第597話 ど男騎士さんと密書偽造

【前回のあらすじ】


 魔剣と女エルフの養母。

 二人の力関係は、意外なことに女エルフの養母の方が強かった。


 弄る女エルフの養母に、なすすべもなく蹂躙される魔剣エロス。

 男騎士パーティ一の老練な魔剣が、なすすべもなく口車に踊らされ続けるのを見て男騎士は――。


「……すまんエロス。のろけるなら余所でやってくれ」


「のろけて!! ないわい!!」


 呆れた言葉を相剣に吐きかけるのだった。


「……それはそうと、今週はなんだかずっとこんな調子だったわね。お養母かあさんと、エロスの喧嘩ップルぶりを見せつけられるというかなんというか」


 気が付いてしまわれましたか。

 まぁ、そのなんです。


 実は公募原稿用の執筆時間を確保しようと平日書き溜めしていたら、なんかうまいこと話が進まなくて。つぎはぎ感あふるーるるな感じになってしまいました。

 読者の方々には申し訳ない。


「いや、それをあらすじで語られても困るんだけれど」


 しかし。しかしですよ。

 魔剣にしても女エルフの養母にしても、待ちに待った久方ぶりの再会。

 二人の会えなかった時間を考えて、少しばかり、こんなやりとりも笑って許していただけると幸いでございます。


「……けど、お養母かあさんがまさかの姐さん女房だったなんて。世の中分からないものね。ぜんぜんそんな素振りなんて見せなかったのに」


 見習えよどエルフさん、見習え。

 お養母かあさんに負けじと劣らず、男を使いこなすいい女になれどエルフさん。

 そう、珍獣の男騎士を巧みに操るビーストテイマーになるのだどエルフさん。


 猛獣には愛と鞭が必要なのだ。


「いや、関係あるかい!!」


 という感じで。

 今週は力圧しに力圧しを重ねたどエルフさんですが、そろそろ話も六部クライマックスに向けて動き出そうかと思います。


◇ ◇ ◇ ◇


 痴話喧嘩。

 している方は本気でも、見ている方はあきれるばかり。

 だいたい喧嘩なんていうものは、仲がそこそこいい相手だからこそ起こるもの。仲が悪い相手なら、なかなか懐に飛び込むような発言など出てこないものである。


 人前でならば尚更である。

 言葉を選び、どこかで社会的な落としどころを見つけようと妥協する。言い争うなどもってのほか。ともすれば対話の必要性から否定して入る。


 とどのつまり。


「お二人が仲がいいのはよく分かったから!!」


「「よくねえよ!!」ないわよ!!」


 息ぴったりで返してくるのもまたその証拠。

 流石に伝説に歌われたパーティの二大巨頭。

 大英雄と大魔導士である。


 戦士とエルフの魔法使いという絵になる構図に、多くの吟遊詩人が二人の仲を脚色した。事実として分かっていることに尾ひれを付けて、その冒険譚に恋の華を添えた。しかし、そんな脚色が霞むくらいに、二人の仲は堅固なものであった。


 ますます敵わないという感じで首を振る男騎士。

 いいか勘違いするなよと追い打ちをかける魔剣。そんな魔剣を、落ち着けと少し叩いて黙らせると、再び虎マスクの当世の大英雄は、古の大英雄に問うた。


「では、セレヴィさま。貴方は、今回の俺のたくらみを邪魔するつもりはないと思って差し支えないですか」


「えぇもちろん。今回の梁山パークとの戦いは、白百合女王国の陣営にとっても。そして、彼女たちと因縁浅からない私の娘にとっても、自分たちの力で解決すべき問題だと私は感じています」


「そうでしょう。ですから、俺も今回はあえて卑怯者の誹りを覚悟してこのような手段を取らせていただいた」


「卑怯だなんてことはないわ。これは必要なこと。誰しも、何者かになるためには必要な通過儀礼ですもの」


 けれどもそうねと憂いた眼をする女エルフの養母。

 彼女が思っているのは、今ここに居ない誰か――。


 彼女が手塩にかけて育てた、お転婆な養女のことだろう。

 三百歳になる彼女が、未だにまだまだ手のかかるお転婆であることを、彼女はよくよく知っていた。短い再会ではあったが、その本質がまるで成長していないことに、母である彼女はすぐに思い至った。


 だからこそ、眉間にしわを寄せてしまう。


「ごめんなさいね。きっと、あの娘のことだから、真相を知ったら貴方のことを酷く罵ると思うの」


「大丈夫です。それについては慣れていますから」


「……口の悪い所も治らなかったみたいねぇ。はぁ、ごめんなさいね、ティトくん。あんな我儘な娘で。もっとしっかりと男の立て方を躾けておくんだったわ」


「そういうお前は一度だって俺のことを立てたことなんてない癖に!! 偉そうなことを言える立場かよ、まったく!!」


 だから少し静かにしていてくれと、苦笑いを浮かべる男騎士。

 そんな彼の手を、同じくこのたくらみを共謀した女エルフの養母がそっと握り返した。

 大丈夫よと、彼女は語り掛けるようにその手を撫でる。


「今は、モーラとエリザベートちゃんを信じましょう。大丈夫、あの二人ならばこれくらいの試練を乗り越えてくれるわ」


「……はい」


「それに。いざとなったら、私たちが乗りこんでいけばいいのよ。まぁ、それやっちゃうと、またいろいろと揉めることになっちゃうし、ティトくんが黒幕やったことも水の泡になっちゃうんだけれど」


「モーラさんとエリィの身には代えられないです。そこは、今回の密書偽造に携わった人間として、根回しをした人間として、責任はとるつもりですよ」


 ふふっ、本当に優しいのねと、暖かい笑顔をこぼす女エルフの養母。


 安心して貴方になら娘のことを任せられる。

 瞳を伏せると彼女は、ようやく男騎士の手を離した。


 そう、もう、彼のことを知る必要はないとばかりに。

 安心した表情で、彼女は森の木漏れ日の中にたたずむのだった。

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