第390話 どエルフさんといつもの感じ

【前回のあらすじ】


「モョン!! 行くわよ!!」


「……やれやれ。まったく困った奴だなティトヒは」


「それは前々々回のあらすじじゃ!!」


 風の精霊王からお説教を受けて、オリジナル方向で頑張ろうと決意を新たにする男戦士と女エルフ。

 そんな彼らはさておいて、男戦士の弟子である逃がし屋は連邦騎士団の第一部隊に潜入しようと試みるのであった。そこで彼が目にしたのは――。


「バルサ殿は内通者を探し出すのに心血を注いでおられる。我ら第一部隊は騎士団の頭脳、なんとしても裏切者をあぶりださねば」


 女騎士から暗黒大陸と内通していると密告を受けた第一部隊団長の老騎士。そんな彼が、連邦騎士団内の裏切者を部隊を上げてあぶりだそうとしている――という、予想外の事実であった。


 はたして、老騎士は本当に裏切り者なのか。

 第一騎士団をあげての裏切者の捜索はブラフかそれとも本気なのか。

 その報告書を老騎士に届けるようにと頼まれた逃がし屋は、この件にはまだ何か裏があると確信するのだった。


 とまぁ、そんなシリアスパートはさておいて、今週も男戦士たちは相変わらずのラブコメしないと出れない展開。

 弟子と師匠でなぜここまで違うのか。そんな温度差を感じてくれたら幸いです。


「なに言ってるんだ!! この小説は冒険でしょでしょ!!」


 あ、きわどいネタやめてください。

 とまぁ、そんな感じで、どエルフさんはじまりでございます。


◇ ◇ ◇ ◇


「店主!! 頼まれたモンスターの素材を持って来たぞ!!」


「おうティト、いつもありがとさん……って、モーラちゃんどうしたんだその格好!!」


 ぼろぼろになった衣装を身にまとった女エルフ。

 その顔にはいつもの覇気が微塵も感じられない。もうなんか、疲れきったという感じで、彼女はため息を吐き出すと視線を床へと向けた。


 たいしたことはない軽めのクエスト。店主が男戦士と女エルフに依頼した内容は、彼の認識ではそうだった。しかし冒険にアクシデントはつきもの。


 答えたくないと表情で告げる女エルフ。

 そんな彼女に代わって、男戦士が苦笑いと共に彼女の姿の理由を答えた。


「道中で服を溶かす系のスライムに襲われてしまってな」


「……なるほど、スケベ系イベントという訳か」


「あぁ、もしこれがドスケベファンタジーだったなら、濡れ濡れのスケスケになって、サービスカットになるところだが。スライムが付いたところから焼き切って事なきを得たんだ」


「さすがはモーラちゃん。サービスシーンをものともしねえ、鉄壁のポンコツ」


「うっさーい!! こちとらお気に入りの装備を溶かされてナーバスになってんのよ!! 余計なこと言うんじゃないわよ!!」


 火炎魔法をくらわすわよと杖を振り上げる女エルフ。

 まぁまぁ落ち着いてと男戦士が慌てて彼女を止めた。


 と、その時。


「おう、それならちょうどいい装備が入荷したんだ。よかったら装備するかい?」


 まるで待ってましたとばかりに机をたたいて道具屋の店主が破顔する。

 気前もよければ気分もいいという感じのその表情。流石はエルフ好きが高じて、エルフ喫茶を開くところまで行っちゃう系の道具屋である。


 故に、その申し出に女エルフは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「あんたの? おすすめ装備? 絶対に嫌よ?」


「なんでさ!!」


「ビキニアーマーとか、アンタが一度着た服とか、そういうのでしょどうせ。変態じみた道楽に付き合うほど暇してないのよ」


 用は済んだし行きましょうと、男戦士に声をかける女エルフ。いいのかい装備を整えなくてもと足を止めた相棒に対して、彼女はいいのよときっぱりと言い切った。

 男戦士はともかく、女エルフのこの店への信頼は――油とり紙のように薄い。


 しかし。


 それではいそうですかと逃がすような店主でもない。


「そういうなよモーラちゃん!! せっかく俺が苦労して手に入れた装備なんだからさ!! 一回くらい着ていってくれよ!!」


 ざんねん、店主が女エルフの前に回り込んだ。

 女エルフは逃げられない。


 そしてその手には――。


【装備 あぶない水着: なんてこったMSX版だァアアアアアア!!!!】


 が、握りしめられていた。


「絶対に嫌よ!!」


 即答。女エルフは一考の余地もなければそぶりも見せずに、店主の提案をきっぱりと断ってみせた。そこに店主、すかさず土下座コマンドを差し込む。

 それは流れるような見事な所作であった。

 土下座しなれている者の動きであった。


 流石だなギルドマスター、さすがだ。


「一回だけ!! 一回だけでいいから!!」


「なんでこんな恥ずかしい水着を着なくちゃいけないのよ!! というか、あきらかにその――サイズが合わないじゃない!!」


「そういうのも含めてサービスサービスぅ!!」


「何がサービスか!! 誰へのサービスか!!」


 それはもちろんこの小説を読んでくれている読者の方へのサービスでしょうよ。

 女エルフさん。流石にここまで長らく話を続けてきて、キスシーンもなければスケベシーンもなく、ブラチラもパンチラもなく、胸をさらせば光線が走り、まったく色気がない本作品は異常といっても過言ではないですよ。


 どエルフなのに。ちっともどエルフじゃない。

 タイトルに偽りありで訴えられてしまいますよ、こんなポンコツ下ネタ小説。


「うっさい!! 関係あるか!! というか、地の文が介入してくるな!! 世界観が狂うでしょ!!」


 ごもっとも。

 しかし、ここは作者としても退かれぬ事情があるのだ。


 本当の意味で、流石だなどエルフさん、さすがだと、心の底から言いたいんだ。

 そのために女エルフよ――犠牲になってはくれないだろうか。


 とまぁ、そんな思惑が渦巻く道具屋の中で、颯爽と男戦士が店主と女エルフの間に入る。男戦士の登場に、むっとしていた女エルフも少しだけ表情を軟化させた。


「とりあえず、落ち着こう二人とも。利益はお互い一致しているはずだ」


「ティト」


「モーラさんは装備を破壊されて新しい服が欲しい。店主はそのあぶない水着を着て貰って、モーラさんの一枚絵が見たい」


「MSX版だからな!! 当然だ!!」


「……けど、どんなに頼まれたって、私はいやよ。そんなハレンチな装備をするくらいなら、死んだ方がマシよ」


 ぷいすと女エルフが男戦士から顔を背ける。

 いろんな意味で照れているのは間違いなかった。


 そんな彼女にそんなぁという表情を向けた店主だったが――。


「案ずることはない」


「ティト」


「誠心誠意頼めば、モーラさんも鬼ではない。きっとこの水着を着てくれるはず」


「誠心誠意……そうか!!」


「あぁ、そうだ……もう分かっただろう!!」


 そういうと、男戦士と店主はお互いの肩に手を載せた。

 いやな予感が女エルフの背中に走る。


「スケベな装備には――スケベな装備を!!」


「誠心誠意、ステテコ土下座すれば、きっとモーラさんもあぶない水着を着てくれるはずだ!!」


「着ないわよ!!」


 女エルフが振り返ったその時には――時すでに遅し。

 ステテコパンツ姿になった道具屋の店主と、そして、なぜか男戦士が居た。


 そこから――また流れるような土下座である。


 見事。

 見事である。

 できているのうである。


 土下座をマスターした男の所作であった。


「頼む、モーラさん!! この通りだ!!」


「ワシらのステテコ装備に免じて!! どうか!! お願いします!!」


「お願いしますじゃないわよ!! なんでそんなもん見せられて水着を着なくちゃならんのよ!!」


「ステテコ土下座で頼めば着てくれる系エルフだと思ったから!!」


「どんなエルフだ!!」


 絶対に嫌よと拒絶する女エルフ。

 しかし、まだ、その背中から、悪寒が取れることはなかったのだった――。

 

 そう彼女はよくよく知っている。

 調――ただの前振りだと。


「くっ、やはり誠意を示すのに、ステテコだけではだめか」


「男戦士よ」


「モーラさんは、全裸土下座をお望みのようだ」


「うぅっ、男の最後の砦まで、攻略しようとするなんて――ひどいわ」


「あぁ、まさに鬼畜の所業。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「誰もそんなもん求めとらんわ!! さっさと服着ろ!! このアホども!!」


 女エルフの火炎魔法が、ステテコ男二人に炸裂するのだった。

 男戦士と店主はダメージ69を喰らった。

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