第506話 ど男騎士さんと儀式魔法

【前回のあらすじ】


 今の今までその正体と目的の分からなかった暗黒大陸の外交ゴブリン僧。

 しかして彼は、かつて大英雄スコティと共に魔女ペペロペに立ち向かった大英雄の一人。スコティの荷物持ちにして、英雄たちの中でも最も彼と長く時間を共にした者――力持ちのネイビアであった。


 彼に拘束されて、魔女ペペロペが悶絶する。

 ここに、長年に渡る彼らの宿願は達成されようとしていた。


「魔女ペペロペェ!! セレヴィさまの体を返してもらうぞぉ!! スコティさまが愛したエルフ、セレヴィさまを返してもらう!! オデたちはそのためにここに来た!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「ティト!! 無事か!!」


「にょほほほ!! 相変わらずのようじゃのうお主ら!!」


「ハンス!! ヤミ!! 無事だったか!!」


 兵たちの合間を縫って大剣使いと金髪少女が男騎士の方へと駆け寄ってくる。

 会うなり拳を合わせる男騎士と大剣使い。背中を預けて戦い合った二人である、もはや言葉は不要。すぐに大剣使いは男騎士の精神的成長を理解した。


 男騎士、隊長、ヨシヲ、大剣使い。

 益荒男の魂を持つ男たちがここに四人揃う。

 あとは最後の一人を待つばかり。


 すると、これまた兵たちの合間をすり抜けて、馬が一頭男騎士たちの前へと駆け込んできた。鞍の上に乗っているのは、第三部隊の鎧に身を包んだ男――青年騎士。そして、彼と共に戦場を駆け巡っていた、からくり侍であった。


「ティトさん!! それと皆さんご無事でしたか!!」


「ござる!! ティト殿!! 無事の御帰還なによりでござる!!」


「ロイドくんにセンリちゃん!! 貴方たちも無事だったのね!!」


 最後の一人。

 江戸者伊達スエドモンダンテスを持つ青年騎士もまた到着する。

 馬上から降りてすぐに男騎士に近づく青年騎士。所属している部隊が裏切るという、なかなかショックな展開にもめげずに、青年騎士は凛とした顔で男騎士の前に立った。


 彼もまた、短い間とはいえ一緒に男騎士と旅をした青年である。

 精神的な時の部屋での修行を終えて一皮むけた男騎士。その成長に彼もまた息を呑んだ。暗黒騎士との戦いを遠目に眺めて、その力の凄まじさを思い知った後であったが、そこに重ねてこの溢れんばかりの覇気である。


 やはり器が違う。

 彼は体の芯を走る衝撃に打ち震えた。


 武者震い。

 それは隣に立っているもう一人の男騎士の弟子――からくり侍も同じであった。


 そんな意味も分からぬ感動が満ちている場に、青白い光を伴って影が現れる。


「この短い時間に何があったのか知りませんが、また一段と強くなられましたね」


「……プリケツちゃん!!」


 小距離の転移魔法で現れたのは杖と布で巻かれた何かを手にした法王ポープ

 彼女は男騎士に目配せし、次いで女修道士に向かって笑うと、さっそくその杖を振り上げたのだった。


 ここに、儀式に必要な者たちは揃った。


「リーケット!! 儀式魔法【漢祭】の仕方は教えた通りよ!! ばっちり決めなさい!!」


「……はい!! クリネス様!!」


 オカマ僧侶の叱咤の声と共に、法王が杖を振り上げる。

 皆さん、用意はよろしいですかと彼女が語り掛ければ、男騎士、隊長、ヨシヲ、大剣使い、そして江戸者伊達スエドモンダンテスを握り締めた青年騎士が応と声を上げた。


 円陣を組んで集まる五人。


 その中央に立つ法王。

 更に男たちの輪の中に入って、女修道士シスター、女エルフ、からくり侍、金髪少女、そしてワンコ教授と第一王女が立つ。守るべき女たちを背中にして、男騎士たちは胸を張った。


 男、まさしく男の姿。

 益荒男のあるべき姿である。


 そして――。


「中央大陸にまつろう漢たちの魂よ。ここに今、当代きっての益荒男が揃った。彼らの魂に呼応して、今、大陸のためにその力を貸したまえ。かしこみかしこみ奉る。我は海神マーチの僕、法王リーケット。その名において執り行う――大儀式魔法【漢祭】!!」


 大地が揺れ、天に光が満ちる。

 太陽光とは違うまばゆい光が降り注ぐ中、法王リーケットと女エルフたちが居る場所が盛り上がったかと思うと、まるで祭壇のようになる。


 土でできた祭壇から男騎士たちを見下ろす格好となる女エルフたち。

 そして――。


「み、見てください!! あれを!!」


「だぞ!! なんなんだぞ!! ティトたち益荒男の周りに円状の模様が!!」


「あ、あれはまさか!!」


 祭壇が土から盛り上がるのと時を同じくして、男騎士たちの足元に円い模様が現れた。紅白に光るそれがなんなのかと女修道士シスターたちがざわめく中――。


 女エルフ。

 一人だけ、嫌な予感を感じて顔を青ざめさせていた。


 まさか、ここに来て、どエルフ展開はあるまい。

 いや、けど、どエルフさんだしな、この小説。

 今までも、順調にシリアスと思わせておいて、肝心な所でしょうもないギャグをかますのは、この話のおきまりだったしな。

 もしかして、いや、もしかしなくても。


 そんな思考が女エルフの間を駆け巡っている間に――。


「さぁ、益荒男たちよ!! その心意気を今こそ見せる時だ!! その身の内に秘めたる熱意を、パトスを、今ここに解き放つ時が来たのだ!!」


「……まさか!!」


「儀式魔法【漢祭】は前儀式――熱闘コマーシャル!! さぁ、三十秒でお着換えしな!!」


「やっぱりーっ!!」


 発動したのはクソ儀式魔法。

 そう――。


【前儀式 熱闘コマーシャル: 紅白の布の中で三十秒間で着替えるという男気を見せる前儀式である。ここで男気の見せ方に失敗してしまうと、違う男気を見せることになってしまう。いや、実際問題として、男がやっても何も嬉しいことのない、本当に、ただただなんのためにやるのかというような、そういう儀式なのだが、こういう意味のないことをやるからこそ、儀式魔法というのは意味があるのであって、伝統とかそういうのが――三十秒!!】


「「「「いやーん!!」」」」」


 男五人、全員半脱ぎフ〇チンで紅白幟の中から姿を現す。

 そう、現代日本ならまだしも、異世界で三十秒早着替えは至難の業なのだ。

 こうなってしまうのはある種必然であった。


「ちょっとぉ、映さないでくださいよぉ、エッチぃ!!」


「落ち着け!! 恥ずかしいと思うから恥ずかしいんだ!! 堂々とすれば恥ずかしくない!! みんなおちんち〇つくんだ!!」


「お前が落ち着けビクター!! くっ、なんてことだ!! こんな所で、俺の股間のエクスカリバーを晒――なんだと!?」


「……うん? なんだ、何故、俺を見るんだ?」


「すごい!! みなさん、なんて益荒男ぶりなんだ!! 特に、緑の人の益荒男ぶりがすごい!! 天元突破レベルですごい!!」


「今!! 言う!! ことか!!」


 熱闘コマーシャル。

 女だと、そこそこ盛り上がるのに、男だとこの地獄ぶりである。

 あ、おっきーいというやり取り一つみても、地獄としか言いようがなかった。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「私、関係ないでしょ!! 勘弁してよ!!」

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