第569話 どエルフさんと一方その頃

【前回のあらすじ】


 梁山パーク首領。

 ハゲ修験者を取り逃した魔剣エロス(男騎士を乗っ取り中)。

 迫りくる彼の親衛隊。絶体絶命のピンチに彼の前に現れたのは、自らの愛剣を名乗る女――聖剣トウカであった。


 その突然の出現に驚く魔剣エロス。

 そんな彼に、まるで全ての事情を察した様に微笑を向ける聖剣トウカ。

 そして彼女はあろうことか――。


「お前、剣士じゃねえな? この魔法はお前が使ったのか、聖剣トウカ?」


 転移魔法を使って男騎士たちをこの場からどこかへと飛ばすのだった。

 去り際、また会いましょうと英雄スコティの名を呟く彼女。


 果たしてその正体は何者なのか――。


「えぇ、信じていますとも。貴方は本当に本当の大英雄なのですから。一番傍で貴方を見てきた私が言うのです」


◇ ◇ ◇ ◇


 一方その頃、どエルフさんたちは。


「第二王女があてにならないとなると、他の王女を先に懐柔するのを優先した方がよさそうね」


「そうですね。あの様子では、モーラさんがこちら側に居る限り、交渉すら満足にできそうにありませんし」


「だぞぉ。けど、オババといいあの第二王女といい、一癖も二癖もある人物ばっかりなんだぞ。きっと第三王女たちも、負けじと劣らずの変人に違いないんだぞ」


「人の家族をそんな変わり者みたいに言わないでください!!」


 と、怒ったのは第一王女。

 やはり身内に対する情愛は曲がりなりにもあるのだろう。

 しかし、怒ってみせたがいかんせん、一番の変わり者は彼女である。

 エルフ好きの暴走特急車。

 そんな第一王女が何を言った所でまったくもって説得力などないのであった。


 第二王女に協力を断られた女エルフたちは、早々に方針転換を図っていた。

 街の酒場兼宿場。そこを拠点にして作戦を練る女所帯。丸テーブルを囲んで、彼女たちは今後どうやって白百合女王国の再建を行おうかと議論を交わしていた。


 まずは彼らと共に戦ってくれる協力者について。

 次に、残り三人の王女たちの誰から接触していくか。

 話題はその二つになった。


「まぁ、モルガナ、ミレディ、クラーラ。どれもエリィの姉妹だけあって、強烈な気はするけれど。まずはそこについては触れないでおきましょう」


「国庫大臣を務めていたモルガナさまは、もしかするとこの事変を受けて国の金融資産を移動させている可能性があります。差し当たって、活動資金を調達するのには、彼女と歩調を合わせるのが肝要かと」


「だぞ、けれども重要なのはやっぱり兵力なんだぞ。下手に金を持っていても、白百合女王国内で流通する硬貨や紙幣なら価値はほぼないんだぞ。宝石や金銀、その手の物に変えて保持しているなら話は別だけれど――」


「ではミレディですか。彼女の持っている私設の諜報部隊は確かに力になります。また、特殊な訓練を受けた精鋭兵たちも何人かいますから、兵力にはなるかと」


「情報戦は戦の基本ですからね。悪くない判断かもしれません」


「待つんだぞ。諜報機関の人間は国の汚れ仕事をしてきた人間なんだぞ。性格やら素性に訳のある奴らが多いんだぞ。それに諜報活動と本格的な軍事作戦とでは、また必要とされてくる能力が違ってくるんだぞ」


「じゃぁどうすればいいのよ」


 匙を投げるように嘆く女エルフ。

 出される案は悉く、ワンコ教授の冴えた頭で却下されていく。

 正直、面白いわけがない。

 そんなやりとりに、女エルフもやきもきとしていた。


 同様に法王、第一王女もだ。


 何気にこの手の話で理詰めで事を進めるワンコ教授。彼女は何かと頭が回ったし、とにかく細かいことに気が付いた。しかし、そんな細かい指摘は、大まかな方針を決定する会議においてはめっぽう厄介である。


 こういう時、女修道士シスターが居たならば。


「ケティさん。そうは言っても、こういう考え方もできませんか」


「モーラさんたちの言うことにも一考の余地はありますよ」


 などと橋渡しをしてくれた。

 そんな優しい女修道士シスターはもういない。


 つまり――。


「だぞ!! つまり、僕たちは八方ふさがりの状況に追い込まれたんだぞ!!」


「「「な、なんだってー!!(棒読み)」」」


 解説役、ワンコ教授の独壇場。

 弁の立つ奴が場を引っ掻き回す、不毛なエンドレス会議に突入していた。

 哀れ、女エルフたち、こんなはずじゃなかったのにと涙を流す。まさかここまでワンコ教授が議論を白熱させるとは、彼女たちも思っていなかったのだ。


 はたしてこのままでは、いったい誰に白羽の矢が当たるのか――。


「では、やっぱり一番兵力を引き出せそうな、外交官のクラーラに接触しますか」


「ケティの言い分から判断すると、そうなっちゃうわよね、しかし」


「けれども心配ですよ、なにせ他国から軍を入れる訳なんですから。既に暗黒大陸に蹂躙された白百合女王国です。国民に要らぬ恐怖を与えるだけではないですか」


 第四王女クラーラ。

 旧政権では外交官として、連邦共和国はもちろんのこと、紅海の先や北の大地に対して積極的な外交を行っていた王女である。


 この動乱の中においても、唯一その居場所がはっきりしている女である。

 そう、彼女は今、北の大陸に亡命を行っていた。

 彼女が声をかければ北の大陸から海路により、一万程度の兵をこの白百合女王国に入れることは可能になる。


 しかし、それはやもすると、北の大陸に女王国の実権を握られるかもしれないという、ある種の危険性もはらんでいた。


 それは第一王女たちが求める、女王国の復活プランからは程遠い話だ。

 結局、レジスタンスから北の大陸の要人に、支配者が切り替わるだけである。


 それではいけない――。


「北の大陸の者たちが信頼できない訳ではないのですが」


「だぞ、確かに、迂闊に他国の軍を国内に入れるのは災いの元だぞ。こういう場合は各国から義勇兵を募って、あとくされのない多国籍軍の形をとるべきなんだぞ」


「気軽に言っちゃってくれるわね」


 それが出来たら苦労はしないわよと、女エルフが鼻で笑ったその先で。

 なるほどという顔をして、ワンコ教授の案に相槌を打つ者が一人いた。


 法王――リーケットである。


「ケティさん、それは、いいアイデアかもしれません」


 義勇兵による多国籍軍。

 どこの国にも属すことなく、白百合女王国の独立のためだけに集まった組織。

 そして、独立の暁には速やかに国に帰る者たち。


 そんな者たちを集めることができれば話は早い。

 しかし、そんなことができる者が、はたして第一王女の姉妹にいるだろうか。


 馬鹿言ってるんじゃないわよと法王をあざけるように鼻で笑う女エルフ。

 しかし、法王は顔色一つ崩さずに、口元を隠すように机に肘をたて手を組んだ。


 我に秘策アリと言う感じで。


「大丈夫です。一つ、良い案を考え付きました。それも、王女たちの力を借りて実現できる、いたってシンプルな作戦が」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る