第731話 ど男騎士さんと戦線介入

【前回のあらすじ】


 からくり娘『時雨』のからめ手により、モッリ水軍長男窮地に陥る。

 得意のエルフリアン柔術もあわやという所。彼女の自爆に巻き込まれ命はないかと思われたその矢先、爆炎の中から男の影が現れる。


 ふんどしをたなびかせて、モッリ水軍長男を胸に抱く男は間違いない。

 昨日、からくり娘たちに辛酸をなめさせられた男。愛しい人を奪われた男。そして、仲間の導きを受けて、再び立ち上がった男。


 我らが男騎士であった。


「チン〇ォオォオオオオ!!!!」


 大性郷直伝。

 G幻流の一刀が、からくり娘たちを両断する。


 叫べ男騎士!! 胸の哀しみを力に変えて!!

 戦え男騎士!! 知力1でも関係ないのだと世界に示すために!!


「また誤チン〇してるじゃないのよ!! 誰か止めてあげなさいよ!!」


 男騎士の誤チン〇が世界を掬うと信じて。


◇ ◇ ◇ ◇


 時は少し遡る。


「ティトの、おめえさん本気で言っているのか?」


「……モーラちゃんを失ってやけっぱちになったって訳じゃなさそうだな。目に光が消えてない。安心しろ旦那、それに以蔵。こいつは正気だ。正気で馬鹿を言っている」


 男騎士たちパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船の上に、三人の客人が訪れていた。


 一人は男騎士がよく知る顔なじみ――のはずである謎の大陸商人X。

 そして、もう一人はそんな彼と因縁浅からない関係にあると思われる老人、勝海舟。さらにそのおつきの者である暗殺者だ。


 レースのライバル三人を呼びつけたのは他でもない。

 彼らの間に立っている男騎士である。


 彼は寝ずの特訓の果てに新奥義を得て、さらに次の一手を考えていた。


「我らで同盟を結びたい。いや、小野コマシスターズを除く全ての船団と一時的に共闘する。このレース最大の障害となりうる彼女たちをまず一致団結して叩くのだ」


「……簡単に言ってくれるねぇ」


「しかしまぁ、アイツらがいる限り、俺たちに勝ち目がないというのも事実だ。その戦略眼については間違っちゃいねぇ。流石にお前が認めただけはある男よな――良馬」


 そう言って謎の大陸商人に視線を送る勝。

 どこか照れ臭そうに後頭部を掻いて店主は、まぁ人を見る目には自信がありやすよと、柄にもない感じで言った。


 はたして本当に彼に人を見る目があるかどうかはともかくとして。

 男騎士は今回のレースを行うにあたり、何が大切なのか、今何をするべきなのか。それが判断できるほどに立ち直っていた。


 女エルフを奪われた私怨からではない。


「このままあたらむやみに紅海を血で染める必要はない。この愚かな争いを、ここで我々で止めてみせよう」


「うむ。よくぞ申した中央大陸の勇者よ。いいだろう、この勝海舟こと映倫太郎、お前さんの男気に乗ってやる」


「まぁ、ティトとは長い付き合いだしな。頼まれちまったらしかたない。それに輪をかけて、ムッツリーニの奴の暴走を止めてやるのは俺しか居るめえよ。こればっかりは俺が出張るのもやむなしってもんだ」


「てん――謎の大陸商人X。それに、勝どの」


 差し出される男たちの手。

 三つの手の甲が重なり合って、いままさに同盟が締結される。


「やろう。東の島国の未来のためムッツリーニの行き過ぎた覇道を阻止するのだ」


 応という掛け声とともに、彼らは手を振り上げたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 そして、時間はモッリ水軍と小野コマシスターズの激戦の場面へと移る。

 しかしながら、それは先ほどの主戦場から少し離れる。


 モッリ水軍次男を襲った魔導飛翔体。

 それが放たれた場所。


 環礁に陣取って遠距離攻撃を放った彼らの下に、突如として氷の道が走る。それと共に、滑らかなその道を滑って奇襲を仕掛けたのは他でもない。


「……だぞ!! やってやるんだぞ、センリ!! ロイド!!」


「任せてください!!」


「ケティさん、後は我々にお任せを!! 自分の身を守るのに専念してください!!」


 奇襲。

 仕掛けたのはからくり侍と青年騎士である。


 彼らはモッリ水軍に対して攻撃を仕掛け、ほぼ無防備状態となったからくり娘――『赤城』と『加賀』にその矛先を向けた。彼らの主な攻撃手段である、魔導飛翔体が手元にないことを見越しての、最小戦力での突撃であった。


 立案は男騎士である。

 魔道飛翔体によるロングレンジはこの戦いにおいてもっとも脅威になる。


「これを抑えない限り、我々に勝利はない。なんとしてでも先に叩くのはこの攻撃手段だ。故に、悪いがモッリ水軍には、一時的に囮になってもらう」


 モッリ水軍に魔道飛翔体が攻撃を仕掛けるとともに救援。

 しかるべき後に、からくり娘に対して五分の戦闘ができるからくり侍。そして、そんな彼女には少しばかり力量が劣るが護衛を務めるのには十分な実力のある青年騎士。そして、海の上を進む手段を持ったワンコ教授。


 この三人を、魔道飛翔体を操るからくり娘へと差し向けることにしたのだ。


 近距離においては攻撃手段のないからくり娘である。


「うそでしょ!?」


「ちょっと!! 海を渡って攻撃してくるとか、いくら何でも反則!! しかも、七体の始まりの原器が来るなんて!!」


「無駄口が多い!!」


 たぁという一刀の元にからくり侍が刃を振るう。たった一振りと見せかけて、刹那の瞬間い三度それは木製の身体を引き裂いた。

 驚きの声を上げたからくり娘――『赤城』と呼ばれたモノの身体が、肩から腹、腹から股にかけて泣き別れる。


 ずるりと、まるで試し切りされた巻藁のごとく崩れ落ちた彼女は、からくり娘を動かしうる動力の線も断たれたのだろう、それきり動かなくなるのだった。


 まずは一人と着地するからくり侍。

 返す刃で残るからくり娘をと視線を向ければ――。


「バイスラッシュ!!」


 真っ向唐竹割り。

 男騎士から盗んだ技により、からくり娘を断つ青年騎士。

 彼の一刀が『加賀』と呼ばれたからくり娘を、真っ二つに割っていた。


 人間であっても絶命の一撃である。半分に割られた人形はもはや人形ではない。

 ただのガラクタである。


 かくして、小野コマシスターズ最大の脅威である『赤城』と『加賀』――。


「尋常に打ち取ったり」


「……ふはぁ」


「だぞ!! よくやったんだぞ!! センリ!! ロイド!!」


 七体の始まりの原器である『ホウショウ』から作られたからくり娘は、紅海の果てに事切れたのだった。

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