第529話 ど男騎士さんと目指せ白百合女王国

【前回のあらすじ】


 魔剣エロス引き続いてのパーティ同行。

 神々との謁見というミッションを円滑に進めるために、かつての大英雄は当世の英雄たちにその力を貸すことを選択したのだった。


 そしてもう一つ。


「やれやれ。流石だぜどエルフさん、さすがだ」


「お前がそのポジ引き継ぐんかーい!!」


 女修道士第二ボケのピンチヒッター。

 ツッコむ棒に代わってツッコむ剣が加わったことによりますますキレるどエルフネタ。

 はたしてこれからどエルフさんどうなってしまうのか――。


「いや、最近、ストーリーネタでいろいろと誤魔化しているような」


 はい、という訳で、さっくり本編に行ってみましょうかね。


◇ ◇ ◇ ◇


「さて、赤海に出るには大陸の東側の港へ向かう必要がある。せっかくなのだ、白百合女王国に向かおう」


「そうね。暗黒大陸の侵略を受けて、あの国がどうなったのか確認しなくちゃいけないし。なにより、エリィのお母さん――カミーラがどうなったか心配だしね」


 暗黒大陸の軍勢の中にエリィの母カミーラの姿はなかった。

 捕虜になった様子はない。となれば、暗黒大陸の軍勢と戦い、逃げたかあるいは――という所である。そこの所をはっきりさせる必要がやはりあった。


 なにせ彼らのパーティには。


「……お母様」


「……エリィ」


 先述の通り、白百合女王国の第一王女が居るのである。

 親に言われるがまま逃げてきた第一王女。気遣う余裕もなく旅立った彼女だが、暗黒大陸との戦いに一段落がついたとあっては話も別。母の安否が気にならない訳がない。彼女の心情を考えれば、その旅路を急ぐ必要があった。


 女修道士シスターの件もあるが、第一王女の件もある。

 とにかく、出発を急がねばならなかった。


「厳しい話になるが、白百合女王国の女帝カミーラの安否については絶望的だと言っていいだろう。あまり過度の期待はしないことだ」


「……分かっています」


「だぞ。ヨシヲのかつての仲間たちがあの戦乱を前にして動いたと聞いてるんだぞ。もしかしたら彼らがカミーラを助けてるかもしれないんだぞ」


「けれども因縁浅からぬ相手よ。助けるかしら……」


 あっと、ごめんなさいと謝る女エルフ。

 そんな彼女にいいんですよと第一王女が強がりの笑みを見せた。


 かつて白百合女王国は女尊男卑の国であった。その国の在り方をよしとした女帝カミーラについて、男たちがいい感情を持っているとは思えない。なにせ、国家を転覆しようと決起したような奴らである。


 望みは限りなく薄い。

 けれども――。


「今回の争いは暗黒大陸による侵略だ。過去の恩讐をいちいち言っている場合でもないだろう。国の根幹たる女帝カミーラを救わんとしてもおかしくない」


「ティトさん」


「希望を捨てるな。それに、あの苛烈なオババ――女帝がそう簡単にくたばるとも思えない。きっと君を逃したあと、巧い具合に逃げているに違いない。案外俺たちが白百合女王国領に赴けば、ひょっこりと姿を現してくるかもしれない」


 男戦士の言葉に励まされて、第一王女の瞳に光が戻る。

 はいと頷いて返した彼女は、男戦士パーティの前へと立った。


 その顔が向くのは遠き故郷。

 中央大陸の東の果てにある故郷――白百合女王国である。


「行きましょうみなさん!! 暗黒大陸に奪われたものを取り戻すための旅に!!」


「あぁ!!」


「妹の世話も姉の役目よね。まぁ、どーんと私に任せておきなさい」


「だぞ!! コーネリアも、白百合女王国も全部救って、ついでに魔神シリコーンから世界も救うんだぞ!!」


「……人類の意地という奴を見せてあげましょう皆さん」


 かくして男戦士パーティは、いつもの拠点としている街から白百合女王国へと出発したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 一方その頃。


 暗黒大陸へと引き上げた魔神の将兵たちは、彼らの根城としている居城の中で顔を突き合わせていた。玉座には、ダイコンを突っ込まれたことで硬化し、けれども、すっかりと小さくなってしまったピンク色をした魔神筒。


 その逞しかった筒から発せられるオーラはもはやない。

 すっかりと霧散してしまった神々しさを前に、仮面騎士と殺人メイドが顔を見合わせる。巨人の娘が咆哮をあげる。いつの間に逃げ出したのか、女エルフの故郷の森で捕まったはずのトカゲ男たちもそこには集まっていた。


 みな、その面持ちは暗い。


 理由は彼らの奉ずる神が封じられたからということもある。

 しかしそれだけではない――。


「なんてこった、大変なことになっちまったぜ。ペペロペの奴がくたばるなんて」


「デース。ペペロペさまを失ったのは手痛いデース。私たちを逃がすために残ると言ったのも驚きでしたけれど――まさかアレがフラグだったなんて。ペペロペさまならひょいひょいのぽいで生き残って帰って来ると思っていたのデース」


「ケロケロ。我が暗黒大陸側の最終兵器の喪失。この中央大陸との戦力差をどうやって覆すケロ。というか、ぶっちゃけもう無理じゃないかこれケロ」


「ママァー!! マァマァアアアアア!!」


 お通夜状態。

 魔女ペペロペという精神的支柱を失って、彼らはおおいに狼狽えていた。

 さらに、さらにだ、暗黒大陸についての不幸はまだ続く。


 そう、この場には、居なくてはいけない者たちがいなかった。

 暗黒大陸の面々の根幹となる人物の姿がなかった。


 誰か――。


「そこに加えてシュラト、アリエスの突然の不在」


「どこ行っちゃったデース!! あのポンコツ騎士と、ダークエルフは!!」


「ペペロペさまの下着のストックはまだある。魔力と適性のある魔法使いが要れば復活することもできる。けど、ケロケロ、アリエスどのまで行方不明とは」


「ママァぁあぁあああ!!」


 そう。

 彼らのリーダーである暗黒騎士。そしてその補佐をする女ダークエルフ。

 彼らが、中央大陸からの撤退戦のさ中、忽然とその姿を消していたのだ。


 理由は分からない。そして、生死も分からない。

 ただただいなくなった彼らの身を案じることしか残された暗黒大陸の者たちにはできない。魔神シリコーン復活など夢のまた夢。


 このままでは――。


「暗黒大陸は早番瓦解だぜ。どうする。俺らみたいな武闘派の武将ばかりじゃどうしようもならないんじゃねえか」


「デース」


「ケロケロ」


「マンマァ!! マンマァ!!」


 中央大陸への再侵攻は難しい。

 男騎士たちが警戒しているのに反して、暗黒大陸側も危機的な状況に陥ってた。


 はたしてこの指導者の不在をどう乗り切るのか。

 その時。


「ふふっ!! どうやらお困りのご様子ですネェ!! 暗黒大陸の将たちが雁首揃えて何の案も決めることができないなんて、あぁ嘆かわしい!! 貴方たちは、シュラト殿とペペロペさまがいなければ、策の一つも寝ることができないのですか!!」


 ゲタゲタゲタと下品な笑いが暗い間に満ちる。

 そこにぼとりとまるで欄間から猫が落ちるように現れたのは黒いマントに黄色い仮面を被った男。月を彷彿とさせる仮面を被ったそいつは、四本の足で立ちながらゲタゲタゲタとまた気味の悪い笑い声をあげるのだった。


 紅騎士たちが眉間を抑える。


 仲間には違いないが、どうやらその表情を見るに、あまり良好な関係にある相手ではないようだった。


「相変わらず厄介ごとの匂いを嗅ぎつけることにかけては一流だな」


「えぇもちろん。この道化のジェミィを舐めて貰っては困ります。厄介ごと、騒乱、謀略、その匂いをかぎ取るのは――私の愉悦でございますから」


 四つ足の月面のケダモノ――ジェミィと名乗った獣の道化はそう言って、その鋭い歯を打ち鳴らして笑うのだった。まるでこの身内の混乱を楽しむかのように。

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