第709話 どからくり侍さんと最初の原器たち

【前回のあらすじ】


 第二レース怒涛の決着。


 一位は小回りの利く船の優利を活かしきった北海傭兵団。

 しかしながら、小野コマシスターズの襲撃により、彼らの船は既に走行不能状態。一着という結果でありながら、彼らは棄権を余儀なくされた。


 そして、そんな彼らに続いてゴールを決めたのは――。


「ゴール!! GTR第二レース!! 北海傭兵団に続いてゴールラインをくぐったのは、お見事、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムだ!!」


 男騎士たちパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムであった。


 かくして、第二レースは幕を閉じる。

 一つ、からくり侍の過去という謎を残して。


◇ ◇ ◇ ◇


 第二レース二着。

 一着の北海傭兵団は棄権したことにより、実質一着という状況にありながら、男騎士率いるパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの面々は一様に沈痛な面持ちをしていた。


 偶然拾った勝利では納得がいかない。

 というような真面目な理由からではない。


 問題はそう、死闘を繰り広げたからくり娘たち、そして、ティトの弟子としてこの旅にくっついてきたからくり侍の因縁である。


 明らかにお互いの存在を意識しているような両者。


 彼らの間になにがあるのか。

 そして、からくり娘たちはいったい何者なのか。

 その辺りの説明をされないことには納得がいかない。


 そして何より――。


「この紋章を見れば、分かる人には分かると思うでござるよ」


 そう言って、彼女が着物の奥から見せた紋章。

 それについて情報を整理しないことには、第二レースをしめくくることは彼らにはできなかった。


 例によって、冒険者技能で知識を底上げしているため知識に疎い男騎士。

 彼にはからくり侍の体に刻まれた紋章の意味は分からなかった。


 けれども彼と一緒に居た、女エルフはそれを知っている。

 その存在と最も遠い種族にもかかわらず、母の書斎でそれを見て、知識として把握していた。そしてそれは、この手のことを本職とする法王ポープとワンコ教授に補足されることで、より確実なものとなった。


 男騎士たちの宿場。


 そこで再びその木目の肌を晒したからくり侍に、ワンコ教授が絶句する。


「破壊神ライダーンの眷属!!」


 そう言葉にしたのは法王ポープ

 海母神マーチに仕える神官たちの長でもある彼女は、彼の女神と同列に存在するこの世界の創生に関わる一柱を現すマークを一目で看破した。


 しかしながら、どうしてそれに今まで気が付かなかったのか。

 そんな動揺が見て取れる。


 その疑問に答えるように、たははと声だけで笑うと、からくり侍はその木目の肌を恥ずかしそうに隠した。


「これこの通り、拙者は破壊神ライダーンがこの世に造りし魔法遺物――いや、神聖遺物なんでござるよ。いやはや、今まで黙っていて申し訳ない」


「……いや、それはいいんだが」


「だぞ、あまりのことに、情報の整理が追いつかないんだぞ」


「破壊神ライダーンが造った神聖遺物だなんて。そんなもの、教会指定の封印案件ですよ。しかもこんな、なんでもないように動いて」


 すまんでござるとまた頭を下げるからくり侍。


 人の手により作られた魔法遺物ではなく、神の手により作られた神聖遺物。

 かつて、男騎士が戦ったミッテルの鉄の巨人と同じく、この世界を転覆しえる存在を前にして、どうして今いち場がしまらないのは、やはりからくり侍のとぼけた性格のせいだろう。


 にははと笑って頭を掻く彼女は、とてもそんな恐ろしい存在には思えなかった。


 どこか、本当にそうなのかという疑いの空気が漂う中で――。


「なんと!! ライダーンの原器がこちら側にもおったと!!」


 声を上げたのは大性郷である。


 勝海舟から、ライダーンの眷属――それを基にして作られたからくり艦隊これくしょんについて説明を受けていた大性郷。

 彼の言葉で話はいよいよ真実味を帯びた。


 ひとまず、全員が持っている情報を整理するべく、女エルフが話をまとめる。


「えっと、まず明恥政府は、破壊神ライダーンの神聖遺物を取得して、それを基にしてからくり艦隊これくしょんなるからくり娘たちを作り出していると」


「ござる。そして、拙者こそは破壊神ライダーンさまが造ったその一体。七体の最初の原器と呼ばれる者の一人なんでござる」


「……七体の最初の原器ね。聞いたことある、ケティ?」


「だぞ、残念ながらないんだぞ」


 ワンコ教授も知らない神の眷属。

 すぐさま、貴方はどうかと法王に女エルフが視線を向ける。法王は、すぐに首を横に振って、心当たりがないことを表明した。


 それほどの深淵に属する叡智。


 このマヌケなからくり侍の正体が、そのようなモノだったなんてと、またしても場に沈黙が浸透する。それを破るように、いやいやしめっぽいのはよしてくれと、からくり侍がけたけたと笑った。


「まぁ仕方ないでござるよ。我らは造られたはいいものの、その使いどころがなくて、封印されていたものでござるから」


「使いどころがなくて封印?」


「破壊神ライダーンの伝説は知っているでござる?」


「……破壊神ライダーン。海母神マーチが湛えし海を焼き、八日七晩の業火によって五つの大地を造った。破壊して後に創造する力の権化。強く優しき破壊の神」


「そう、その八日間を支えるために作られたのが、我ら七体の最初の原器なんでござるよ。我らは、破壊神さまの走狗として、七つの夜に海を駆け巡り、この世を焼き尽くす――予定でござった」


 予定だったとは。


 神代の伝説については、不明瞭なことが多い。

 教会ですら、その正しい言い伝えについて把握していないくらいである。


 人の手にて集めた資料だけでは、失伝された事項が多く、その歯抜けになった部分を、口伝や筆記、時に絵画などの多種の資料を使って補填するしかない。

 そも、その資料すら正しいかどうかも分からないのだ。


 そして、神々の多くは、既にこの世から去っている。

 人の手に世界の行く末を任せて、その存在を隠したのだ。

 神と交信して奇跡を起こす法王でも、神代について尋ねることはできないのだから、尚のことである。


 ワンコ教授も、法王もお手上げの訳である。

 せいぜい彼らが分かるのは、神が去って後の人の世のこと程度。


 初耳となるのは仕方ないことだった。


「ござる。破壊神さまは確かに世界を焼いた。焼いて人が住まうための大地を想像した。けれども、その大地の一つを、早々に奪われてしまったのでござるよ」


「……もしかして」


「……まさか」


 その先は言うまでもないだろう。


 今なお、この世界に留まりる神。

 多くの人間たちを隷属させ、妄信させ、君臨する悪神。


 暗黒大陸を覆う災厄にして影。


「魔神シリコーン。その存在が、我らの存在意義を変えさせたのでござる」

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