第716話 どエルフさんと幸運艦さん

【前回のあらすじ】


 え、イヤリングって耳以外の所に装備できるんですか!?


 どエルフの口から紡がれる衝撃の事実。

 いったい彼女はどこにイヤリングを装備しようとしているのか。


 なんにしても。


「これ、性描写のレーティングつけてても、やっていいネタです?」


 瞼につけるのかな。

 それとも鼻につけるのかな。

 それとも舌の先につけるのかな。


 なんにしてもひゃっはー、こいつはとんだどエルフだぜ。


 世紀末エルフ伝説―北斗のフェラリア。


 はじまります。(すっとぼけ)


「はじまらん!! わい!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 謎の大陸商人Xはイヤリングだけを渡すと颯爽と船を後にした。

 もうなんていうか、これ以上は野暮ってもんだなという感じで、颯爽とその場を後にした。石油王もびっくりのスピードワゴンな去り方であった。


 ともあれ、試合開始前の交流はここまで。


『さぁ、まさかまさかの一位が棄権という大波乱の展開となった第二レース!! 繰り上げで一位となったパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの準備が整ったようです!! なにやら第二レースでは北海傭兵団に肩入れをしていた彼らですが、無念にもレースを棄権した北海傭兵団の意志を継げるのか!!』


「……継いで、みせるさ」


「ティト」


 船首に立って海の先を見つめる男騎士。

 第三レースの舞台は、再び水路も何もない凪の海。


 果てしなく続く海原。

 目印も見えない中を、一晩かけて走り抜ける。

 このレースの道中で、最も長く、そして過酷なレースだ。


 向かうのはホーライ島。

 そこでようやくレースは折り返しを迎える。


『レース内で最長の距離と航行時間を誇るこの第三レース。逆転が起こるならばまずここでしょう。船上での夜明かしもまた初めての経験。さぁ、それでは――』


 GTR第三レーススタート。

 運営のコールが入る。


 主舵いっぱい、帆を張れと女船長が声を上げれば、それに応えて女海賊たちが声を張り上げる。さぁ、出港だと息巻いたその瞬間。


 ――ぶちり。


「へっ?」


「あっ?」


「えっ?」


 不吉な音がしたかと思うと、男騎士たちが乗る海賊船のメインマストがばらりとはだける。一体何がどうしたことか、風を捕まえて走るはずのその船の純白の帆は、風に揺れて不気味にたなびいた。


 ばたりばたりと慌ただしい音だけが水面に木霊する。


 少し遅れて、その状況を的確に説明したのは――。


 男騎士たちではなく運営であった。


『おおっと、ここで思わぬアクシデントが!! パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船がマストトラブル!! 帆が外れるという事態に!! これはいけない、せっかくスタートしたというのに、大幅なタイムロスだ!!』


 確かにその通りだ。


 だが、一つだけ認識が足りていない部分がある。

 いや、言及が足りていないというべきか。


 より正確に言うならば、もう一つ、このアクシデントには言及しなければならないことがある。


 そう――。


『さらによりにもよって、このタイミングで港に潮風が吹き込んできた!! 揺れるメインマスト!! これは修理に時間がかかるぞ!! せっかくのリードが台無しだ!!』


「なんてことだ」


「いきなり幸先の悪い話ね」


「アンナ!! 急いで修理を!! せっかく北海傭兵団さんから譲ってもらった一位を、こんな初歩的なミスで失う訳にはいかないわ!!」


「分かっています、わかっていますけれど、これは――」


 猛烈に吹き荒れる、海上の嵐。

 純白の帆はまるで怪物のように船上で暴れまわり猛威を振るう。

 下手に触れようものなら身体を持っていかれる危険がある。


 この修理はどうやら少し時間がかかりそうであった。


 そして――。


◇ ◇ ◇ ◇


「おぉっ!! 早速、パイ〇ーツの奴らがトラブってます!!」


「ふっふっふ、人の不幸は私の幸せ。幸せと不幸は表裏一体、相対的なもの」


「……そんなものですかねぇ」


「そんなものですよ。このユキカゼがいる限り、幸運を呼ぶ風は私に向かって吹くのです」


 金髪のからくり娘。

 男騎士たちに遅れて一時間半後に出港する彼女たちは、小野コマシスターズ。

 そのリーダー、『ユキカゼ』なるからくり娘が不敵に口元だけで笑う。


 そう、どうやらこの第三レース。

 思わぬ事態に発展しそうな予兆があった。

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