第472話 どエルフさんと華京院

【前回のあらすじ】


 いざ、進むのかキッチン奇天烈アドベンチャー。

 それとも、浅草亀有の交番で繰り広げられる人情劇。


 いいえ、違います。


 火曜日のサザエ。

 水曜日の金髪猿宇宙人。

 そう、これは三十代、リアルなフジ系アニメ全盛期時代を体験した人間にしか分からない、そういうお話なのでありました。


「だからマニアックなネタやめて!! まともにファンタジーやろう!!」


 オリジナリティって、大事だと思うんですよね。小説書きとして。


「だったら、なおさらこんな三十代にしか分からんネタはやめようよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど、つまり、その部屋をお借りすることができれば、モーラさんは短期間で結果にコミットすることができるかもしれない。そういうことだな、サザ〇さん」


「えぇ、そういうことになります。隣の枠の神様は気のいい方なので、きっと許してくれると思うのですが」


「気のいいとか、きっととかの前にやめましょうよ。なんていうか、もう、アンタらが出てきてから、話の流れがめちゃくちゃよ。冒涜的もいい所だわ」


「まぁ、海母神ですから」


「だぞ。イアイアなんだぞ」


「そんなもんあがめてるんかいお前らは!!」


 神とは基本、人間の思惑の外にあるものなのである。それが分からないとは、まだまだだなどエルフさん、まだまだだ。そんな感じに、人間の文化に理解のない女エルフを、男戦士たちパーティが見た。

 憮然とした表情でそっぽを向く女エルフ。

 だが――そんな態度が続けられる状況でないことは、彼女もよく承知していた。


 やめようと、口では言ってみたものの、強くなれるのならば強くなりたい。

 魔剣エロスを巡る攻防で、魔女ペペロペに支配された義母の力を女エルフは思い知っていた。それだけに、自分の力が足りないことも自覚していた。そして、自分の体がだらしないことも自覚していた。


 迷っている場合ではない。

 今は、手段も、方法も、ましてパロディ元も選んでいられない。

 そんな事態なのだ。


 時の経過が遅い時間。

 おおいに結構ではないか。


「分かったわ。そのお話、受けさせてもらえないかしら」


「モーラさん!!」


「だぞ、よく言ったんだぞ、モーラ!!」


「流石です、お義姉さま!! そう言ってくれると、信じておりました!!」


「分かりました。では、さっそく火曜日の海母神さまにとりなしていただいて……」


「いや、待て!!」


 まとまりかけた話にまったをかけたのは他でもない、男戦士である。

 それまで腕を組んでことの成り行きを見守っていたこの戦士は、話がまとまりそうになった絶妙な所で待ったをかけた。


 なぜ今更止めるのか。

 どうしてその申し出に待ったをかけるのか。

 女エルフには男戦士の心がこの時ばかりはさっぱり分からなかった。


 だが、頼もしい笑顔を向ける男戦士に、長年の付き合いからきっとその申し出が何かよからぬものの類ではないことだけは彼女にも察せられた。


 それはそう、女エルフを気遣っての発言――。


「やはり精神的な時の部屋か……いつ出発する? 俺も同行する」


「ティト院!!」


 ティト院であった。

 いつの間にか頭に包帯を巻いて、ティト院が濃い顔で立ち上がっていた。


 こういう時、同行するのにもってこいのテンプレ――華京院を持ち出して、男戦士は女エルフだけに辛い修行はさせまいと、修行の同行を申し出た。


【テンプレ 華京院: 誰かがどこかに行こうとする時に使うとウケるテンプレギャグ。あと、インが名前に被っていると、語感も相まって更に笑いを誘う。例:「やはりアイスを食べたのはお前か……おいこら? なんとか言えやこの駄女騎士?」「くっ……殺せ!!」「アレ院!!」とか、そんな感じの奴である。ただし、巧いこと言える技術と、画像加工のセンスがないと、だいたい滑るので素人にはお勧めしない(そして滑っている)】


 ありがたい。それは、実にありがたい申し出だが。


「厄介なことをしてくれたなぁ、もう!!」


「やはり精神的な時の部屋か……いつ出発する? 俺も同行する」


「ビク院!!」


 ビク院であった。

 隊長が眼帯の上から包帯を巻きつけて、更に車いすに座って格好つけていた。後ろにはなんか、白い騎士の亡霊みたいなのが見えないでもなかった。


 そして、ぼさぼさだったはずの髪の毛が、なぜか縦に逆立っていた。

 綺麗に逆立っていた。


「ビク院というか、ビクナレフ!!」


「ありのまま起こったことを話すぜ!!」


「やはり精神的な時の部屋か……いつ出発する? 拙者も同行するであります」


「ヨシヲ院!!」


 ヨシヲ院であった。

 こちらはどちらかというと元ネタよりも元ネタの背後霊の方に寄せてきた。

 G値を上げて、エメラルド色に装備を変え、エメラルド・ディスティニー・ヨシヲでボケてきた。

 なんとなく、もう、疲れる話の流れが見えてきていた。


「やはり精神的な時の部屋か……いつ出発する? 俺も同行する」


「店主院!!」


 そして店主もそこに乗っかって来た。


 もうわっちゃわっちゃであった。

 かくして、男戦士、女エルフ、隊長、ヨシヲ、意味もないのに店主の五人が、精神的な時の部屋へと挑むことが決定したのだった。


「行くぞ!!」


「「「応っ!!」」」


「並んで普通に立つな!! お前ら!! やめろ!!」


 普通のジョ〇ョ立ちであった。

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