第581話 どエルフさんと出雲虎

【前回のあらすじ】


 人馬一体ならぬエルフ馬一体。

 エルフケンタウロスと化した女エルフがレジスタンス組織おいでよ梁山パークを蹂躙する。


 圧倒的な暴力。

 踊り狂う馬の下半身。

 そして、無駄にいい声感。


「たーのしーい!!」


 そんな感想を素直に吐露する女エルフ。

 しかし、世の中そんなに甘くない。そうは問屋が卸さない。

 女エルフたちの快進撃を止めたのは、梁山パークリーダーの親衛隊。Ⅵ号戦隊ティーガーちゃん。


「たーのしーい!!」


 自分のことを呂布だと思い込んでいるエルフケンタウロス。

 対、自分のことをティーガーだと思い込んでいるむくつけき男たち。


 はたして、勝つのはどっちなのか。


 そして、パロディの元ネタに、パロディのパロディをぶつけるというこの分かりにくいギャグを、はたして読者は察してくれるのか。

 FG〇ネタを拾ってくれるのか。


 どうでもいいですが、ライネスちゃん欲しかったです。(爆死)

 ともかく、どエルフさんにしては珍しい、女エルフたちによる肉弾戦。

 はたしてその決着やいかに――。


◇ ◇ ◇ ◇


 女エルフの踊り狂う前足がⅥ号戦隊ティーガーちゃんに襲い掛かる。

 しかし、それを逞しい拳でティーガーちゃんは叩きあげる。


 馬の前足、後ろ足、どちらについても人間の腕力では太刀打ちできない力を獣の彼らは持っている。馬力と言われるほどである。その威力たるやすさまじい。


 しかし、それをあえて弾く。

 叩いて凌ぐ。


「……だぞ!! ふざけた格好に反してなんてパワーなんだぞ!!」


「思わぬ強敵の出現ですね。モーラさん、気をつけてください!!」


「分かってるわよ――くそっ!!」


 半歩離れて踵を返す。後ろ足を向けて、今度は渾身の後ろ蹴りを繰り出す。

 しかしながら、それに対して。


「うみゃみゃぁっ!!」


 まったく気合の籠っていない掛け声。

 にもかかわらず鋭い回し蹴りをⅥ号戦隊ティーガーちゃんは繰り出す。

 そして激しく女エルフケンタウロスの蹴りに打ち合わせた。


 人間の回し蹴りが、馬の後ろ蹴りに勝てるのか。


 勝てる訳がない。

 人間の顎を砕き、ともすれば一撃にて絶命させうる馬の後ろ蹴りである。

 そんなものを人間が御することなど常識的に考えて不可能。


 しかし――無窮の鍛錬と自己暗示はそれを可能とする。


「……嘘でしょ!?」


「だぞ!! モーラの後ろ蹴りを回し蹴りで止めた!?」


「なんと……!!」


 Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんの脚が女エルフのエルフケンタウロスと化した後ろ脚を止めていた。


 それだけではない。

 その木の幹のように太く逞しい脚に食い込むように人間の脚がめり込んでいた。


 苦痛に女エルフの顔が歪んだ。

 その次の瞬間、どろんという音と共に、栗毛の下半身は霞と消えて、女エルフケンタウロスは、ただの女エルフへと戻っていた。


 Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんの蹴りが、馬の後ろ蹴りを凌駕した瞬間であった。


「まさかこんなことがだぞ」


「……まさか、あれは禁術、【虎よ、虎よ!】ではありませんか」


「だぞ!? 知っているのかリーケット!?」


 いつもと違う立ち位置で、ワンコ教授が法王ポープに尋ねる。

 アイテムや伝説に詳しくても魔法についてはとんとさっぱり。今一つ知識の足りていないワンコ教授。彼女に代わって、法王がそれに気が付いたのは仕方ない。


 お家芸の濃い顔も法王に譲ると、法王はとつとつと語り始めた。


「強化魔法【虎よ、虎よ!】。内に秘めたる怒りのパワーを表出させて、肉体強化へと転じる魔法です。より強い怒りを抱いている者により強い力を与える、復讐のためにあるような魔法。またの名をアーッスカロンといいます」


「……アーッスカロンだぞ」


 ロバと化け物の脚をした二人が神妙な顔でそんな会話を交わす。

 そうこうしている内に、走れメッロスの札の効果が切れた女エルフは、Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんに周囲を囲まれてしまうのだった。


 右を見ても虎面。

 左を見ても虎面。


 前門の虎。

 後門のティーガー。


 八方ふさがりの上に肉弾戦闘力を削がれた女エルフは、まさしく絶対絶命の状況であった。


 くっと、女エルフが唇を噛む。

 その前で、また、余裕のある微笑みを見せるレジスタンス組織梁山パークのリーダーこと出雲虎。まったく邪悪な感じのしない、軽やかな笑い声と共に、彼は彼の旗下にあるⅥ号戦隊ティーガーちゃんに下命した。


「さぁ、やっちゃってくださいティーガーちゃん。今がチャンスです」


「うみゃみゃーっ!!」


「だぞっ!! モーラ!!」


「モーラさん!!」


 エルフケンタウロスの前脚を止めた強靭な体躯。

 その腕が大きく振り上げられる。

 猫パンチ。ひっかくような振り下ろしの斬撃が、あぁ、今無防備な女エルフの頭を襲う。すわ肉片か。ミンチのように彼女の身体がひしゃげて、いよいよ残酷表現の自主レートが初めて仕事をするかと思われたその時。


 天上に黒い竜巻が現れたかと思うと、突然に女エルフの前に舞い降りた。


 そう。

 それはまさしく人間台風。

 突然、異常気象のように現れた。


 黒い竜巻の正体は黒いマントを身に纏った者。

 革製の上質なそれを身に着けた、この場の誰よりもむくつけき身体をした男前。そして、女エルフを取り囲むⅥ号戦隊ティーガーちゃんとは、また違う趣のある虎の仮面を被った奴。


 まるで第二次世界大戦のどこぞの将軍のような気品を感じさせる服。

 そんな衣服を身に着けたそいつは、両腕を交差させるとべきりべきりと手を鳴らす。開いた虎の仮面の口からは白い吐息が昇っていた。


「なっ!! 貴様は!!」


「だぞ!? 仲間割れなんだぞ!?」


「いえ、どうやら違うようです。あれを見てくださいケティさん」


 そう言った法王の視線の先は、現れた虎男の腰に向けられている。

 まるでサーベルのように腰に結わえられているそれは間違いない。


 どこかで見た――。


「いやっほー。ケティちゃん、リーケットちゃん、元気してたー。というか、なんじゃその脚。俺様たちが居ない間にいったいなにがあったわけ?」


 魔剣。

 そう、エロスであった。


 すなわち。


「……ティトなの?」


 その背格好、その後ろ姿、そしてその優しい雰囲気。

 魔剣エロスがなくても長い付き合いの女エルフには分かる。


 それはまさしく、彼女が愛した男の背中であった。

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