第453話 壁の魔法騎士と局地戦

【前回のあらすじ】


 だいたい、この小説はストックが5週分くらいあるので、時事ネタが5週遅れで襲ってきたりします。ご了承ください。


狂戦士ガッ〇崎しげる!! って、どういう当て字なのよ!!」


 あんなん卑怯でしょ。笑いますよ。いや、ベルセルクみたことないんですけどね。


「うぉい!!」


 まぁ、そんな時事ネタ本編はさておきまして。

 今週末もシリアスばかり、一切ギャグなしの壁の魔法騎士編へと突入です。壁の魔法騎士の魔法が破られるも、教会側の援助により死霊の軍を押す中央大陸連邦側。

 とはいえ戦いはまだまだ序盤。

 裏切り者の存在が不明瞭なまま、この先どうなるのか――。


 という所で、週末のシリアスパートをお楽しみください。


◇ ◇ ◇ ◇


 死霊の兵を教会の僧侶たちが浄化する。

 土の壁が残った生身の兵たちを押しとどめる。

 戦線は膠着。暗黒大陸の兵たちは、一人として中央大陸連邦共和国首都リーンカーンの城壁に近づくこともできなかった。


 そのような小競り合いが一刻も続いた。

 中天にあった太陽は西に傾き、戦場を焦がすような熱風が吹き抜ける。


 城壁の上。

 戦局を読みながら、戦略魔法【万里の長城グレート・ウォール】を展開し、暗黒大陸の兵たちを制する壁の魔法騎士。その額に汗が滲んでいた。

 長期間にわたる魔法の行使により、彼は魔力を消耗していた。

 そんな壁の魔法騎士に、そっと近づく影が一つ。


「……代わりますわ、ゼクスタント団長」


「……バトフィルド」


 杖を手にした魔脳使いであった。

 彼女は力を酷使し、困憊の表情に頬をこけさせる騎士団長に代わって、城壁の上へと立った。そして、彼が素手でその力を行使したのに代わって、魔力を増幅する杖を使って大地に光を落とすと、次々に敵の進軍経路に土の壁を発生させた。


 戦略魔法【万里の長城グレート・ウォール】は壁の魔法騎士の専売特許ではない。


 原理的には誰にでも行使可能な簡単な土魔法である。

 ただ、これを一刻も行使し続けること、また、戦略的に運用できるかは、使えるかどうかとは話が別になる。魔脳使いのような一流の魔法使いであっても、四半刻も行使するのが限界だった。


 しかし、その四半刻が戦場においては活きてくる。

 ほっと壁の魔法騎士が息を吐きだす。その姿を見て彼の部下である魔脳使いがシニカルに笑った。上司を笑い飛ばすとは何ごとかなどとは言わない。それくらいに、壁の魔法騎士は疲弊していた。


 もちろん、魔脳使いもそんなことは先刻承知。


「早急に魔力の回復を。私の壁では四半刻を凌ぐのがやっとです」


「……あぁ。それに、お前には後方で全体の戦況分析をやってもらう必要もある」


「回復しながら戦況確認を。我が方、現状は有利です。損害率は97%。これならば、今夜はなんとか街を放棄せずに過ごすことができそうです」


「……その報告だけで十分だが。やれやれ、上司使いの荒い部下だ」


 端的に情報分析の結果を伝えると、彼女は壁の魔法騎士から顔を背けて、戦場を見下ろすのに集中し始めた。


 壁の魔法騎士が一歩城壁の奥へと下がる。

 すかさず、リーナス自由騎士団の女軍師が葡萄酒の入った杯と、黒パンを手にして壁の魔法使いへと歩み寄った。無言でそれを受け取り、さっそく胃の中に放り込むと、彼は魔脳使いがまとめた資料に目を通し始めた。


 確かに、戦況は五分五分。一部、壁を越えた暗黒大陸の兵と、第二部隊が交戦したのみで被害は軽微なものだ。攻城魔法が数発撃ちこまれたが、城壁を破壊されるような事態にまでは発展していない。


 しかし、損害が軽微というより、これは――。


「敵方はまだ本気を出して攻め込んできていないだけ、というのが正しいかな」


「はい」


 魔脳使いが振り返らずに応える。傍らに立っていた女軍師もまた、壁の魔法騎士の分析に首肯した。


 小競り合いだけでこの損耗。

 いや、小競り合いしかできないほどに、相手を警戒させていると考えるべきか。

 なんにしても――切り札を出し合い、戦況が大きく動き始めるのは、ここからだと言ってよかった。


 そう、まだ暗黒大陸側は、誰も将を戦線に投入していない。

 リーナス自由騎士団、及び、中央大陸連邦共和国騎士団もまただ。


 一騎当千の将をどちらが、どこに、どの局面で投入するかで、これから前線の様相は大きく変わる。


 先に仕掛けるか、それとも、向こうが仕掛けるのを待つか。

 壁の魔法騎士はこの手の采配を得意とする女軍師に視線を向けた。それを受けて、女軍師が静かに頷く。


「待ちましょう。敵方の動きを見る方が肝要です」


「……その心は?」


「敵陣営の把握がこちらもできていません。敵の将で分かっているのは、暗黒騎士シュラト、魔女ペペロペ、外交ゴブリン僧ゴブリンティウス。それ以外のカードを見極めずには、積極的に仕掛けるのは待つべきかと」


「……なんて言っているうちに、出て来たわよ敵方の将が」


 女軍師と壁の魔法騎士が城壁から身を乗り出して南方の地を見る。交戦していた第二騎士団の横っ面に、飛び込んできた赤い影があった。紅色の鎧を着こんだその仮面の将は、鬼人の如く剣を振るって、あの第二騎士団を切り伏せていく。


 慌てて、対応に入ったのは兜を付けていない第二騎士団団長――死神カーネギッシュ。損害を最小限に食いとどめたものの、矢継ぎ早に繰り出される剣閃に、連邦騎士団最強にして最凶の将が一歩後ろに下がった。


 まずは、一人、焦れて飛び出して来たか。


 壁の魔法騎士と女軍師が食い入るように見る前で、中央大陸と暗黒大陸、二つの大陸の凶将同士の剣が火花を散らした。

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