第642話 どエルフさんと美中年戦隊次郎長

【前回のあらすじ】


 紅海の制海権を完全に掌握し、東の島国の国力を増強しようと目論む明恥政府。

 小性郷率いる海軍の尽力により紅海にはびこる海賊たちは沈黙。残すところはその海賊の目をすり抜けて、利ザヤを稼いでいる者たち。


 すなわち貿易商。


 明恥政府は紅海を股にかける商人達もその支配下に置いて、広大なる東の海に覇を唱えんとしていた。


 目指すは富国強壮。

 強くたくましい国の建立。

 そのためならば手段を択ばぬ。


 明恥政府主要メンバー三人の顔には、並々ならぬ決意があった。


 はたして彼ら政府の決断は、いったいどこに向かっていくと言うのか――。


 そんな中。


「うぉい!! タイトル!! また不穏なこの感じ!!」


 濃厚バトルから一転のギャグ展開はこの作品の最大の売り。

 タイトルから既にお察しいただけたらこれ幸い。

 酒場で男騎士たちを待つ、女エルフたちの前に現れたごろつきたち。

 彼らの正体とはいったい――。


「関わり合いになりたくない!! もうこれ以上、変態キャラクターは必要ない!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 むくつけき男たち。

 いかにも荒くれ、荒事に長じているという体躯。

 船の上で綱を引き、櫓を漕いで潮の流れに立ち向かい、向かいくる風に帆を張る。そう、間違いなくその体は、海という試される領域に立ち向かうために作り上げられたものだった。


 ただし。

 なぜか男たちはセーラー服を着ていた。

 いや、海兵だったならセーラー服を着るのはしかたないかもしれない。

 それがこの時代の一般的な海運業従事者、あるいは海軍従事者の服装だったならば仕方がない。


「あん!! なんだお前ら!!」


「見せもんじゃねえぞ!!」


「……あんまり見ないでおくんなせい」


 しかし、ミニスカートである!!

 セーラー上着の下にミニスカートである!!

 船上での機動性にいささか疑問が湧く感じの現代セーラー服である!!


 これには女エルフたちも固まって凝視してしまうのも仕方なかった。


 絶句。

 そして、次に出る言葉は決まっている。


「「「「変態だぁーーーーーーっ!!」」」」


 満場一致での変態認定。

 この手の事には慣れている女エルフはもとより、ともすれば解説役に回るワンコ教授、逆手にとって女エルフいじりをする法王ポープ、普通の顔して自分もたいそうな変態の新女王が声を荒げた。


 机をたたき立ち上がり、怯えたように後ずさる四人。


 変態に出会ったらやらなくてはいけないことはただ一つ。

 相手の目を見て、背中を見せず、落ち着いて距離を取ることだ。


 変態は本来優しい生き物。

 普通の人間たちが彼らのパーソナリティに土足で踏み入れるから問題になる。


 刺激しないように、そっと彼らから離れるのが一番なのだ。


 しかし、それは森の変態。

 海の変態には関係なかった。


「変態!! 変態だって!! どっからどう見ても海の男だろうが、俺たちは!!」


「ふざけたことを抜かしてくれやがるぜ、このすっとこどっこいども!!」


「……え、変態? 変態どこですか? 変態とかむーりー」


「セーラー服にミニスカなんて服装しといてどの口が言う!! そんな格好を好んでする奴は!! 変態かHENTAIか業の深い変態かあるいはうちのリーダーだけよ!!」


 とばっちりで酷い言われようをしてしまう男騎士。

 しかしながら、たびたび女装しては暴走する彼である。そう言われてしまうのはある意味では仕方のない、身から出た錆であった。


 なんにしても言えることはただ一つ。


 彼らは男騎士と同じまごうことなき変態だということだ。

 おそらくこの世界でも上位クラスに入る部類の変態をリーダーとして頼みにする女エルフたちであるが、だからと言って他の変態に耐性がある訳ではない。


 変態と一口に言っても種類があるのだ。


 この手の変態には触れず障らず関わらずが一番なのだが――いかんせんあまりにショッキングなその姿に目を奪われたから仕方がない。


 万事窮す。


 威圧するように睨み来る、むくつけき男たち。

 この手の奴らが自分たちの面子にこだわることもまた事実。どうやら、彼らに捕捉されてしまった女エルフたち。酒場という公衆の面前であるにも関わらず、激突は避けられないようであった。


 だん、と、まず足を踏み鳴らしたのは、相手方のリーダー格と思わしき男。

 いかにもその筋のものでいという威圧に満ちた彼は、前口上よろしくと手を前に差し出すと滔々と語り始めた。


「おひかえなすってぇ!! 僕は、生まれはシーミズ茶の産地!! 大店の息子に生まれたはいいが、どこでどうなりこうなった、気が付けば紅海に名だたる大侠客!! ちくわを投げられりゃ鼻に刺し、熱々の卵をだされりゃ食いちぎる、鮫が出ると聞いたなら褌一つで突き落とされる!! 聞くも涙、語るも涙、シーミズが生んだリアクション芸人!! そう僕こそこの海でいちばんかっこいい海賊――だれが読んだか小清水次郎長!!」


「だから!! パロディを混ぜるな!!」


「同じく、その小清水次郎長の兄弟分!! 合法から脱法までキノコだったらなんでも揃えてみせらぁ!! シーミーズのキノコ直売員といえばアッシのこと!! サーチ&デストロイ!! デスメタル・スター・熊蔵!!」


「やめて、これ以上やめて!! 小清水は確かにちょっとかかっているから、なんとかパロディとして成立するけれど!! これはあきらかに数合わせ!! それ以上、やってはいけない!!」


「……喧嘩とか競争とかそういうのむーりー。森の中に引きこもっていたら、なんだか知らないうちに兄弟分にされて引きずり出されただけなんです。ちょっちゅねちょっちゅねとか言われても、ほんともうこれ以上むーりー!! 森の石松!!」


「最後に至っては142’Sですらない!! 完全に趣味!! やめろぉっ!! バンナ〇はそういうのうるさいんだぞ!! ゲーム業界にまで喧嘩を売るな馬鹿ぁ!!」


「我ら!!」


「三人揃って!!」


「美中年戦隊次郎長!! 勝に代わって、お仕置きよ!!」


 ギ〇ュー特選隊みたいな決めポーズをとる次郎長たち。

 その後ろで、爆炎が上がったかと思うと、はらりはらりとスカートが舞う。

 紫、灰色、薄い茶色。その下に隠れている下着は、なんというかかわいらしい色合いをしていた。


 そしてそこはかとなく危険な色合いをしていた。


「もう、これ、収拾がつかない!!」


 そして、女エルフは匙を投げた。

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