第558話 ど男騎士さんとアンラッキースケベ(ただの事案)

【前回のあらすじ】


 ついにカタコンベから脱出することに成功した男騎士たち。

 死してなお国を思う賢王シャルルを惜しみながら、彼らは地上へと脱出する。

 光の指す方へ、希望へと向かって。


 シャルルが為せないことを為すために。

 彼が愛した国と女を守るために、男騎士は前を向いて再び現世へと舞い戻った。


 だが――。


「きやあああああああ!!」


「なにやっているの貴方たち!! ここがキャラバンの女子脱衣所だって分かっているの!? というか、どうやって忍び込んだのよ、この変態!!」


 この小説はおとぼけすっとぼけとんちきアドベンチャー。

 そんな感動的な帰還が果たせる訳もない。男騎士たちはあろうことか、裸の女の子たちがひしめく中へと転移したのだった。


 どうしてこうなった(日頃の行い)。


「……流石だなどエルフさん、さすがだ」


 いつもの捨て台詞で責任転嫁。噴き出る脂汗を拭いながら、男騎士は真面目な顔をして誤魔化した。帰還早々ながら大ピンチと言う奴である。


◇ ◇ ◇ ◇


 男騎士たちが迷い込んだのはどこかのキャラバンだった。

 キャラバンの隊員たちは流石に白百合女王国だけあって少女たちが多いようだ。そんな彼女らの脱衣所に、男騎士と魔剣は突然転移してしまったのだ。


 隊商キャラバンである。

 街から街へ移動し、その先々で商いをする。

 そのためには、さまざまな人材が必要になってくる。


 モノを売る人。

 金の計算をして帳簿を付ける人。

 そして隊商を賊やモンスターから守り、安全な旅路を約束する人。


 典型的な例が隊長である。

 彼のように、腕っぷしの立つ者が隊商には少なからず席を置いている。

 そして、腕っぷしが立つ者は性別を問わない。なによりここは腐っても女傑が治める強き女たちの国、白百合女王国である。


 屈強なゴリラみたいな女たち。

 皮鎧を身に着けた彼女らに囲まれて、男騎士は椅子に縛り上げられていた。

 彼はすんなりと彼女たちに捕縛されてしまったのだった。


「……うぅむ、参った」


「とんだアンラッキースケベだな。幸運値低いんじゃねえかティト。ちゃんとステータスの成長もしねえとだめだぜ。技能レベルだけじゃなくて、元々の基礎ステータスにも経験値振って成長させとけよ」


「いや、そんな簡単に言ってくれるな」


 この世界は例によってTRPGのシステムでステータス表現がされているが、どっこいそれを自由に上げられる訳ではない。成した行いによって必然的にステータスが更新される、そういう世界なのである。


 なので、手に入れた経験値を振り分けて、成長をコントロールするのは不可能。

 いや、意図的にできる人種もいるが――それはごく限られた者たちである。


 とはいえ、俗に勇者と呼ばれる者たちは、自然とこのコントロールを行い、ステータス強化を計算してやっているところがある。そのため、エロスは、なんの気なしに、それくらいやれよと言ってみせた。

 けれどもそれができるだけで、それはそれで一つの才能なのである。


 無茶を言うなよと顔を青ざめさせる男騎士。

 そうしながら、彼は同時に自分を睨む隊商の女隊員たちを眺めていた。


 どれもこれも女だてらに立派な体つきをしている。

 目算だが、戦士技能レベル3は堅いだろう。

 なかなか粒ぞろい。この隊商を組織した人物が誰かは分からないが、そこそこに目端の利く人物だと男騎士は判断した。


 なにより――。


「……椅子に縛り付けるのが手首だ。ちゃんと隙間ができないように固く締め付けられている。これはなかなか、荒事を経験していないとできない技だな」


「だな。縛られたフリをしてさっさと脱出するつもりだったが目算が狂った。どうするティトよ」


 うぅむと唸る男騎士。

 できるだけ荒事は避けたかった。

 なにせ、自分の実力は嫌と言うほど知っている。

 いくら粒ぞろいの兵とは言っても男騎士からみればひよっこ。レベル差5以上ある相手はそう簡単に倒せるものではない。そして、その逆もしかり。一方的に倒すことは簡単でも、手加減して相手をするのは難しい。


 故にあえてつかまり、こっそりと脱出するという、姑息な手段に出たのだが。

 完全に行動が裏目に出てしまった。


「参ったな」


「おいおい、打ちひしがれていないで打開策を考えろよ。白百合女王国を救うんだろう。それに、モーラちゃんたちとも合流しなくちゃならない。うかうかとしている場合じゃない」


「そうだが、いかんせん、知力1ではいい案が思いつかない。知力2でも思いつくかどうか」


「だからステータスに経験値振るのも大切だって言っただろうが。技能レベルばかり極めてないで、地道な基礎練もしろよな、まったく」


 申し訳ないと男騎士が腰の魔剣に謝る。

 すると、そんな不思議な様子を見咎めて、隊商の女隊員が睨みをきかせた。


 何をしているんだという表情。

 魔剣を取られてしまっては元も子もない。

 これはまずい、墓穴を掘ったかと思ったその時――。


 男騎士が捕らえられているキャラバンのテント。キルト地の薄茶色に汚れたそれが人の手により揺れた。黒いショートボブの髪をたなびかせて現れたその顔に、男騎士は見覚えがある。

 そう彼女こそは――。


「とんだことをしてくれたわね。嫁入り前の女の子たちの肌を見るなんてサイテー。これだから男は信用ならないのよ。まったく、白百合女王国の権威も地に落ちたわね。カミーラが生きていたら、こんなことにはならなかったのに」


「……嘘だろ」


「おいおい、こりゃまた、とんでもない所に出ちまったみたいだな」


 あばたまみれの頬を膨らませるのは、カタコンベに入る前に眺めていた女性。

 白百合女王国の第二王女――ローラであった。


 しかし。


「実の母をカミーラ呼ばわり?」


「ふーむ。なんかこりゃ、いろいろと分からん事情がありそうだな」


 男騎士たちがふと、その不自然な発言に気が付く。

 知力1にしては会心の気づきである。ステータス判定の代わりに、冒険者技能を利用した知力判定に、どうやら男騎士は成功したようだった。


 しかしその気づきが、良い方に転ぶのか悪い方に転ぶのかは、ちょっと判断がつかなかった。

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