第567話 どエロ剣と危機一髪
【前回のあらすじ】
洗脳魔法アーッスカロンが決まり意識を失った男騎士。
そんな彼の前で、梁山パーク首領はその本当の姿を現す。
ツルッパゲに修験者姿。
古い画調のその男はやれやれとなにやら訳ありのため息を吐きだすのだった。
すわ、男騎士ピンチ。
悪の組織にその身を操られてしまうのかと思われたその時。
ハゲ修験者が腰の魔剣に気が付いた――。
「これはまさか。古に聞く大名刀――破邪の魔法剣エルフソードではないか? 彼の大英雄スコティと、その仲間であった戦士エモアが持っていたというが、どうしてそんなものを彼が持っているのだ」
「そいつはよぉ、その大英雄さまがこの男はと惚れ込んだからにきまってらぁな」
寸での所で、男騎士の精神を乗っ取った。
その身体を動かして危機を救う魔剣エロス。
久しく忘れられていた魔剣の権能――持った者を自在に操る――をフルに発揮して、彼は男騎士の窮地を救うのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
裂帛の気合が男騎士の背中から立ち上る。
いつもは得意の上段に構える男騎士だが今日は中段。正眼の構えでエルフソードをハゲ修験者に向けている。
それはそう、今の彼は男騎士であって男騎士でないからだ。
魔剣エロス。
持った者の精神を乗っ取り、自らの意のままに操る魔剣。
大英雄の執念により生み出されたその剣は、久しぶりに魔性を発揮していた。
男騎士の意思がなくなった体を強制的に乗っ取り代わりに動かす。
寄らば斬る。
剣を抜けば斬る。
いずれにせよ斬る。
大英雄のものとは思えぬどす黒い剣気が目の前のハゲ修験者に降り注ぐ。
あてられて彼の顔がさぁと青ざめるのをあざ笑うように、がははと男騎士――もとい魔剣がその口を大きく開いた。
「残念だったなぁ。俺様がティトについていたのがおめえさんの敗因よ。
「……なんと!! 風聞に彼の大英雄が再びこの地に舞い戻り、暗黒大陸の巫女と戦ったとは聞いたが事実であったか!! しかし魔剣に身をやつすとは!!」
「好きでやつした覚えはねえよ。なんだその口ぶり、いろいろと知っているみたいだが――どうでもいい。ティトの野郎が戦闘不能になった時点で作戦変更だ」
ちと過激なやり方になっちまうが、全員斬り捨ててここを脱出する。
魔剣エロスの抜き差しならない発言に、さらにハゲ修験者の顔が青くなる。
滲んだ脂汗が顎先を走って床に落ちる。
そのわずかな瞬間であった――。
魔剣エロス。
自らの身体を突き出してハゲ修験者の胸元へと渾身の突きを繰り出す。
魔法鋼を鍛えて造られたその刀身は軽やか。
まるで白樺の矢でも繰り出したかのような一瞬の刺突。
そのあまりの速さに魔法剣士は反応することもできなかった。
腹を貫き背からその刃先が飛び出る。
しかし――。
「……てめぇ」
「……恐ろしきかな神業の如きその剣術。まさしく魔剣。そして、まさしく大英雄。あまりのその速さに内臓を動かす刻しかなかった」
相変わらず顔色は青いハゲ修験者。
しかし、その顔の相には闘志があった。
大英雄を前にして消えぬその闘争の意思。
なるほどこの男、レジスタンスを率いているだけはあって骨のある奴と、魔剣が男騎士の身体で苦笑いをする。
その一瞬の隙に、今度はハゲ修験者が仕掛けた。
「大英雄と刃を交えることになるとは、いよいよ儂の星が落ちる時が来たか。しかし、ミッテル使徒九傑コウソンショウの名において退くことはできぬ!! この民が嘆く動乱を前に、戒律を破って山を下り、彼らを救い率いた時点で、我が行く道に艱難辛苦があることは承知!!」
「ミッテル使徒九傑だぁ!?」
「……行くぞ!!
【仙術
男騎士の周りがいきなり草木の生い茂る大平原へと変わる。
見渡す限りの荒野。
そこを徘徊する、つぶらな瞳の頭から耳やら角やら生やした動物たちの姿。
そして、白いなめくじ。
強烈な幻惑魔法。
人のいる世界を丸ごと書き換える強烈な魔法。
それはハゲ修験者が並みの魔法使いではないということを物語っている。
もしここに、男騎士だけでなく、女エルフたちが居たならば、パーティはどったんばったん大騒ぎ。悲惨なことになっていたことだろう。
しかし――。
「忘れたか!! 俺さまは破邪の魔法剣エルフソードでもあるんだぜ!! こんな精神感応魔法効くと思ってんのか!!」
一振り。
男騎士が虚空を切れば突如として現れた原野は霧散する。
まるで張り付けられたテクスチャを斬り裂くように、すぱりと魔法を断ち切れば、世界は再び――首領の館の光景へと戻った。
しかし。
「だっ!! しまった!! なんだよ、そっちが本当の狙いか!!」
虚空を斬り裂いた魔剣が苦々しい声をあげる。
いつの間にか――ハゲ修験者の身体から抜けていた魔剣の叫びが、誰もいない部屋の中へと木霊する。
そう。
男騎士と魔剣エロスは、まんまとハゲ修験者に逃げられた。
そして、それこそが、破邪の魔法剣にあえて幻惑魔法をしかけた狙いであった。
「……あんにゃろう。魔法使いのくせしてできるじゃねえか」
魔剣エロスが唸る。
意識を失い、表情も曖昧な男騎士の手の中に握りこまれたその刀身には、血の一滴もついていなかった。
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