第573話 どエルフさんとエルフ崎夢彦

【前回のあらすじ】


 バビロニア歌劇団からあいつがやってきた。


 女性歓喜。

 男より男らしい男形スター。

 煌めく金髪、流れる瞳、そして甘いマスク。

 精悍なそいつはバビロニア森組所属の文字通り大スター。


 そう彼の名は――エルフ崎夢彦!!


「って、誰じゃそいつは!! 知らんわーい!!」


 え、ご存じないんですか? あのエルフ崎夢彦を?

 どエルフさん世間に疎すぎやしませんかね。エロいことばっかり考えているからそういうことになるんですよ。猛省してくださいね。


 それにしたって、流石だなどエルフさん、さすがだ――。


「というか流れ!! タイトル!! オチの読めるキャラクター名!! 最近ちょっとギャグの仕掛け方が大味過ぎない!?」


 ☆ これを書いているのは平成最後の日です。自分の人生と共にあった時代が終わるという感慨に浸りながら、ひいこらひいこら今日更新日なのにまったく準備できていないなりーという感じで頑張っている筆者であります。ひんひーん。


「誤魔化すなぁ!! もうっ!! 馬鹿ァ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 女エルフたちが拠点としている酒場の窓が締められる。

 外から入り込む光が遮断され、暗闇が酒場の中に満ちた。


 はかりごと

 まさか罠に嵌められたのか。

 第三王女が一瞬だけ身構えた。


 国庫大臣という政治の中枢に居た彼女である。

 頼まなくても厄介事は彼女の下に転がりこんできた。

 そして、そんな難事に対応もしてきた。直接的な暴力にも、回りくどい政治的な謀略にも。故に、この程度のことで彼女は動じない。


 しかし――。


「お待たせしてしまったようだねレディ!!」


「……あぁっ!!」


 唐突に階段に光が集中する。

 青みがかったそれはスポットライト。


 洞窟の中などで暗闇を照らす魔法の応用。

 漠然と光を放つのではなく、一点にそれを集中し、人や物を照らし出す技術。時に洞窟内のトラップを看破するために使われるそれを、大光量・大出力で行ったのは他らない法王だ。


 これまでの流れも、これからの流れも法王のオールプロデュース。

 中央大陸はもちろん、必要があれば海を越えて各国要人と対談してきた経験では伊達ではない。彼女は効果的かつ合理的に、第三王女の取り込みを考えていた。


 そう――。


 これは第三王女を引き込むことに必要なこと。


「僕がバビロニア歌劇団森組の男形――エルフ崎夢彦さ!!」


「エルフ崎夢彦!!」


 白いタキシードにポマードで塗りつけ作ったリーゼントの頭。

 長い睫に無理やり化粧で作り上げた深い彫。

 深紅のネクタイが揺らめく首元。


 厚い革靴で階段を踏みしてめてそいつは降りてくる。


 階段を降りきった所でタンと床を軽やかに踏み鳴らす。

 彼女はさわやかな歯を第三王女に向かって見せつけた。


 ほぁと第三王女の顔が上気する。


 女心と秋の空。

 そう、女心を理解することは古来よりとても難しい。

 その語源は本来は男心とだという話もあるが、それが紆余屈折を経て女のものとして定着するくらいに、複雑怪奇で理解しがたいモノなのである。


 故に、彼女たちの心を十全に理解することは難しい。

 異世界でも現実世界でもそれは同じなのだ。


 しかし!!

 だからこそ!!

 男装の麗人なのである!!


 男に女心が分からないのなら、女が分かってしまえばいいのである。

 そう、同性だからこそ女には女の心が分かるのだ。どのように振舞えば、彼女たちの心を揺さぶることができるのか。どのような仕草が彼女たちの性癖に突き刺さるのか。世に蔓延る男たちに感じている物足りなさがなんなのか。


 分かる!! 分かるのだ!! 女性だからこそ分かるのだ!!


 女性が思い描く、女性のための、女性が演じる理想の男性。

 そんなものが――かっこよくない訳がない。


 そして――。


「驚かせてしまったねお嬢さん。大丈夫さ、僕は味方さ。さぁ、一緒に手を取り合って、白百合女王国を復興しようじゃないか」


「――あぁ、なんて素敵な方なのかしら。こんな素敵な方が、バビロニア歌劇団にいらっしゃったなんて」


「森組はバビロニア歌劇団の中でも特殊な組だからね」


「亜人国家向けの歌劇を行う組ですから。モルガナさまがご存じないのも仕方ないかもしれません」


「けどけど、こんな素敵なお方を今の今まで知らなかっただなんて。バビロニア歌劇団ファンとして失格ですわ。あぁ、なんて恥ずかしい」


 いやいやと首を振る第三王女。

 そんな彼女の顎先をなぞって、くぃとエルフ崎が瞳を自分の方に向けさせる。


 吐息がかかるような距離。

 下を向いた第三王女にふふっと不敵に笑ってヅカ男は言う。


 また、その白い歯がきらめいた。


「ならばもう忘れないでおくれ。君のような可憐な乙女に忘れられるなんて、悲しすぎるからね」


「あぁん!! エルフ崎夢彦さまぁあああん!!」


「君に魔法をかけてあげよう。恋と言う名の決して解けない魔法をね」


「んあぁあああん!! しゅきぃぃい!! エルフ崎さまかっこいいのぉお!!」


「……ノリノリですね、モーラさん」


「……やる前はいやいやってめちゃくちゃしぶっていたのに。いやよいやよもなんとやらという言葉が突き刺さりますね」


「……だぞ」


 やっている方も楽しくない訳がない。

 そう、エルフ崎夢彦ことこのヅカ男の正体は――。


 言うまでも無いだろう。


 女エルフであった。

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