第507話 ど男騎士さんと熱闘コマーシャル

【前回のあらすじ】


 大剣使い>男騎士>隊長>青年騎士>ヨシヲ


「なんの!! 順番よ!!」


 なんにしても、儀式魔法【漢祭】の前魔法、【熱闘コマーシャル】にて、男騎士たちはみごとにお着換えに失敗したのだった。


「「「「「くっ……殺せ!!」」」」」


「今から世界を救うんでしょうが!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「やれやれ、黄金の褌を付ける前に、股間の黄金を晒すことになるとはな。すまない、本当にすまない」


「うぉい!! だからそういう危ないパロディ、やめろや!!」


 男騎士の迂闊な発言に、祭壇の上からツッコミを入れる女エルフ。

 それにまた、涼し気な顔ですまないと答え男騎士は視線をヨシヲに向けた。


 ブルー・ディスティニー・ヨシヲ。

 彼はその股間のエクスカリバーをぷらりぷらりと風に揺らしてたたずんでいた。

 魔法戦士という特性上、四人の中で最も軽装だった彼は、ほぼほぼ全裸であった。全裸であったが褌は身に付けられていなかった。

 脱ぐのに手いっぱいであった。


 そんな彼が、今、ニヒルな微笑みと共に、【愛の白褌】を腰に巻き付ける。

 するとどうだろう――彼の肩からすぐさま青いオーラが立ち昇ると、その顔が妙に濃いモノへと変質した。


 そう、なんだか男気溢れる、益荒男の顔に。


 濃い、少年漫画の登場人物のような顔つきにヨシヲは変わった。

 そして叫んだ――。


「ラヴ・アンド・ピース!!」


「それ、赤い奴や!!」


 赤い気のイイトンガリ兄ちゃんみたいなことを言い出すヨシヲ。

 指さし確認ヨシという感じで指を向ける男騎士。そんな彼の一方で、女エルフは、明らかに愛の解釈が違う白褌効果に鋭いツッコミを入れるのだった。


 続いて男騎士が見たのは大剣使いである。

 大剣を盾代わりにすることで防御力を大幅に向上させている彼は、男騎士たちと違ってプレートメイルなどの重い鎧を身に付けていない。

 まさしく、攻撃は最大の防御なり。

 ヨシヲに次いで、脱ぐのは早かったが――下着が膝に引っかかっていた。


 ブリーフであった。

 見事な、それは白いブリーフであった。

 なかなかぴっちりとしたブリーフであった。


 ムキムキの体格をしておいて、ぴっちりとしたブリーフ。その容姿は、正直に言って、コメントに困るものだった。


 金髪少女がはわわという顔をして指の間からそれを眺める中、大剣使いは【沈黙の緑褌】をえいやとい腰に巻き付けた。


 ヘブン状態。

 これまた濃い男の顔を晒して、大剣使いが緑の光を天に昇らせる。


「ト〇ンザム!!」


「うぉーい!!」


「ロック〇ン、狙い撃つ!!」


「ブリーフスナイパーネタと思わせて、そっちのスナイパーかい!! 繋がり、スナイパーだけやないか!!」


「……パーソナルカラーが緑!!」


「まぁそうだけどもさ!! というか、ガンダ〇ネタやるなら、ヨシヲの方やろ!! ほれ、その、二つ名的に!!」


 何を言っているんだお前はとミルコ・ク〇コップのような顔をする大剣使い。

 あぁもうこいつらは、こうなると性質が悪いんだから。

 女エルフが頭を抱える。


 ツッコみが追い付かないその前で、今度は男騎士の視線が隊長へ行く。

 そう、割とごてごてとした装備を着こんでいた隊長。この中で、一番、装備を脱ぐのが遅かった。一番遅かったが、下半身のキャストオフはしっかりしていた。しっかりと、股間にそれなりに立派なシミターをぶら下げていた。


 鎧の中に着こんでいる綿製の服を脱ぎ、今、全裸になる隊長。

 いよっしゃぁという掛け声と共に【兵の赤褌】を身に付けた。


 赤いオーラが立ち昇る。

 今から、雪の階段を駆け上ろうかという感じに、赤いオーラがその背中から立ち上る。濃ゆい顔になった隊長は、そして、やはり気合の籠った言葉を発した。


「ロリコンには触れちゃならんいたみがあるんだ!! 其処そこに触れたら後はもうオウフオウフ辛抱溜まらんでござるよデュフフー!!」


「名言がロリコンのせいで台無し!!」


 まるでついさっきまでのヨシヲのような酷い状態になる隊長。

 拗らせっぷりがリアルでヤバい。見てはいけませんと、さっとワンコ教授の眼を女修道士シスターが塞いだが、ほんと、ろくなもんじゃなかった。


 まぁ、口調はともあれ、益荒男として装備は完了。

 男騎士最後に視線を最も心配な――青年騎士へと向ける。

 すると青年騎士、そんな顔をしないでくださいよと、寂し気に微笑んだ。


「ティトさん、僕だって、やればできるんですよ!! 見てください!! 【厨二病の紫褌】も【江戸者伊達スエドモンダンテス】も、見事に着こなしてみせます!!」


「おぉ、ロイド!!」


「――ロイド行きまーす!!」


「不安しかない掛け声!!」


 はたして、魔法道具二つ装備。

 【厨二病の紫褌】と【江戸者伊達スエドモンダンテス】を装着した青年騎士。その体から、紫色をしたオーラが立ち昇る。


 四人の中で一番不安な色味をしたそれを発しながら、ゆらりと彼は顔を上げる。

 クク、クハハ、ククハハハと、不気味な叫び声がその声が漏れたかと思うと――。


「げにぃ!?」


「パープル〇部!!」


 濃い青年漫画顔になったかと思うと、平安みを感じさせる黒眉うりざね顔に彼は変じた。ついでに、なんかちょっと体のフォルムが女っぽくなった。


 厨二病なのか、これは、厨二でくくっていいのか。

 というか、紫だけれども、前に変身した時は、同じ雑誌でも違うマンガじゃなかったか。


 そんな問いを察っしてかそれとも知らずか。

 青年騎士は再び叫んだ。


「〇京グールはもう終わっちゃったんだよ!!」


「パープル〇部ももう終わってるよ!!」


 一年という月日はげに残酷であった。

 そして、本当にどうでもいい理由での変更であった。


 なんだか知らんが――とにかく、ヨシ!!

 指先し確認で頷く男騎士。うらざね顔になった青年騎士に、よく頑張ったとウィンクをすると――ついに彼は自分の褌へと手を伸ばす。


 あれやこれやとやっている内に見事に全裸になった男騎士は最後のアイテム【傾奇者の金褌】を身に付けたのだった。


 どこからか吹きすさぶ桜吹雪。

 渦を巻くような効果音。

 響いてくる馬蹄の音。


 今、まさに、男騎士の身体から金色のオーラが放たれたその時。


 ピシャーン。


 紅色の襖がどこからともなく現れて男騎士の四方を囲んだ。

 その前に、浮き上がるのはもちろん――あの四文字。


「傾奇!!」


「御免だぞ!!」


「赤襖って演出的には微妙じゃない!?」


 そこは金演出じゃないのとツッコミを入れるその前で、赤襖の中から黄金の光の奔流が立ち昇るのだった。


 どうやらこの戦――。


「これより我ら修羅に入る!! 鬼と会ったらもなにも俺は鬼なんだけれど、とりあえず斬る!!」


「あ、これ、ちゃんと儀式魔法成功した奴や」


 薄い所弱演出で16R大当たりを引いたようであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る