第723話 どウルフさんとウワキツ
【前回のあらすじ】
いろんなデビちゃんがいるんだなぁ。
どんどん出てこい働くデビちゃんって感じだなぁ。
あぁ、もう、本当に、可愛いは正義って奴ね。
「いやいやいやいや、もっと触れるところがあったでしょうよ!! なにをそんな、のんきな感じで過ごしているのよ!!」
そう、謎の潜水艦呂09。どうやらそれは、からくり娘たちと同じ神が造りたもうた兵器の類らしかった。であれば、このタイミングである。
もしやからくり娘と関係のあるものなのではないだろうか。
勘ぐる女エルフ。
そんな彼女に、直接船のシステムから帰って来た答えは。
「オーケー、キャプテン。ワタシを造ったのは、戦の神ミッテルです」
「……えっ?」
彼女を困惑させる声色であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「参りました。この幸運のユキカゼでも倒せぬ魔性があろうやとは。流石はかつて世界を掬いしシコティの魂がやどりし魔剣ということでしょうか」
「むー、まぁ、どうなんだろうねぇ。その程度の事でユキカゼの幸運を跳ね返せるとは思えないけれど」
「どうします? 今度は私たち、一航戦による奇襲も想定されているでしょうし、電撃作戦は使えませんよ?」
「正面戦力からぶち当たりたいところですけれど――参りました、まさか、駆逐チームがほぼ全滅とは」
小野コマシスターズ宿舎。
昼の男騎士たちとの戦いを終えて、ほうほうの体で逃げ帰って来た彼女たちは、酒も飲まずに作戦会議を行っていた。
まぁ、からくり娘である、当然、飲食など必要ない。
必要なのは魔力と、それを動力へと転換する転換炉。
彼女たちはその特性を活かして不眠不休でいざ次の第四レースへの作戦を練っている途中であった。
さて、ここで一つ戦力状況を確認しておきたい。
まず男騎士たちに正面から攻撃を仕掛けたユキカゼ率いる駆逐部隊である。
これらについてはほぼ全滅。男騎士が気を失い、代わりに身体を動かすことになった魔剣エロスの凶手にかかり、彼女らはことごとく打ち取られた。
残ったのは――先の戦いで彼らの恐ろしさを知っていた二体。
時雨と夕立である。
彼女たちの手により、なんとか全員で撤退することはできたものの、その損害は大きい。再び戦えるようになるには、体の再調整が必要である。そしてなにより、あの悪鬼羅刹の如き魔剣エロスの戦いぶりを前にしては、いかに心無きからくりの娘たちと言っても、恐怖心が芽生えていた。
闘争心の強い時雨と夕立ならば戦えるだろう。あとは、後方支援で残してきた白露を加えて、せいぜい四名。
ユキカゼは、自分を基に造られたからくり娘たちの脆さに、少しばかりめまいを覚えた。
一方、しれっとユキカゼと会話をしているのは、そこそこの機動力と火力を持ち合わせているからくり娘。噂の武闘派からくり娘こと『クマ』であった。
戦場ではこちらも悪鬼羅刹かという戦いぶりを見せる彼女だが、陸の上では随分とおとなしく理知的だ。
ユキカゼの発言を受けて彼女は、冷徹に作戦を練り直していた。
パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムをどのようにして倒すのか。
無力化したはずが、何故かまだ無類の強さを見せる男騎士を如何に倒すか。
彼女が引き連れて来たのは、自分を基に造った四体のからくり娘。
どれもバランスに優れているが、そのうち二機については、阿吽の呼吸で水上戦闘を繰り広げるという神がかった性能をしている。
原器である『クマ』をして、自分を越えてしまったかもしれない、とまで言わしめたからくり娘だ。
名を、『北上』と『大井』。
どちらも東の島国の地名からとられた名であった。
なんにしても、小回りの効く戦力は失ったが、代わりにそこその火力と機動力を持つ部隊が合流した。これを主軸に作戦をかんがえていくしかあるまい。
もう一つ。
先ほどの戦いで、女エルフを水面に落とした、強襲部隊。
一航戦こと『ホウショウ』から生まれた二機、『赤城』と『加賀』も健在だ。
ロングレンジからの攻撃は、おそらく、また男騎士たちの意表を突くタイミングで、繰り出されることになるだろう。
打撃力はそれほどないが、その奇襲能力は、既に第三レースで証明していた。
「次に叩くなら
「いや、それは流石に外交問題になりかねません。やはり、大将狙いでは」
「あの狗族の娘は?」
「あれはなんていうか、パーティのお荷物でしょう。そのままにしておいた方がいいです」
言いたい放題である。
ワンコ教授が聞いていたら、僕はお荷物じゃないぞと怒りそうなものだ。
まぁしかし、実際戦闘面については、いささか物足りないのは事実。
氷の精霊王の力を借りれば戦えるが、それもまだ、十全に使いこなせているとはとても言いづらい状況だった。
以上が、現状の小野コマシスターズこと、からくり艦隊これくしょんの実力。
「……いや、アシガラさんはどうしたんです? 確か一緒に呉から出撃したはずですよね?」
「あー、アシガラは、ほらー、いろいろとあれなあれだから」
「アシガラさん、なんかいきなり航路を変えて、ちょっとこっちから恋の匂いがしてくるわとか言ってどっか行っちゃいましたね」
「自由ですね、あの人」
またですかと頭を抱えるのはユキカゼ。
小さいながらもこの大所帯をまとめるリーダーは、金色の髪をくしゃくしゃにすると、恨めしそうに蒼穹を睨んだ。
ひとしきり恨めしそうに彼女はそれを見つめて――。
「まぁ、いいでしょう。あの人は、いつもここぞという、肝心なタイミングでやって来てくれますから」
「だな」
「ですね」
「そして、いろいろと驚かせてくれるんですよね。そっちは大丈夫でしょうか」
沈黙が場を包む。
どうやら、破天荒なキャラクターをしているらしいアシガラ。
そんな彼女を思って、からくり娘たちは沈黙した。
◇ ◇ ◇ ◇
「おっかしいわね。この辺りから、何かこう強烈な、恋の予感がしたのだけれど。まったく何も見えないわ。どうなっているのかしら」
トウの立っている肌に、ちょっとたるんだ腹回り。
肌の年齢は曲がり角、けれども認めたくないその年齢。
いわんや、神の兵器として、命など持っていないはずの彼女だが、どうしてそれを気にしている。
暗闇に沈む夜の海に、照明弾を飛ばして辺りを確認する。
微かに捉えたのは、第三レースのゴール。
ホーライ島の影。
「とりあえず、戻りますか」
そう言った彼女は、やけにVゾーンがきわどく、胸の辺りがぺらりとめくれてみえてしまいそうな、きわどいスーツを着ていた。網目のストッキングよく似合う、スーツを着ていた。そして、ノリノリでうさぎの耳を付けていた。
そう――。
バニーガールである。
きっついねぇ。
「むぅ、今度こそ素敵な殿方をこのスーツでゲットしてみせると思っていたのに、気のせいだなんて残念だわ。あーもう、このむしゃくしゃは、全て、戦いにぶつけてやるんだから。待っていなさい――パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム」
そう、この、ウワキツ女こそ、他でもない。
残された、七人の最初の原器。
その中で、東の島国側についたモノたちの最期の一機。
アシガラに違いなかった。
そのウワキツ力、女エルフにも勝るとも劣らない。
愛する人のために、バニースーツで駆け付ける剛の者の存在を、知るモノは彼女の仲間を除いていない。
はたして、どうなるのか。
誰にも止めることができないまま、始まってしまうというのか。
大惨事、ウワキツ大戦が――。
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