第746話 ど男騎士さんと大性郷との絆
【前回のあらすじ】
「行くぞ皆の者!! ムーンパワー!!」
「「「「メカップ!!」」」」
威臨社率いる鉄鋼船。
空に飛び立つセーラ服の男たち。
爺とおっさんたちによるウワキツを通り越した地獄絵図に、同じ陣営の者たちからも非難の声が上がる。
そう、セーラ服はもともと男の着るもの。
だから恥ずかしくないもん、なんて嘘っぱち。
当人たちは恥ずかしくないかもしれないが、関係者たちが青ざめるひどい絵面の中、いったい彼らは何をしようというのか。どうしようというのか。
謎を抱えたまま出撃した彼ら、そして、深まる小野コマシスターズとの激戦。
はたしてその決着やいかに――。
「おもっくそふざけているけど、これ、クライマックスなのよね」
そして、そろそろ不在のモーラ嬢はどうなるのか。このまま合流しないまま、まさかまさかの第七部完となってしまうのか。
今週もどエルフさん、トップスピードの悪ふざけで始まります。
◇ ◇ ◇ ◇
男騎士とからくり娘――『クマ』の死闘はひたすらに続いていた。
どちらも、人ならざる身体を持つ者。
その技は人間の理を越えて、あり得ぬ応酬を繰り返す。
斬った傍から腕が生え、飛んだ腕をつかんで振り抜く男騎士こと紫の鬼。
それを体の関節をばらばらに外して躱すや、その余力で身体をしならせて、手にした苦無で男騎士の身体を刻むからくり娘。
どちらも常軌を逸した太刀筋。
相手を絶対に殺すという、鬼気がその一手一手に忍んでいる。
まさしくここは殺戮の巷。
冒険者としても、騎士としても、一歩踏み込んだ境地に居るからこそ繰り出される技の数々に場は満ちていた。
どちらに軍配が上がるか。
静かに見守っていたのは、男騎士に振舞われるばかりの魔剣。
しかしながら、彼はこの戦いが始まった時から、その趨勢を読んでいた。
「所詮、神が造った兵器だ。兵器は兵器、その在り方の内でしか行動することができねえ。人が持つ、不完全故の可能性を凌駕することができねえのさ」
男騎士が勝つ。
そう信じて彼の鬼と化した剛腕に振るわれる。
かつて、自分が振るった名剣。
鬼の剛腕に掴まれても、曲がりもしなければ折れもしない至高の剣。
それを、当世で最強の騎士が使うのだ。
振るうのだ。
負けるはずがない。
ただの人間だった自分でさえ、その剣で神が与えた多くの理不尽をねじ伏せて来た。神が人に世界を委ねたその時から、薄氷のように薄くとも、人類は神に勝利するだけ可能性を持っているのだ。
そんな魔剣の祈りのような思いが通じたか――。
「ッ!!」
男騎士の振るった剛剣が、ついに情勢を覆した。
あわや、からくり娘の下段を狙ったかに見えた一撃は、そのまま彼女が着地するはずだった甲板を砕き、着地の動作を誤らせる。
バランスを崩した彼女は、それまで、精密細動にして巧妙に隠してきた、人の弱点である正中線を、男騎士の前に晒すことになった。
罠ではない。
追い込んだのだ。
隠し技はない。
直感であった。男騎士は鬼の身で、からくり娘の行動を詰ませたことを感じ取ると、すぐさまに必殺の大上段に構えた。
軋む魔剣。
唸る筋肉。
肺腑へと吸い込まれる海風。
嵐のような吐息を伴って紫の鬼は、咆哮を放ってそれを一直線に、からくり娘――『クマ』の体幹へと奔らせた。
『クマ』避けない。
いや、避けれない。
「ヂンゴォオオォオ!!!!」
「だみ声で言うと伏字にならんからセーフやな!!」
相変わらず間違っている必殺の掛け声。
しかしながら、鬼の猛々しい叫びにより、揺れたそれはなんとか放送規制用語の音域を外れていた。
しかしなによりも、その咆哮と共にくりだされた一撃が、追って巻き上げた斬撃音がそれをかき消した。
肉を断ち、骨を断ち、脊椎を割って、脳漿をまき散らす。
生物であればそうなるであろう。
必殺、唐竹割り。
しかしながら、これまで男騎士が繰り出してきたそれとあきらかに違う。
ためにため、更に瞬発的な踏み込みにより、高められた殺意の一撃は、相手が生身であれば、肉を爆ぜ、骨を粉砕し、脊椎をなます切りにし、脳漿を蒸発させる。
上段から降り注ぐ恐ろしいまでの圧力。
非生物であるからくり娘――『クマ』の身体さえも、歪ませるようにして変形させたその一撃は、二の太刀要らずの術利に乗っ取り、たった一撃で最強のからくり娘を再起不能に追い込んだ。
残心。
男騎士、鬼の身のまま魔剣を下げる。
しかしそんな彼に、刃を向けるものはもういなかった。
木くずと化したからくり娘――『クマ』の、どこかすがすがしい瞳が、甲板の床から彼を見るばかりであった。
「……御見事!!」
「はっは、あったりまえじゃい。ティトの奴をそんじょそこいらの冒険者と同列に見てくれるなよ。こいつは、まごうことなき俺の後継者――新しい時代の英雄よ」
「……元より侮ってなどおらぬ。神への謁見を目指す者、ティトとその仲間。神の使途たる我らもそれは知っている」
その時、顔面から零れ落ちた眼球が光る。
刃を向けるものはいない。
男騎士を久しぶりに追い詰めた、からくり娘もここに倒れている。
自らの死を受け入れた、悲しい眼差しはしかし。
まだ、勝負自体はあきらめていなかった。
元より、ここで敗れるのは想定の内。
自分の死さえも勘定に入れて、このからくり娘は男騎士に挑んでいた。
「やれ、キタカミ、オオイ……!!」
そう呟いて波が爆ぜる。
その波濤から、彼女は自分の現身である、からくり娘の攻撃が飛び出すことを、『クマ』はその瞬間まで信じて疑っていなかった。
自分をも凌いだ、自らの現身が事を為してくれる。
そう信じていた。
だが、波は穏やかにまた揺れる。
その中から、いつぞやのように飛翔物が現れることはなかった。
「……なんと」
「どうやら、やってくれたようだな、勝さんたちは」
そう言った男騎士は、鬼の姿から人の姿へと、その身を再び変えていた。
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