第467話 どエルフさんと解呪の可能性

【前回のあらすじ】


 海母神マーチも認めるその力。

 モーラさんが持ってるそれは――。


「ウワキツツッコミどエルフ三百路ヒロイン力です!!」


 であった。


「嫌じゃぁ、そんな力!! もっとなんか素敵な力の方がよかったぁー!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「なんでよ!! なんでそんな能力を目にして、手を貸すことを決めたのよ!! おかしいんじゃないの海母神!! どうかしてるんじゃないの!?」


「なんだか見ていて、助けてあげたいと素直に思ったそうです。三百歳を超えて、汚れ芸人みたいなことをしている貴方のことを、助けてあげたいと思ったそうです」


「汚れ芸人ちゃうわー!! 好きでやってるんじゃないのは確かだけど!! 優しさが痛いわ!! もうっ!!」


 流石は海母神。母のような思いやりであった。

 思いやりだったが、女エルフにはそんな思いやりがちょっぴりどころかずぶりと痛かった。なんでそんな気遣いを受けなければいけないのか、女エルフはまた顔を手で覆った。


 生き恥ここに極まれり。

 哀れ、女エルフ、ついに神にまで同情される。


 そんな彼女の肩をまた、男戦士が優しく諭すように叩くのだった。


「気にするなモーラさん。神が認めるウワキツツッコミどエルフ三十路ヒロイン力を、もっと誇りに思うんだ」


「思えるかそんなもん!!」


 まったくフォローになっていなかった。

 男戦士を殴り飛ばし、涙を流す女エルフ。

 そんな彼女を女修道士シスターが取り押さえて、どうどうとなだめすかす。


 女エルフが落ち着くのを待つことしばし。

 とはいえ、きつい事実を前にしてすっかりと意気消沈。まともに話ができる状態ではない。そんな彼女に代わって、そこは神の僕である女修道士シスターが海母神の使者との会話を続けた。


「それで、話とはそれだけなのでしょうか。どうにも、今回の件の謝罪だけではないような口ぶりですけれど」


「はい。重ね重ね、ウワキツを重ねたことを、お詫び申し上げたいところですが、話の本題はそこにはありません。ティトさま、そしてモーラさま。暗黒大陸との戦いについてのお話になります」


「暗黒大陸……」


「もしや……」


 淡い期待が男戦士たちの間に流れる。

 冴えない顔をしていた女エルフも、視線を上げて海母神の使者を見る。その反応に応えるように、神からの使者は力強く頷いた。


 任せてくれ。

 そんな意志を言外に感じさせる、それは頼りになる頷きであった。


「暗黒大陸との戦いに、我が主、海母神マーチもまた力を貸すことを決めました。暗黒神シリコーンの暴虐をこれ以上は捨て置けぬ。そのために、不干渉の約定を破り、直接的に今回の戦いに干渉することにしたのです」


「おっ、おぉっ!!」


「なんて頼もしい!! ありがたいわ、海母神さま!!」


「だぞ、とはいえ、法王ポープリーケットさまを経由して、既に力を貸しているんだぞ?」


「これ以上の助力となると……」


 はい、と、海母神の使者が頷く。

 女修道士シスターの確認を彼女は肯定した。


 既に教会を介して人類に力を貸している海母神。暗黒大陸の脅威に対しても、密かに法王ポープにその情報をリークし、また教会の闇と共に漢祭りを画策していた。

 それだけでも飽き足らず、更なる助力となると――。


 直接、戦場に彼女が介入するレベルの話以外にない。

 神の参戦。暗黒大陸という圧倒的な敵を前にして、その事実は男戦士たちの心をおおいに奮いたたせた。


「海母神さまが直々に魔女ペペロペと相対します。彼の魔女は、暗黒神シリコーンの力を直接的に受けています。彼女と正面から戦うことができるのは、おそらく、海母神さまの力を受けたものだけでしょう」


「魔女ペペロペ!!」


「暗黒神の力を直接。なるほど、あの力の理由はそれだったのですね」


「目には目を、歯には歯をということだぞ――」


 神同士の全力を出し合っての殴り合い。その展開、その状況に、男戦士たちが息を呑む。そんな中、一人、冷静な顔をしたのは、女エルフであった。

 何故か。それはやはり女エルフ。

 ひどい目に、これまでさんざんひどい目に遭って来た女エルフ。


 彼女は海母神の使者が呟いた、気になる言葉を聞き逃さなかった。


「ちょっと待って。海母神の力を受けたものだけでしょうって、どういうこと?」


 そう。

 そこである。

 直接海母神が戦うと言ったのに、力を受けたものだけでしょうと最後に彼女は結んだ。


 これ如何に。

 女エルフは背筋に走る、なんとも言えない正体不明の悪寒に身震いした。

 というよりも、その悪寒の正体は、既に不明でも何でもなかった。


 いつもの、理不尽な、どエルフオチであった。


「もちろん!! 神の力を宿した人間――いえ、エルフ!! 貴方ですよ、モーラさん!!」


「ちょっと待って!! どういうこと、どういうこと、どういうこと!?」


「海母神さまは、実態を持たない神です。この世に顕現するために、依り代となる体を必要とするので。そして、その体として、貴方ほど適した体はないのです」


「よしてよ!! 勘弁してちょうだい!!」


「また、メイクアップ魔界天使白スク水!! ウワキツモーラになって、あの魔女ペペロペと戦っていただく――こちらはそのつもりで来ているんです!!」


「ウワキツモーラとかそれっぽい名前を付けるな!! 絶対にやらないわよ!!」


 まさかのウワキツ続行。

 魔女にして痴女、暗黒大陸の巫女に対抗できるのは、三百路のウワキツ魔法少女だけ。それはなんというか、業の深さ的に言って理にかなった話であった。


 しかし、女エルフには受け入れがたい話であった。

 もう今回の件でいっぱいいっぱいの女エルフには――。


「嫌よ!! もう、今回のだけでお腹いっぱいなのに!! まだこれ以上、ウワキツな格好しなくちゃいけないとか!!」


「世界の平和のためです!! ウワキツ魔法少女になってください!! モーラさん!!」


「そうだモーラさん!! 世界の平和のためだ!!」


「世界の平和の前に、守らなくちゃいけないものがあるのよ!! 馬鹿!!」


 なんとも利己的な正義な味方。

 やれやれ。流石だなどエルフさん、さすがだ。


「いやじゃーっ!! もうこれ以上、魔界天使白スク水は勘弁してーっ!!」

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