第718話 ど男騎士さんと取り乱し
【前回のあらすじ】
男騎士たちパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの一団を、突然のマシントラブルが襲う。大きく出遅れた彼らは、レースの大本命である勝率いる威臨社にすっかりと追いつかれてしまった。さらにさらに、トラブルはトラブルを呼ぶ。
「……おや。おやおや、びっくりしました。まさか、貴方でしたか。いえ、そうですね、貴方だからこそライダーンさまは、自分の手元から引き離さなかった」
「……『ユキカゼ』!!」
「……『コンゴウ』!!」
相まみえるは破壊神が残したからくりの兵器たち。
ユキカゼとコンゴウことからくり侍。
すわ、小野コマシスターズが満を持して、男騎士たちに総攻撃を仕掛けてきた。
しかも。
「……えっ!?」
「モーラさん!!」
ひらり女エルフの身体が宙を舞う。不意打ちを喰らって、哀れかな女エルフは水面へとその体を翻すこととなった。
はたして女エルフの運命やいかに。
さて、レースも中盤ならば第七部も中盤。
今週も、どエルフさんはじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
「モーラさん!! モーラさん、無事か!! 待っていろ、今、助けに行く!!」
「落ち着いてくださいティトさん!! 敵が目の前に迫っているんですよ!!」
「だぞ、ティト!! 今はいったん落ち着くんだぞ!! モーラならきっと大丈夫なんだぞ!! それより、目の前の敵を!!」
「モーラさん!!」
男騎士、大いに取り乱す。
いつも冷静沈着。
どのような局面でもどっしりと構えて事態に挑む男騎士。歴戦の戦士にして、経験豊富な冒険者が見せるその不動の姿に、女エルフも他のパーティーメンバーも大いに勇気を与えられてきた。
その背中、その表情、その在り方に、絶大な信頼を彼らは抱いていた。
彼がそうだからこそ、このパーティーメンバーは強かった。
男騎士の戦士技能によって彼らはこれまでの冒険を切り開いてきたわけではない。彼は、冒険者として優秀なのはもちろん、リーダーとして類まれない才覚を有していたのだ。だからこその最強、だからこその不敗の快進撃。
しかし、その彼が今、我を忘れて青い顔をして水平線に声を投げかけていた。
もはや前後不覚も極まれり、手のつけようのない状態であった。
無理もない。
それほどまでに男騎士にとって、女エルフの存在は大切なモノだったのだから。
船の縁に手をかけて大海に飛び込もうとする男騎士。
すぐさま、それを後ろから羽交い絞めにして止めたのは、彼の不肖の弟子である青年騎士だ。
ダメですと叫んだ彼に、普段の男騎士だったら、すぐに我に返ることだろう。
だが、しかし。
「止めるなロイド!! モーラさんが!! モーラさんが海に投げ出されて!!」
「分かっています!! けれどもまずは目の前の敵をなんとかしないと!!」
「ダメだ!! 一刻も早く彼女を助けないと!! 彼女の身になにかあったら――俺は俺はもう!!」
愛する者の命。
その危機を前にして、取り乱さない者があるやろうか。
もはや、彼は混乱ステータスを付与されたように、正常な判断ができなくなった。
これは偶然か。
それとも必然か。
あるいは故意か。
にんまりとほほ笑むのは金髪のからくり娘。
『ユキカゼ』を名乗る七人の最初の原器――こと彼女は、マストの上で腕を組みながらからくり侍に視線を向けた。
「まったくツイていますねぇ。まさか、副リーダーを狙った一撃が、こうもてきめんに効いてくれるとは。これであなたたちの指揮系統はズタズタですね」
「……相変わらずですね『ユキカゼ』。人の不幸を転じて自分の幸せに変える者」
「その呼び方はやめていただけますかァ。私はただ、普通に、まっとうな戦い方をしているだけ。ただ、貴方たちが不幸という名の死神に魅入られただけですよ」
そう言う幸運のからくり娘の目は冷たい色を帯びている。
からくり侍と同じ目的で鋳造された神の兵器。
しかしながら、両者の間にはとても相容れることのできない断絶した何かが存在しているようだった。
しかし、今は、そんなことを言っている場合ではない。
男騎士たちにとっても。
そして、からくり娘たちにとっても。
先に声を上げたのは――男騎士パーティーメンバーの頭脳役。その代打。
「皆さん、敵襲に備えてください!! ロイドさんはいったんティトさんを抑えて!! ここは私たちだけで迎撃します!! 行きますよ、皆さん!!」
ここぞという場面で頼りになる彼女の姉――女修道士を彷彿とさせる果断さで、彼は男騎士に代わって指揮を執ってみせた。
対して、それに応えるのはからくり艦隊これくしょんの首魁のユキカゼ。
黄金の髪を振り乱すと、彼女は手を前に振り出して、自らを基にして作られたからくり娘たちに下命した。
「いきなさい!! 白露型、秋月型のみなさん!! 大混乱に陥ったパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムを討ち取る大チャンスです!! この幸運の女神の前髪を、逃さない手はありませんよ!!」
すわ、一斉攻撃。
先日、たった二人で船上で無双の立ち回りを見せたからくり娘。その姉妹機たちが、怒涛の勢いで押し寄せる。
相対するのはからくり侍と新女王。
主戦力立った二人で、この猛攻を防ぎきれるのか。
しかも、頼れる指揮官は完全に上の空である。
窮地。
思わず顔を法王の前で、からくり娘たちは――。
「なっ!?」
「倒すなら一番強い奴からでしょう。それも、一番弱体化した状態の、ね」
一斉に男騎士たちにその矛先を向けた。
鎖鎌。
手裏剣。
分銅。
チャクラム。
苦無。
直刀。
曲刀。
縄。
火縄銃。
多種多様な武器が戒められた男騎士と、彼を羽交い絞めにしている青年騎士へと向かう。
一瞬の沈黙ののち。
激しい剣戟が、紅海の水面に木霊した。
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