからくり娘。

 彼女は、小野コマシスターズとの戦いに参戦せず、後詰に回っていたのはこのためとばかりに、一気に距離を詰めると赤バニーに肉薄した。


 研ぎ澄まされた刀、その一振りがつむじ風を伴って走る。

 熱気と蒸気を帯びたその一撃はしかし、その刀身に映していた相手の身体を裂くことなく、むなしく空を斬った。


 軽やかにからくり侍の攻撃を躱して――最後のからくり娘。

 彼女は唐突に虚空の中から長柄の槍を取り出すと、それを頭上で回してから振り回す。打ち下ろし、からの突き、さらに返す刃での薙ぎ払い。


 矢継ぎ早、繰り出す流麗な技と共に、からくり娘の足が波を跳ねる。

 その歩みさえもまた流麗にして考えつくされている。

 飛んだ飛沫は、見事にからくり侍の眼前に飛び、彼女の視界を遮った。


「……くっ!!」


 一呼吸にも満たない不覚と停滞。

 しかし、それがからくり侍の命を捕まえる。


 充分なためと共に繰り出された、斬り揉むような槍の一振り。

 複雑怪奇なそれを、何とか見切ってよけたかと思ったその瞬間、彼女の眼前には白色の球が迫っていた。


 白いのは紙。

 それも蝋を塗りたくって、防水性を増したものだ。

 中に籠められているのは火薬と鉄くずだろう。


 東の島国で使われている、爆発系の道具。

 それをからくり侍はよく知っていた。


 不覚。

 そう悟った時には既に一手遅い。


 彼女の胸元で爆発した爆炎は、その身を焼き、更に青空に向かってその身を吹き飛ばした。七人の最初の原器が故か、はたまた幸運か。爆炎の中から飛び出したからくり侍は、衣服こそ焼き切れてはいたものの、なんとか軽傷で済んでいた。


 しかし。


「甘ぁい!! 砂糖菓子のように甘いわよ!! コンゴウ!!」


 爆炎の中に自ら飛び込んでさらに追撃を仕掛けるのは最後のからくり娘。

 アシガラ、彼女はさながら餓狼のような妄執でもってからくり侍にさらなる肉薄を見せると、その槍を閃かせたのだった。


 戦斧かくやという大きな槍の先。

 それが、確かな質量を伴って、からくり侍へと打ち付けられる。

 咄嗟、前に腕を繰り出してそれの直撃を防いだからくり侍だったが、そんなことで止められるほどに、目の前の敵の攻撃は柔ではない。


 十分に遠心力の乗った一撃は、生木を割る小気味よい音と共に、彼女が防ぐためにかざした左腕を跳ね上げたのだった。


 まずい、と、残された右腕で剣を構えて、逆にその大ぶりの一撃に合わせて仕掛けようとするからくり侍だが。


「だから甘々なのよぉ!! 甘ったるすぎて胸焼けするわね!! にゃぁーっ!!」


 アシガラ。

 そのかもしかのような太くたくましい脚で、肉薄しようとしたからくり侍を蹴り飛ばす。


 彼女がこの隙を狙って仕掛けてくると分かっていなければできないカウンター。見事にそれを決めたからくり娘は、槍を背中の方に回すと、彼方に飛んだかつての仲間を見据えて、ふふんと鼻とそのうさ耳を揺らした。


 やはりこのからくり娘、伊達ではない。


 ウワキツなネタ枠かとおもいきや、クマと同じくしっかりと強い。

 流石に戦神が造りたもうた兵器である。

 そう納得させるだけの力を、確かに彼女は持っていた。


 大胆に、そして自信満々に笑うアシガラ。

 

「無茶しちゃだめよコンゴウ。なんといっても、貴方はミカサに次いでのオールドタイプ。そろそろ身体にガタが来ててもおかしくない」


「……人の心配をするというのか、アシガラ」


「はっきり言ってあげるわ――BBA無理すんNA!! ほほほ、まぁ、たった数日の建造日の違いだけれど、貴方と私じゃ若さが違うのよ!!」


 お前がそれを言うか。

 天地創造の頃から存在している彼女らについて、一日二日の誕生の差などもはや誤差なのではないか。そんな疑問はさておいて、後続機の理さえも向うにはある。


 勇み足で挑みかかったがからくり侍だが、これは勝ち目が薄いか。

 さて、とどめよとアシガラが槍を再び構えたその時。


「BBAで何が悪いか!!」


 二人の間に割り込む影。

 そう、海の上を、風の精霊王の加護によって飛んで渡り、ふんどし姿で戦う男。そして、ウワキツについて造詣が深く、寛容でありなおかつ好意を持っている男。


 彼の名は――。


 いや、彼女の名は――。


「なっ、なっ、何その恰好!? どういうこと!? どういうこと!! 何考えてるの!!」


「何を考えているのかと言えばそれを説明するのは難しい。ただし、これだけは言える。人は、たとえ何歳になっても、どんな姿だろうと、なりたい自分になる権利を持つ!! そう――これが俺の理想!! いや、アタシの理想!!」


 波間に啖呵を切るそれこそは、あぁ、久しぶりの登場。

 男騎士のエルフに対する夢とロマンを詰め込んだ姿。


「私が、熟れに熟れて五百歳!! ウワキツさえも大人の魅力と言い切るいいエルフ!! エルフィンガーティト子よぉおおおおおおお!!!!」


 久しぶりのエルフィンガーティト子であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る