第434話 どエルフさんと異世界転職

【前回のあらすじ】


 隊長とヨシヲに合流した男戦士たち。

 しかしながら、彼らが男戦士たちを待つ間に受けた仕事により、ヨシヲは呪われ、さらに異世界漂流者ドリフターという厄介な存在がこの世界に呼ばれてしまったことを男戦士たちは知った。


 強力な力を持っているかもしれない異世界漂流者ドリフターを放っておけない。

 ここ最近寄り道ばかりだが危険なのなら仕方がない。男戦士たちは異世界漂流者の確保のために動くのだった。


 暗黒大陸との開戦まで残すところあとわずか。

 果たして、男戦士たちは間に合うことができるのか――。


「あれ、なんか真面目なあらすじじゃない!?」


 そんな週もありますよ。

 という訳で、今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「しかし、ピンクの髪の女の子だったわね。見慣れない感じの服も着ていたわ」


「あぁ、しかも――なかなか発育もよかった」


 じとりと男戦士を女エルフが睨みつける。

 どこを見ているのか、何を見ているのか、そもそも年増好きじゃなかったのか。そんな責めるような感情が乗った視線に、男戦士はたまらず口を閉ざす。


 そんなちょっと剣呑なカップルの会話を余所に、隊長とヨシヲは真面目な顔をして今後の対策を練っていた。


異世界漂流者ドリフターは基本的に根無し草。こちらの世界に頼む人物はいない」


「然り。可哀そうだけれど、それが事実でござるなのよね」


「逃げたはいいけれど隠れられる場所は自然と決まって来るな」


「拙者としても、運命の女ディスティニーヒロインがそのような目にあっているというのは、あまりいい気がしないでござる。速やかにお救いせねば」


 痴話喧嘩に夢中だった女エルフの顔が歪む。

 どういうことと問い返すこともない。わざわざ彼らに説明されなくても、その会話が意味するところを、よくよく理解していた。


 異世界に転移してきた人間が、そんな簡単に世界に順応できるだろうか。

 そこには文化風俗の壁が毅然と立ちふさがっている。そこを乗り越えて、順応することができるものなどそれだけで勇者である。右も左も分からなければ、どのように生きていけばいいかもわからない状況で、人間が取りえる行動は限られる。

 そう、転移して、生きていく方法は思いのほか限られるのだ。


 そしてどの世界に行っても求められる職業というのはある。彼らが転移する前に居た世界でも、そしてこの世界でも、女性に求められる仕事となると――。


 考えて、女エルフは苦い顔をした。

 それは彼女がかつて、奴隷として売られそうになった時に、一度落ちかけた苦界。そして、多くの女エルフたちが、今なお囚われている世界だったからだ。


 そんな場所に、彼女のようなうら若い乙女を落とすことなどできない。


「……一刻も早く助け出さなくちゃ」


「あぁ!!」


「待っているでござるよ!! 俺の運命の女マイディスティニーヒロイン!!」


「絶対に助け出してやるからな!!」


 男戦士たちが顔を見合わせて頷きあう。

 四人全員が視線をかわすと、彼らは誰からともなく真ん中に手を差し伸べ始めた。異世界漂流者ドリフター――ピンクの髪の少女を助けるべく、その意思を統一せんとする彼らは、円卓の中央で手を重ねると、気合を込めて声をあげた。


「彼女を絶対に助けるわよ!!」


「「「おう!!」」」


「その身を売る前に!! かわいそうな目に合う前に!!」


「「「おう!!」」」


「絶対にさせない」


 そう言って、女エルフが音頭を取る。一呼吸置いたそれに、男戦士達も意をくんだか、その決意を口にする。

 しかし――。


「売春婦なんて!!」


「「「メイドなんて!!」」」


 三人の、意見は、見事に三対一に割れた。

 そう、どスケベな意見と、マイルドスケベな意見に。


 うん、と、男たちの視線が女エルフに向く。

 しまった、と、女エルフの顔が久しぶりにひきつる。

 男三人はこれまた久しぶりに、神妙な顔になっていた。


「異世界売春婦だって……?」


「いや、異世界で女性が生きていくには、そういう選択肢も確かにあるが……」


「この職業が多様化したご時世、性を売り物にする仕事につかなくとも、メイドやアイドル、歌い手、デイトレーダー、なんでもやりようがあるでござるよ」


 あぁ、そうよね、その通りよねと、女エルフが赤面して顔を両手で覆った。

 異世界転移して、右も左も分からぬ少女を思うあまり、周りが見えなくなっていた。いや、この手の話の黄金展開過ぎて、てっきりそうなのだと思い込んでいた。


 迂闊。完全に凡ミス。

 そして、痛恨のどエルフオチ。

 自分からのこのことどスケベ発言してしまったことに、女エルフは、耳まで真っ赤にしてその場にうずくまったのだった。


 言うならば言えとばかりに、その場にうずくまった。


「……まぁ、モーラさんがそう考えてしまうのも分からないでもない」


「そうだな。もしかすると、勢い余ってそういう仕事に就いちまうかもしれねえ」


「モーラ氏の杞憂も仕方のないことでござるよ。むしろ、我々の認識の方が甘かったのかもしれない。もっと危機感を持って、彼女を探さないと取り返しのつかないことになるかもしれないでござる」


 しかし。

 そんなエルフの嘆きを察してか、それとも、わざとか。

 男戦士たちはあえてそれについて触れなった。


 あえて、女エルフの発言をやんわりと受け止め、肯定したのだ。


 やさしさ。

 そう、やさしさである。

 男戦士たちは珍しく、女エルフに同情してやさしい切り返しをしてみせた。


「モーラさん!! 気にするな!! 君がそう思ってしまったことは、女として、そして少女の身を案じる人として、別段不自然なことじゃない!!」


「そうだぜモーラ!! むしろ、よく言ってくれた!! 俺たち男だけじゃ、このまま楽観視して、大変なことになっちまう所だった!!」


「ずばりよく指摘してくれたであります!! モーラ氏!!」


 やさしさが、痛い。

 こんな風に気遣われるなら、いっそのとこと――。


「いつものように弄ってくれた方がまだマシだわ!!」


 一人だけ、どスケベなことを考えたエルフは、涙を流しながら叫ぶのだった。


「流石だなモーラさん、さすがだ!!」


「どエルフでいいわよ!! えぇそうよ!! どエルフで申し訳ございませんでした!!」


 どエルフ、完全敗北であった。

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