第728話 ど男騎士さんとバイスラッシュ改

【前回のあらすじ】


 西紀さんの「土着〇サキュバスさん」めっちゃ面白いよね。


「あらすじじゃ!! ッ!!」


 カクヨムコンのエロギャグ部門では一つ抜けてるなと感じていますが、はたしてどうなることやら。これからもひっそりと応援して行こうと思います。

 あの独特の、吉幾〇の代表曲みたいな台詞回しがたまりませんよね。


 とか、それはともかく。


「チン〇ー!!」


「誤チェストにござる!!」


 大性郷の導きにより、G幻流初太刀斬りを学び始めた男騎士。しかしながら、彼の発する掛け声は、毎度のことにちょっと危ういものなのであった。

 はたして男騎士の運命は。

 大性郷の運命も。


 修行はまだはじまったばかりだ!!


「これ、西紀さんに怒られる奴じゃない?」


◇ ◇ ◇ ◇


 男騎士と大性郷の修行は夜明けまで続いた。

 女エルフを失った悲しみ。大切なものを失った喪失感。それらを紛らわすように、男騎士は剣を振るい、大性郷はその姿を見守り続けた。


 幾たびにも重なる水面への打ち込み。最初はただ水面が爆ぜるだけだったそれがいつしか瀑布と化し、ついには海岸の稜線へとその破裂が届いた時、払暁の朝日が水平線に顔を出した。


「……できた」


「うむ。お見事でござるティトどの。G幻流初太刀斬りの完成でござる」


「あら意外とあっさりと。もうちょっとかかるかと思ったんだがな」


 男騎士の戦士技能は本物ということか。それこそ、魔剣エロスが拍子抜けるほどにあっさりと、彼は大性郷の教えた必殺技をマスターしてしまった。


 さらにさらに――。


「G幻流の技は東洋剣術にござる。これをティト殿が使う西洋剣術と合わせるのにはまた別の技量が必要――しかし」


「あぁ」


 櫂の木刀を大性郷に戻し、男騎士は愛剣こと魔剣エロスを引き抜いた。構えるは大上段。身の丈はあるかという櫂の木刀を持ち上げた膂力で、魔剣エロスを担ぎ上げ、そしてその柄を握りしめると、男騎士は大きく振りかぶった。


「ハイパーバイスラッシュ!!」


 魔剣海を割る。

 西洋剣から繰り出された振り抜きの一撃は、質量で圧倒的に劣りながらも海を割り、波が打ち寄せる砂浜までその斬撃を届かせた。今や、波にさらされ、男騎士の斬撃に打ち当てられ、見るも無残な藻屑となったGたちにその斬撃は炸裂する。

 あわれ二人のGは、あべぶと断末魔を上げてまた浜辺を舞った。

 しぶとい限りである。


 ともあれ。


 天晴というしかない男騎士。彼は、櫂の木剣での術理をすっかりと自分の中に落とし込み、即座に自分のスタイルに昇華してみせた。もはやG幻流初太刀斬りではない。彼が使ったそれは、ハイパーバイスラッシュという新たな男騎士の必殺技になっていた。


「……略してパイスラ!!」


「略チェストでござる!!」


「略すんじゃないティト!!」


「では、パイスラッシュでどうだろうか?」


「だったら最初からそれでいいじゃねえか!!」


「最後の最後まで色ボケはかわりもさん。流石ティトどのでござる、さすが」


 だははと苦笑いが朝ぼらけの海辺に漂う。

 夜を徹しての修行であったというのに、男騎士と大性郷の顔つきはさわやかで、少しの疲れも垣間見えなかった。むしろ、男騎士の表情には、かつての彼の中にあった、逞しさあるいはふてぶてしさ、なんにしても彼らしさが戻っていた。


 いついかなる時でも色ボケを忘れない。

 女エルフがいなくなって取り乱したかと思いきや、ここでようやく平常運転。大性郷からの激励をうけて、男騎士は確かに立ち直っていた。


 魔剣エロスを鞘に納め、男騎士は深々と大性郷に頭を下げる。


「性郷どん、恩に着ます。貴方が俺を励ましてくれなければ今頃どうなっていたか」


「……ティトどん」


「モーラさんのことは、彼女の事ですからきっと大丈夫だと信じています。いつだって、あの人は俺の思いもよらない発想で、パーティの窮地を救って来たんだ。信頼できる俺の相棒なのだ」


 絶対に彼女は戻ってくる。


 そう確信して、男騎士は朝焼けに揺れる大海を臨んだ。

 この広い海のどこかで、きっと彼女は生きている。そして、自分たちが前に向かって進む限り、それに追いつこうとやって来るに違いない。


 目指す島は冥府島ラ・バウル。それは変わらないのだ。

 だったら、彼女を信じて進もう。


 男騎士の背中に、今ふたたび確固たる信念が宿る。それを眺めて大性郷、ようやくひと安心という感じでため息を漏らしたのだった。


「まったく、ティトどのはまだまだ青い。しかし、その青さが貴方を大英雄たらしめているのでごわすな」


「……俺が青い? そうなのだろうか?」


「いつしか男というのはどうしようもないシステムに組み込まれてしまうものでごわす。人間たちの織りなすシステムは、時に男を殺し、どうしようもない人生の袋小路に追いやるもの。それを跳ね除けて進むことは難しい」


 その言葉の節々には、暗に自分の来し方が滲んでいた。

 明恥政府の要職としてその中枢にありながらも、最後にはどうしようもない流れに巻き込まれて死へと至った大性郷。彼が最後まで、英雄として生き続けられなかったのは何故なのかといえば、結局男騎士のそれに行き着くのだろう。


 青さ。


 良くも悪くも、この世界の美しさを信じ、人々の善き面を信じ、最悪を想定せずに前に踏み出せる勇気。時に落ち込み、時に後悔し、それでもよりよい未来へと歩み出すことができるだけの、天性の性格。


 敵わない。そんな笑顔を男騎士の背中に向ける大性郷。

 そのふぐりが朝日に光る中、男騎士は彼に向かってほほ笑んだ。


「よくわからないが、ありがとう性郷どん。貴方と会えてよかった」


「……あぁ、なるほど」


 性郷が何かを自覚したように呟く。


 ようやく男はその時悟った。


「性郷どん?」


「……なんでもござらん。ティトどの。さぁ、第四レースでごわす。ここから逆転してみせもうそう。チェスト、きばれ」


 自分はおそらく、この男に会うために再びこの世に戻って来たのだと。

 この世界を明るい方向へと導いていく勇者に、助けと東の島国の希望を託すために、こうしてこの世に顕現したのだと。


 櫂の木剣を後ろ手に握りしめる大性郷。

 しかしその握る手は、微かに透明感を帯びていた。


 彼を黄泉路から浮上させた、島に打ち付ける海水のように、それは清んだものだった。

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