第636話 ど男騎士さんとさとうきび畑でつかまえて

【前回のあらすじ】


 冥府島に向かうには優秀な水先案内人の協力が不可欠。

 しかしながら、ただでさえ行きかう人の少ない冥府島航路。女エルフたちのような突然の来訪者に力を貸してくれるとは思えない。

 はたして、どのような水先案内人を捕まえることができるのか。


 冥府島へ到着すればそれでことが終わりではない。

 問題は、冥府島に到着してからの方が重大である。


 当初の目的――冥府神ゲルシーと謁見し、仲間の女修道士シスターを助け出さなくてはいけないということを忘れてはいけない。そんなことを肝に銘じると、女エルフたちは水平線の向こうに、今はいない仲間の姿を思い描くのだった。


 そんな所に――。


「ったくやってられねえぜ!! 新政府軍め!! いったい何を考えてやがる!!」


「俺たち海賊の領分だった紅海をからくり艦隊だとかで占拠しやがって!!」


「商売あがったりだぜ!! まったく嫌になる!!」


 不逞の輩が流れ込む。


 あきらかに海賊という風体の彼ら。

 憤るのは何ゆえか。


 という所で、ここで視点変換。

 ヌーディストビーチへと向かった男騎士の方へと、視線を向けてみたいと思います。


「……最近視点切り替え多くない」


 元々三人称神視点で書いているから、別に問題ないかなと思っております。

 まぁ、その利点をもうちょっと活かしていろいろアクティブに書いていきたいものですね。うぅっ、腕が足りないのが本当に辛ひ……。


◇ ◇ ◇ ◇


 ヌーディストビーチを満喫した男騎士たち一行。

 潮風にぞんぶんとふぐりを揺らした彼らは、一皮むけた男の顔になって帰って来た。ロイドだけは、まだ一皮むけていなかったが、一皮むけた感じで返って来た。


 そう、人前でちん〇を出す勇気。

 全てをさらけ出してことに挑む度胸。

 それが男を成長させない訳がない。


「ヌーディストビーチ。その存在意義が分かった気がする一日でした」


「……あぁ!!」


「来てよかったな、ヌーディストビーチ!! 女の子はおらんかったけど!!」


「ようごわす!! ようごわす!! がははっ!!」


 各々、いつもの姿に戻ってヌーディストビーチを後にする男騎士たち。

 絶対に行かないからと分かれた女エルフたちと合流するべく、彼らは商店街のある方向へと歩んでいた。


 時刻は既に黄昏時。

 前を行く人の顔が見づらい時刻だった。


 ふと、人の気配が少なくなったのを男騎士は感じた。これから商店街というのに、どうしてここまで人通りが少なくなるのか。生い茂るとうきび畑により、視界が左右とも閉じられているそこ――。


「……何者!!」


 咄嗟、彼の中の冒険者の本能が、鎌首をもたげたかと思うと腰に結わえていた魔剣を抜き放つ。腰の魔剣もそれに気が付いていたのだろう、すぐさま野太い唸り声をあげていた。


 青色の刀身がとうきび畑を切り裂く。

 横薙ぎの一刀により瞬く間に二つに割られたそれは、海風に揺られてばらりとその場に堕ちると、その背の中に隠していた人の姿を露にした。


 海に生きる者には珍しい透き通るような白い肌。

 玉のような汗を載せて輝くそれは若々しく瑞々しい。そして、刺激的な色合いとデザインをした三角形の乳帯と腰布を巻きつけている。髪を結いあげている彼は、男騎士たちが自分の存在に気が付いたことにまずは破顔した。


 とびっきり邪悪な微笑み。

 まるで口の端が裂けそうな歪んだ笑顔。

 それは暗黒大陸の兵や将たちとはまた違った、狂気を感じさせるものだった。同時にとてつもない実力も――。


「なるほどなるほど。気配は殺していたつもりだったのだが、気づくとはなかなかの手練れじゃないか。びっくりしたよ、まさかこの俺様が白昼の下に姿をさらすことになるとは」


「どこの誰の手の者かは知らないが、俺たちを監視していたとみて間違いないな」


「……監視!?」


 ロイドが息を呑む。

 その穏やかならない言葉の響きもさることながら、そのようなものを差し向けられる事情が分からなかったからだ。

 一方で、もう一人の同行者は動じない。

 何故か――。


「用があるのはおいどんじゃろう。ティトどん、ちと、どいてくだされ」


「性郷どん」


 大性郷。この男には心当たりがあり過ぎた。

 東の島国革命の立役者にして盛り立て役。そして、直近の大戦争を引き起こした罪人である彼を、疎ましく思わない者がいない訳がない。


 新政府は間違いなく、彼のことを危険視している。

 ともすると、彼が葬り去った過去の政権――江路えろ幕府の者たちも、彼の命を未だに狙っているかもしれない。


 目の前の者がその刺客とは十分にあり得ることだった。


 だがしかし。


「いや、俺様の狙いはお前だぜ。エルフ・パイオツ・メチャデッカー」


「……どうして俺の魂の名を!!」


「さてねぇ、どこで聞いたのだか。それを教えて欲しければ……」


 本気で来なよとまた微笑む。

 邪悪、その吊り上がった口の端から白い吐息を揺らめかせて、白色の刺客は哄笑を漏らす。左腕を突き出し、右腕を後ろに回して胴体の裏に隠す。

 明らかに技を持っている者の構え。


 それも相当の手練れと見做した男騎士は、油断なく魔剣エロスを肩に担いでこちらも上段の構えを造った。


 夕暮れに沈むとうきび畑。

 甘い香りを風が運ぶその中で、殺伐とした空気が流れる。

 青年騎士と大性郷が見守る中で、男騎士はいざと一歩踏み込んだ。


「……遅い!!」


 それより早く。いや、明らかに男騎士の太刀筋より遅れたはずなのに、背中に隠した刺客の拳の先が、男騎士の顎先を撫でていた。太刀筋を避け、回り込むようにして放たれたそれはまるで剣の軌道とは違う。

 曲刀、あるいは鎌、その性質のものだった。


 そこは歴戦の勇にして戦士技能レベル9の男騎士である。

 敵の放ったこの刹那の一撃を、咄嗟に身を引いて致命傷から掠り傷にかえる。しかしながら顎先には、確かにそこを穿たれた言い逃れの出来ない痣ができていた。


 現れた謎の刺客――。


「……できる!!」


「ほう、これを躱すか。流石、やってくれるじゃないか」


 そうでなくてはと不敵に微笑む彼に、男騎士は再び剣を向ける。


 油断なく。

 慢心なく。

 いざ尋常に。


 それだけの相手であると、男騎士は目の前の名も目的も分からぬ刺客の実力を認めた。

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