第576話 どエルフさんと最後の王女

【前回のあらすじ】


 エロ表現の規制についてはよく話題になりますが、パロ表現の規制についてはあまり話題になりませんね。今の所、公式からパロについての警告メールが来た覚えはありませんが、いつ来てもおかしくない作品を書いているという自覚はあります。


「……そう思うなら、もうちょっと加減しなさいよ」


 とはいえ、パロディというのは時代を記す一つの物差しだと私は感じています。

 その時代に何が流行り、何に熱狂し、何を人々が思ったのか。また、筆者が何を楽しみ、何を思い、何を感じて、何を愛したのか。そういう匂いを残すことも、作品にとって大切なことではないでしょうか。


 もちろん、それを匂わせる程度に希釈してこそという意見もあるでしょう。

 おおいに結構。私も換骨奪胎して、物語の格子を組み替え、匂いを残すような作品の在り方を美しいと思いますし、それはそれで表現としてありだとは思います。

 ただしそれこそが表現の全てとは思っていません。

 表現のありようというのはこうでならければならぬというものはなく、常に、人間の常識や良識の外縁をなぞり広げる様な、そんな挑戦を許すものだと僕は捉えています。


 そして、この作品――どエルフさんは、どこまでもはてしなく下品でお下劣、低俗なことが売りの作品です。そういうことを考えた時、パロディの希釈は極力抑えて、より直接的に攻めた表現をした方が映えるのではないかと思うのです。


 つまり――パロディ無修正志向。

 より直接的に、モザイクをかけずにスパッと言っちゃう、やっちゃう、突き抜けちゃう。

 ギリギリの所を狙っていくそんな感じで、これからもオナシャス!!


「いいこと言ってた風にみせかけてやっぱりろくでなしじゃないヤダー!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「ほにゃらら松さん一期第一話!! 封印されし魔法テレビ初放送版じゃないですか!! どうしてこんなものが!!」


「まぁ、この手の一級封印指定品を管理するのも教会の役目ですから」


「こ、これを見てしまってもよろしいんですか!?」


 ごくりと喉を鳴らす第四王女ミレディ。

 そんな彼女にどうぞどうぞと、まるでまったくそれが門外不出の封印されし逸品であるということを感じさせずに勧める法王。すぐにそれを手に取ると、ひゃーっほうと奇声を上げて、第四王女は宿屋の二階に駆けていくのだった。


 門外不出のほにゃらら松さん一期第一話の青円盤を持った女が、白百合女王国復興のために合流した。その噂を流してから、わずか半日での到着だった。


 流石は諜報機関の長を務めていた第四王女である。

 アンテナの張り方も、行動の起こし方も、他の王女たちから抜きんでている。

 なんにしても――。


「これで残すところは第二王女ただ一人となった訳ね」


「だぞ」


「ですね」


「ローラ。無事に私たちに協力してくれればいいのですけれど」


 当初の目的通り、女エルフたちは第一王女の姉妹たちを集めることに成功した。

 また、彼女たちの参集と、それに伴って協力を表明した教会・TOSHIO・バビロニア歌劇団の存在により、多くの民衆が彼女たちの下に集まった。


 その数はおよそ十万人。

 かつての白百合女王国の首都に住んでいた人口のおおよそ半数に及ぶ。

 もちろん、その大半が武器も持ったこともない者たちであり、烏合の衆と言っていい兵にもならないものたちである。


 しかし、数は数である。

 そしてこれから第一王女たちは、戦いを行う訳ではない。

 あくまで目的は白百合女王国の復興なのだ。


「これだけの人数が居れば、荒廃した白百合女王国の首都を建て直すことは計算上可能です。財産についても、母上から預かっていた王族の隠し財産があります。まずはそれを供出しましょう」


「復興に必要な資材については周辺国から買い付けるわ。中央大陸の陸路を使うより、海路を使って速やかに資材を集めた方がいいわね。さっそく、亡命していた北の大陸と話はつけてくる」


 その復興の道筋についても、優秀な妹たちが戻って来たことで目途がつく。

 いよいよ白百合女王国復興の一歩を、女エルフたちは踏み出そうとしていた。


 しかし――。


「けど、まだ、ローラ姉さまを説得できないうちは、エリザベート姉さまが民衆の前に出るべきではないでしょうね」


「ローラ姉さまの剣と魔法の腕前は大したもの。ローラ姉さまがいれば、どんな刺客が放たれようとエリザベート姉さまが傷つくことはないわ」


「……ふぅ。私もその意見に賛成であります。防衛上のことを考えると、ローラ姉さまがこちらの陣営に加わるまで、姉上の存在は伏せておいた方が無難かと」


 復興に一人、どうしても欠かせないものがある。

 第二王女ローラ。その協力だ。


 実際、それについては女エルフたちも痛感していた。

 他の王女たちと違い、第二王女はこの危難の中にあって、女エルフたちの誘いを受けるまでも無く、自ら進んで救援に駆け付けた。

 また、女エルフとの協力を拒み、独立独歩で国の復興を目指すと声高に宣言した、行動力のある人物である。


 第一王女の身を守る件については、まぁ、第二王女がいなくてもどうにかなる。

 しかしながら――。


「彼女を取り残して復興を進めるのは、後々のリスクを考えると賢明とは言えないでしょう。妙な禍根を残すことになる」


「だぞ。姉妹仲良くするのが一番なんだぞ」


「そうよね。エリィ、どうかしら。私としては不本意だけれども、もう一度、あの高飛車女の所に話し合いに行ってみるというのは」


 王権の一本化。

 第二王女だけがこれから立つ復興政府の蚊帳の外にあったとなっては、他の勢力に付け入られる可能性が考えられる。また、彼女が連れてきた、多くの人員たちが味方に加われば、まず、白百合女王国内で比する組織は存在しなくなる。


 戦略的にも、家族としても、第二王女と和解するのがなにより先決。


 妹たちと義姉たちに請われて第一王女は黙考する。

 しかし、すぐに目を開く。

 答えはもはや問われるより前に彼女の中にあった。


「はい。皆さんの言う通りです。私も、ローラを置き去りにして、この国の復興を進めたいとは思っていません」


「……エリィ」


「……よくご決断されました。エリザベートさま」


「だぞ!! やっぱりエリザベートはいい子なんだぞ!!」


 もう一度、話し合いに行ってみましょう。

 そう女エルフたちに告げる第一王女。


 一度は予期せぬ要因で破綻した同盟関係。

 しかし、根柢の所で国を思う気持ちは、きっと変わらない。


 そう信じて、彼女は勇気を振り絞り、妹に再び会いに行くことを決意した。


 それは第一王女の中で何かが変わろうとしている兆候。

 周りに流されるだけではなく、自分で考え動くという意志から来るもの。

 確かに周りの意見を聞いての行動だが、この国を憂いて決断したこと。


「……どこか頼りなかったけれど、急に頼もしい感じになったわね」


 などとごちる女エルフ。

 実際、第一王女の心の中で、些細な変化が起きているのは間違いなかった。


 彼女はなろうとしていたのだ。

 この国を背負うことができるだけの人物に。

 白百合女王国の民を率いることができる、そんな傑物に。

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