第734話 ど男騎士さんと再生速度

【前回のあらすじ】


 モッリ水軍との同盟を締結した男騎士。

 はたして小野コマシスターズとの戦いに一致団結して他の海賊団が挑もうかというその時、神が造りしからくり娘の最高傑作が彼を襲う。海から飛び出す魚雷と共に姿を現したそれは、黒髪セーラーの妖艶なる女丈夫。


「コンゴウより聞き及んでいるだろう。我こそは、七機の内で最も速く、最も鋭き神の刃。人に死をもたらす者として生み出された超兵器――『クマ』なり」


 作中最強の男騎士。

 これまで幾度とない窮地を、剣の一振りで脱してきた彼が、どうして彼女の凶刃にかかって手も足も出ない。いったいこれはどうしたことかと思ったが早いか、彼の首を彼女の刃が貫いていた。


 神が造りし七人の最初の原器。

 その最高傑作が持ち得る技能は――隠し技能【暗殺技能】。

 男騎士の【戦士技能】を上回り血風を人を殺める技前。はたして、勝敗はどちらに傾くのか。


「久しぶりに借りるぞ!! その力!! 顕現せよ――我が身に宿りし鬼の呪い!! 汝の名は赫星鬼アンガユイヌ!!」


 男騎士。久しぶりに鬼と化す。

 という所で、今週もどエルフさん、バトルバトルのノンストップでお送りします。


「いや、そろそろ止まろうや。この小説はおとぼけ下ネタファンタジーぞ」


◇ ◇ ◇ ◇


「オォオオオオオオオオンン!!」


 鬼の咆哮が四海に響く。

 波濤を揺らすほどの大きな叫び声に、モッリ水軍の船が揺れる。

 その異形と威容にむくつけき海賊たちが息を呑む中、男騎士――だった紫の鬼は魔剣を担いで目の前のからくり娘に相対した。


 呪いにより鬼と化しながらも自我を保っている。

 かつて、白百合女王国での戦いの際には、我を忘れて暴走した男騎士であったが、どうやらバ〇ブの塔の時と同じく、今回もまだ自我を保っているらしい。


 人ならざる獣のような姿になりながらも、その構えは間違いなく、鍛えこまれた戦士のそれであった。


 そのまま、彼は剣先を振り下ろす。


 鬼と化し膨れ上がったその腕は、人の胴ほどはあろうかというもの。

 さらに、はちきれんばかりの筋肉が皮膚の下に潜んでいるのがありありと分かる。そのまま腕に当たっただけでも身を砕きそうな一撃であった。


 しかし、それをまるで涼し気に、そよ風にでも吹かれたようにさっと避けるは最強の神造兵器。


 彼女は軽くその身を翻すと、まるで綱渡りのように男騎士の太い腕を渡って、一気にその首元まで駆けよった。

 刀は下段に構える。

 そこからの逆袈裟を狙っているのは明らかだった。


 白刃が映し出すのは男騎士の膨れ上がった首元。


「鬼と言っても不死身ではない。鬼殺しの妙技、我も知らぬ訳ではない」


 鬼を殺す方法はかつて男騎士が示した通りだ。

 無限に再生する鬼の身体だが残念ながら不死ではない。

 頭と胸が泣き別れれば、当然のように彼らは死ぬ。

 もっとも、すぐにそれらを繋げれば助かるが――兎にも角にも鬼を殺すには、その首を刎ねればいいだけである。


 神聖遺物のからくり侍。

 人をどころか命ある万物を殺戮することを目的として作られた彼女には、鬼の殺め方もしっかりと分かっていたのだ。


 しかも、からくりのその身には、呪いの力も影響を与えない。


 剣筋に迷いなし。

 ふんという気合と共に、紫色をした男騎士の腕を踏みしめて一閃。彼女は白刃を跳ね上げるように振るった。


 しかし。


「……ほぅ」


「ぐるルるううウゥうウ!!」


 男騎士とて自らの弱点を把握していない訳ではない。

 刃を振るった反動により、今一つ不安定になった身を必死に制御して彼は、なんとか首を動かすと引くと、閃いた凶刃を首元から逸らした。

 しかし、首を後ろに逸らした訳ではない。


 彼は自らその首を前へと進ませると、刀の軌道を読んでそれを捉えた。

 大きく裂けた鬼の口は、硬い犬歯のその先に、刃の腹を万力の如く締め上げる。

 ぴくりとも動かぬその咥えこみに、乾いた瞳でからくり娘が嗤う。


「あな恐ろしや鬼の騎士。鬼の呪いを斯様まで使いこなすとは。狂奔する呪いの力に、翻弄されるが宿命であるものを」


「カッカッカッカ!! うちのティトを舐めてもらっちゃ困るぜ!! こう見えてな、こいつは呪いにかかりやすいが、かかってもかからなくても、変わらないくらいに根っからの戦闘狂なんだよ!!」


「……なるほどそういうことか」


 刃を捨てて黒髪のからくり娘。

 その長髪を振り乱して風車のように舞うと、体のそこかしこから刃を取り出す。

 どこに隠していたか、大量の暗器が宙を漂ったかと思うと、それを今度は拳で、咢で、弾いて前へと打ち出した。


 暗器を打撃して飛ばす。

 それは振りかぶってそれを投げつけるより命中精度が劣るはずだ。

 にもかかわらず、からくり娘の放つそれは的確に男騎士の急所へと向かっていく。

 雨霰礫の如く飛ぶ暗器に、たまらず男騎士が距離をとる。


 しかし、その取った距離を逆に利用するように、激しく、そして間隙なく、からくり娘はそれを打ち出す。


「首を狙えぬとなればもう一つの手を使うのみ。鬼の呪いの再生速度、それを我が技で凌駕する」


「……なんつーでたらめな。ちくしょう、流石に神が造った殺戮兵器か」


「さぁ、どうする中央大陸の勇者よ。このままではじり貧という奴ぞ。なにやら我らを倒そうと謀略を巡らせていたようだがそれも無駄になるぞ。さぁ、さぁ、さぁ、如何にする」


 鬼気迫る調子で叫ぶからくり娘こと『クマ』。

 最強の神造兵器が嗤う間にも、例のモッリ水軍を襲った謎の攻撃は続き、みるみる船上は阿鼻叫喚の地獄に変じていく。

 どうする、どうすればいいと、男騎士が鬼の身ながら唸る。


 その時。


「ティトどん!! その刀を!!」


 船上に響いた男の声に、はっと鬼が目を見開く。

 すぐに彼は口に挟んでいた長刀を、首の一振りで虚空に投げた。

 すると、それを掴んで蒼天に男の姿が煌めく。


 着流しを翻し、たなびくはふんどしとおおふぐり。

 そう、宙に舞うは男騎士に秘奥を伝えし男――。


「チェストォオオオオ!!」


 大性郷。

 大上段どころか、捨身から出た一刀は、神造兵器の腕に向かって雷鳴の如く降り注いだのだった。


 完全な不意打ち、そして、致命の一撃であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る