第六章 いったい誰ティトなんだ~バレバレ虎仮面登場~
第582話 ど女エルフさんと謎の虎仮面
【前回のあらすじ】
梁山パークの本拠地、ジューン山へと突撃した女エルフたち。
電撃作戦。下半身が馬になった勢いで突撃し、見事に機先を制するもそこは国家転覆を考えるレジスタンスが相手である。
レジスタンスのリーダー、出雲虎こと聖ジョージにしてコウソンショウ。
彼の親衛隊であるⅥ号サーバル軍団に、下半身が馬と化した女エルフたちは軽くあしらわれてしまうのだった。
絶体絶命。
すわ女エルフ、その命も危ういかと思われたその時。
黒い旋風のように彼女の前に舞い降りる影。
それこそは、虎の仮面をかぶりながらも、レジスタンスのリーダーの幻惑魔法に打ち勝ったもの。
そして、女エルフのことをこの世の誰よりも案じてやまない者。
「……ティトなの?」
黒いマントに黒い制服。
なんとも脳筋キャラには似合わない出で立ちに扮した男騎士――なのかどうか。
はてさて、それは今週のお楽しみ。
という所で、どエルフさんはじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
「うみゃみゃ!? 私がいるよ!?」
「どうして!? けど、なんかちょっと変な感じ!!」
「すごーい、かっこいー!!」
「そのひらひらしたのなにー? かわいいねぇー!!」
突然現れた黒マントの虎男。
レジスタンスのリーダーが詠唱した洗脳魔法。それをかけられた仲間だとすぐに察して、Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんたちは彼の周りに群がった。
そのくりくりとした目に敵意はない。
完全に自分達の仲間だと彼を認識している。
一方で、マントの後ろに女エルフを隠し、彼らににらみを利かせる虎男。
赤い瞳がきらりと光ったかと思えば、すわつむじ風が巻き起こった。
「……まずい!! 避けるんだ!! Ⅵ号軍団!!」
「うにゃっ?」
「ツナギちゃん?」
レジスタンスのリーダーの言葉が響くよりも早い。
まるで荒れ狂う暴風。
突如として巻き起こったつむじ風――その中心で独楽のように身体を翻したかと思えば、マントを残して中の虎男が跳躍した。
踏み込んだ先にはきょとんとした顔の覆面虎軍団。
掌底。Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんの顎先を掠める一撃。
軽く、それは羽で撫でるようにそのマスクで覆われた先を掠める。
かくんとまるで身体を操っている糸でも切れたように、途端にその場に崩れ落ちるⅥ号戦隊ティーガーちゃんたち。
最小・最短・最良の一手にして一撃。
計算しつくされた、神速の現状打開の攻撃であった。
ぽかん、と、女エルフがマントの中でその光景を見ている。
法王もワンコ教授もその人の技とは思えぬ妙技を目にして言葉を失った。
次々に倒れ死屍累々の山と化すⅥ号戦隊ティーガーちゃん。最後のうみゃぁがジューン山に響いた時、ようやくその暴風は収まった。
ぐぬぬ、と、それまでまったく感情を感じさせない、おとぼけ顔だったレジスタンスのリーダー。その顔が苦渋に歪む。
そんなレジスタンスのリーダーを前にして、虎面の男が眉間に深い皺を刻んだ。
「所詮、魔法により一時的に身体能力を強化した一般人に過ぎない。戦闘経験の有無は何より戦闘において優劣を分ける。レジスタンスのリーダー
「馬鹿な。我が洗脳魔法により、知能レベルは低下している。ただ黙々と戦闘を繰り広げるだけの、戦闘狂――ベルセルクになるはずなのに」
「ふっ、おかしなことを言ってくれる」
「貴様!! なぜ、知性がある!!」
「そうよ!! おかしいじゃない!! 知力1の戦士の癖に、なんでそんなインテリ強キャラみたいな喋り方するのよ!! というか、本当にティトなの!?」
声は間違いなく男騎士。
しかし、口にすることばは明らかに、アホのそれとは思えない。
まるでバトル系漫画なのに眼鏡かけてでてくる感じの口ぶりである。冷静に戦況分析をして、あまつさえライバルにもアドバイスする強キャラっぷりである。
腕を組んで、更にその言葉は続く。
「モーラさんも、勢いに任せて敵陣にツッコむ所までは良いが引き際を間違えている。戦闘とは攻めて逃げるの駆け引きだ。戦いの際を見極めることができなければ、まだまだ冒険者として一人前ということはできない。俺の後ろで、戦うのを見ている内に学んでくれていると思っていたが、どうやらまだまだのようだな」
「……え、ちょっと。本当にティトなの? ネタとか、勘違いとか、そういうんじゃなくて?」
「でなければいったいなんだというのだ。だいたい、君は俺たちパーティの中で唯一の知性派キャラクターではないか。なのに、こんなおおざっぱな攻め方をして。俺が居なくなって決定打に欠けた状態だったというのも分かるが、もう少し慎重に行動をしてくれ。まったく、本来であればまだ出る機会を窺いたい状況だったというのに、こんなことになってしまった」
女エルフの顔が、赤くなったり青くなったり白くなったりと忙しく変わる。
混乱。
そう、混乱である。
こと戦闘においては、冒険者技能を代替してまともなことを言う男騎士だが、それにしたって今日の彼は多弁である。
これまで、戦闘について意見を求められれば、アドバイスはすることはあったが、このように積極的に仲間に言うようなことはなかった。
どういう心境の変化か。
それとも、どういう知性の変化か。
この短期間に、まさか知性がアップしたとでも言うのか。
混乱。
滝つぼの中にいきなり落とされたような衝撃。
言葉を失い表情を固める女エルフ。
そんな彼女を余所に――。
「やれやれ、モーラさんがこの状態になってしまっては、戦いようがない。出雲虎よ。ここは一旦痛み分けとしよう。決着は近いうちに」
「ま、待て!! 貴様!! 逃すと思ってか!!」
「逃すではない、逃げるのだ!! 見よ!! ゲルマン甲賀流忍法――マッチレス・アン・ブリッツ!!」
魔剣エロス。
その横薙ぎの一閃が辺りに光を振りまく。
そんな技、今まで一度も使ったことがない。
目つぶしの剣閃攻撃。
うぉっ、まぶしと眼を塞いだレジスタンスのリーダー。
彼に背を向けて、虎面の男は女エルフを抱えたまま、ワンコ教授たちの方へと駆け出したのだった。
その姿は――馬でもないのに十傑衆走りであった。
「いくぞモーラさん。一旦離脱して作戦会議だ。敵はなかなかに厄介だぞ」
「嘘でしょ? 本当の本当にティトなの? そんな、まったく面影がないじゃない……」
「いつまでそんなことを言っているんだ!! 君らしくないぞ!!」
男騎士に説教される日が来るだなんて。
ショックでまた思考が滞る女エルフ。
もう完全にバッドステータス混乱がキマった状態で女エルフは、謎の虎男に抱えられてその場を後にするのだった。
うみゃみゃー。
後に響くは、Ⅵ号ティーガーちゃんの間の抜けたうめき声ばかり。
「ぐぬぬ、あれはいったいどういうことだ。どうして、我がアーッスカロンを食らって、あのように自我を保つことができているのだ」
戦の終わった梁山パークの本拠地。
ジューン山の頂に一際冷たい空っ風が吹きすさんだ。
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