第710話 ど神々さんと世界創生
【前回のあらすじ】
からくり侍は、破壊神ライダーンに造られた神聖遺物であった。
彼女を含むからくり娘たちはライダーン伝説に歌われる、世界を八日七晩焼く使徒。彼女は世界を壊す兵器として造られた。
しかし、とある神の妨害により、その存在をゆがめられてしまった――。
「ござる。破壊神さまは確かに世界を焼いた。焼いて人が住まうための大地を想像した。けれども、その大地の一つを、早々に奪われてしまったのでござるよ」
「……もしかして」
「……まさか」
その暗黒の神の名は魔神シリコーン。
人の世にあってなお、その力によって人を操ろうとする古き神であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「世界創造の一日目にそのようなことがあったとは」
「だぞ!! 教会の資料にも、考古学の資料にもない貴重な話なんだぞ!! なにより、神代からの生き証人というのがすごいんだぞ!!」
「……いや生きてはいないでしょう。からくりなんだから」
ちょっと冷静なツッコミを入れてクールダウンする。
それくらいのことをしないと、ちょっとスケールの大きすぎる話に、女エルフたちもついていけなかった。彼女たちは、この世界の者たちが知らない世界創生の秘密に今迫ろうとしているのだ。
好奇心に目を光らせるワンコ教授。
教会という神を崇める団体の長である重責から息を呑む
自分の母を苦しめた暗黒大陸絡みの話ということで、はからずとも緊張する女エルフ。そして同じく新女王。
そんな中、まったく意味は理解していないが、なんだか深刻そうな話なので、とりあえず眉間に皺を寄せておいた男戦士。
四者四様の反応。
それを待って、再びからくり侍は伝説を語った。
「原初の大陸――今の暗黒大陸を乗っ取った魔神シリコーンに、ライダーンさまは憤怒しました。そして、本来であれば我らに任せるはずだった、創生の八日七晩を自らの手で執り行うことにしたのです」
「ふむ。責任を感じてのことか」
「いえ。我ら七体の最初の原器は、神に比する力を持った人造兵器でした。けれども、やはりオリジナル――本当の神に勝つことはできない」
「神に勝つには同じく神でなければいけなかったということですね」
「もしかして、最初の大陸を奪われた時に」
「モーラさんの想像された通りです。我々の長女にして原器の一機――『はじまりのミカサ』は魔神の手により葬られたのです」
悔しそうに唇を結ぶからくり侍。
彼女たちがこの世に造られた理由。
そして封じられたという事実。
彼女らに代わって破壊神自らが腰を上げたということを考えれば、その顔の底に秘められた感情は容易に想像できる。
絶句する男騎士パーティの面々。
彼らと同じように、からくり侍もまた暗黒神と抜き差しならない因縁を持っていたのだ。
男騎士パーティに紛れ込んだのも、男騎士に弟子入りなどしたのも、きっと偶然などではない。それは何かを意図してのことだっただろう。
しかしまぁ。
とりあえず、その辺りについては一旦男騎士、考えないことにした。
彼女が男騎士たちと同じように、魔神を憎んでいることに変わりはない。今は、それが分かっているだけで十分だった。
というか、それくらいしか知能1の男騎士には分からなかった。
「なるほど。つまりシリコーンが更に大陸を奪わないように、ライダーンは自ら動いたという訳か」
「ライダーンさまだけではありません。海母神マーチ、創造神オッサム、冥府の神ゲルシー、戦神ミッテル、そしてアリストⒶにFの両テレス。おおよそ、古の神のすべてが協力して、魔神シリコーンに対抗しました」
「名がないのは、バブルスとアッカーマンだけですか。まぁ、の二柱は特殊な神ですからね。そうなってしまうのは仕方ないかもしれません」
「創造された世界に対してさらなる影響を及ぼそうとするシリコーン。それを止めようとする神々の連合。最終的にライダーンさまたちの協力が功を奏し、魔神シリコーンは暗黒大陸だけをその手に納め、他の大陸はその魔手から逃れることになりました。しかし、いつまた彼が他の大陸に歯牙を伸ばすかは分かりません」
「だぞ!! それで各地にそれぞれの神々の神殿がある訳なんだぞ!!」
世界的に信仰を集めているのは、
しかしながら、それとは別に各地にはそれぞれの神を奉った聖地が存在する。
かつて男騎士たちが挑んだミッテルの塔があるショーク国もその一つである。
どうしてそうなったのか。
なぜ大陸ごとに祀る神が違うのか。
その起源については長らく謎とされてきた。
だが、今、からくり娘がワンコ教授の問いかけにからくり娘が首肯したことでその名ずは明らかとなった。
そう、人類を魔神の横暴から守護するため。
神々はそれぞれの地に降り立ったのだ。
「海母神マーチはあまねく大海と中央大陸を、戦神ミッテルは砂漠に覆われたアメリゴ大陸を、冥府の神ゲルシーは冥府島ラ・バウル、アリスト両テレスは北と南の大陸大陸を、それぞれ担当することになりました。そして、紅海に浮かぶこの地――東の島国に降り立って守護することになったのがライダーンさまなのです」
「……なるほど」
「だぞ!! 確かに各地に色濃く残ると神々の伝承と、センリの言っている内容は合致しているんだぞ!!」
考古学を研究しているワンコ教授が言うのだ。
それは間違いないのだろう。
女エルフはからくり侍の言葉を信じた。
そして、もはや彼女の口から語られる、神代の物語を事実として受け止めた。
自分たちはその頃より続く、神々の争いのさ中に身を置いているのだと。
しかし――。
「まぁ、世界創造の話は分かったわ。それで、それがいったい、貴方たち七人の最初の原器といったいどういう関係があるっていうの?」
「……ござる。そうでござった、大切なのはそちらの話でござったな」
失敬失敬と頭を掻くからくり侍。
話の流れがずれていたことを詫びると彼女は、おほんと咳払いをする。
そして、その肝心な内容――自分たちが世界創生のその後にどのような成り行きにより現在に至ったか。もとい、なぜこうして、男騎士たちの前に顕現していたのかについて語り始めた。
もっとも、その口ぶりは重たい。
「こうなってしまったのはことの成り行きという他ない。なんというか、なってしまったものは仕方ないという話になるのでござるが」
「勿体つけるわねぇ」
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