第633話 ど維新獅子さんと富国強壮
【前回のあらすじ】
「……なんてことだ、これが伝説の誕生!!」
「……英雄の帰還!!」
「……バーにフグリでバーフグリ!!」
大性郷の下半身は、その名に恥じぬ立派なものだった。
ふぐりも棒も馬並みだった。
いや、もはや象並みだった。
象に乗って現れる
とまぁ、本編はそんな残念な所で。
これから暫くは週末シリアス空間。大性郷の古巣、
「……前回はティト由来の週末シリアス別進行だったけれど。今回のこれはなんの脈絡もないわね」
ぐっ……(苦悶)。
「さては字数稼ぎね? ネタ切れ? ネタ切れなの?」
嫌だなそんなことあるはずないじゃないですか。
演出ですよ、演出。
やだやだ、そんな、長期連載に伴うネタ切れだなんてあるはずないじゃないですか。物語だってこうバリエーションを増やして――。
「いや、けど、二部に渡って革命の話とか正直ネタに窮していない?」
次、行ってみましょうか!!
◇ ◇ ◇ ◇
「性介どの、何をやっているのだ。大性郷は
「ムッツリーニどん。まっこと、菊之助どんのことについてはオイの力不足ばい。オイがもうちょっと、上手く菊之助どんを御しておれば」
「その考えからして思い違いも甚だしい。性介どの。貴方と大性郷では器が違う。御すのではなく支えるのが貴方の役目だろう。その戦略眼、政治を見極める慧眼については私も認める所だが――その頭脳は大性郷という英雄の下でこそ輝く」
「……ムッちゃん、ちょっと言い過ぎじゃないかね? 確かに性郷どんは
「こればかりは頑張りだけでどうにかなるようなものではない。性介。天稟というものが人間にはあることをお前も知っているだろう」
明恥政府。
来賓接待用居館――ロック明館。
ロッケンロールとはいとおかし。
和風の平屋建ての日本家屋。
しつらえられた千畳敷の畳の上に金銀財宝がじゃらりと並べられているそこは、外交の席ではその会見会場、平時は明恥政府高官たちのサロンとなっている。
そう。
ここでは、明恥政府高官たち、主におおっぴらな会議の場では話すことのできない懸案を、忌憚なく話すことが許されていた。
明恥政府を裏切った大性郷。
彼について話すことは、必要な時を別として明恥政府では禁じられていた。彼は明恥政府の為政に対する反逆者に違いなく、決してその行いを許してはいけない相手だったからだ。
とはいえ、東の島国の現在の在り方について、彼が残した功績は大きい。
彼が舵を取らなければ、東の島国の革命は決して成功しなかっただろう。
また、彼がいたからこそ平和的に東の島国は現在の新政府に移行できた。
最後の最後――爆発しそうな不穏分子さえもその身に抱いて、この国の平和のために自決してみせた。
どうやっても無視することのできないキーマンに大性郷は間違いなかった。
さて、そんな大性郷と共に動乱の時代を駆け抜けた者たちがここには多く参集していた。
まずはその代表である大久派性介。特段、革命戦争において大きな戦果を持たない彼だが、その調整能力と交渉能力、なによりも卓越した政治感覚は市井の者はともかくとして広く政府関係者に知られていた。
内内では大宰相と呼ばれている。
もっとも、本人は東の島国は王政ではなく共和制、そのように呼ばれるのは不本意だとぼやいているが――今はそのぼやきを表出する余裕もないほどに、東の島国は危機的な状況であった。
次。
そんな大久派性介に次ぐ信頼感を得ている男。
小顔の小男。まるで少年のような容姿をした彼は、年齢的には大久派の一回り下であるがなかなかにほどよい無能であった。しかし、その無能を補うために、根回しを怠らない抜け目なき男であった。
性介が天才的かつ職人肌的な政治屋に対して、彼はどちらかと言えば性郷より。多くの人に慕われて、上に立つ器量を持ったそんな男であった。もっとも、それは後天的に身に着けたもので、本質的な器は体と同じく小さい。姑息と卑屈と忍耐が作り上げた、動乱の化け物であった。
その次。性介に対して辛辣な言葉を放った男。どこか東の島国離れした顔つきと髪型をしたその男は、名をムッツリーニという。本名は不肖。そして、明恥政府発足の最中、獄中に居たという異例の出来の男である。
しかしながら切れる頭に明朗な喋り口、そしてこと交渉事においては大久派さえも上回る卓越した立ち回りを見せることから、主に外交を担当していた。
ついた仇名は剃毛のムッツリーニ。なお、ジェルよりも泡派であった。
現在この三人が、明恥政府を主に回している。
この他にも省庁の幹部は多くいるが、そのトップに彼ら三人が君臨して、最終的な意思・方針の決定を行っている。
「しかし、民主主義とは程遠い国になってしまった」
「性介どの。今をなんと心得ている。民主主義など犬に食わせておけ。今や東の島国は、西方列強の島国に国力で劣る上に、政治・科学・軍事どの分野でも後塵を拝する状態。早急な国の基盤を固める時期」
「そんな状況で民主主義だ自由だと叫んでいる余裕はない。切り捨てるべきものを斬り捨て、得るものを得なければ。分かっているだろう、性介さん」
夢見た理想と、現在自分が身を置いている現実を嘆きながら、大久派性介は自嘲気味に息を吐きだす。
確かに、逝藤とムッツリーニが言う通りだ。
彼らには選択している余地がなかった。
彼ら東の島国は、早急に国としての基盤をまとめる必要があった。
「……富国強壮!!」
「今は国を猛らせる時!!」
「そのためには、我々も手段を選んではいられないのだ」
一同が志を同じくするように頷く。
その時、千畳敷の部屋の襖が開いた。
その陰から出てきたのは、大久派を起こしに来たからくり娘。彼女はその場に膝を衝き、うやうやしく頭を下げると、東の島国首脳部に向かって声高に発した。
「性郷どのとそのお連れの方たちが御到着されました」
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