第386話 どエルフさんと男戦士がアホな件について

【前回のあらすじ】


 裏切者は連邦騎士団第一部隊団長の老騎士なのか。

 女騎士から告げられた密会の事実に驚愕しつつも、今一つ確信を持つことのできない逃がし屋は、ことの次第を自分で見極めることを決めた――。


 シリアスだと前回のあらすじがシンプルで助かりますね。


「いや、あんたがふざけすぎなだけでしょ!!」


 という訳で、今週もまだまだおとぼけパート。

 今回は女エルフと男戦士はどんな赤っ恥――もとい性癖をさらすのか。


「ほんとこれ、自分の趣味が丸裸にされる感じで勘弁してほしいんだけれど」


 小説なんてそんなものです。

 地の文描写が少ないだけ感謝しなはれ。


 という訳で、今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


 最近、うちの男戦士がアホだ。


「モーラさん。モーラさんは、魔法使いなんだから、あんまり前に出ないで、後ろで控えていてくれ」


「そんなこと言ったって、アンタが射線遮ってくるんだから仕方ないでしょ!!」


「……魔法撃つ時にはちゃんと退くから」


「それじゃアンタが危ないって言ってるのよ!!」


 冒険者なのに、基本的に相棒パートナーである私に気を使っている。

 盾役なんて望んでない。

 なのに率先して引き受ける辺りが――本当にアホだと思う。


「きゃあっ!!」


「大丈夫かモーラさん!! このぉっ!!」


「……大丈夫。ちょっとよろめいただけだから」


「すぐに薬草を使おう」


「これくらいどうってことないわよ」


「馬鹿!! 嫁入り前のエルフだろう!! 傷が残ったらどうするんだ!!」


 冒険者なんて危ない仕事をしていれば傷なんていくらでもできる。

 なのに私の体を心配する。そんなことより、自分の身の危険を考えて欲しい。

 薬草だって有限だ。ほいほい使っていいものでもないのに。


「……ほら、これでもう大丈夫だ」


「……ありがと」


「痛くないか?」


「大丈夫よ。ほんと、大げさなのよ、あなたって!!」


「……ははっ、すまない」


 本当にアホだと思う。この男戦士は。

 だから私のような駆け出しエルフしか、一緒にパーティを組まないのだろう。

 どうしようもない。


 けど、そんな彼を憎く思えない私もどうしようもないのかもしれない。


「……いやー、酒も飲めないのに酒場に来るというのは、なんだかな」


「情報収集!! ほんと、戦闘はできるのにこういうのはダメなんだから!!」


「すまないな。ほんと、頭脳労働はモーラさんに任せっぱなしだ」


「まぁそれくらいしなきゃ釣り合いが取れないでしょ。相棒パートナーなんだから」


「そうだろうか?」


「そうよ」


 そう言って、ミルクをちびちびと舐める男戦士。

 こんなに立派な体格をしているのに、蜜酒ミード一杯も飲めない。

 やっぱり――アホだ。


 酔っぱらって、大暴れすることもない。

 絡み酒で思わず本音を吐露することもない。

 口にしたが最後、とすりと気を失うように眠ってしまう。


 もう少し強ければ、彼の本音を知ることもできただろう。それもできない。

 そんなところが私は――アホだと思う。

 ほんとうにどうしようもなく腹立たしいくらいにアホだと思う。


「酔ったふりして、対象者に近づく身にもなってよね」


「モーラさんはほんとお酒が強いからな」


「あんたが弱すぎるだけ!!」


「ははっ、頼りにしてるよ」


 けど――。


「……だから。頼りにしてるのは、私も、だから。おあいこよ」


「……モーラさん?」


 そんな不器用なこの男戦士アホのことを、放っておけないのはどうしてだろう。


 こんな気持ちは初めてだ。

 酔っていなくても酔っているような。

 この男と一緒にいると感じる、不思議な浮揚感はなんなのだろう。


 違う。

 私はこの心を表す言葉を知っている。

 知っているけれども――。


「どうした? 飲みすぎたか? それとも、熱でも?」


 私のおでこにひんやりとした冷たい彼の手が当たる。

 慌てて私はそれを払いのけた。


「なっ、ないわよ!! バカティト!! もうっ!!」


 やっぱりアホだと、この男戦士のことを思っておくことにした。


 慌てて払いのけた手が触れていたあたり。

 徐々に熱を帯びていくおでこを触りながら、私は、目の前のアホな相棒を睨んで、どうしていいかわからず唸るのだった。


 ほんと、うちの男戦士がアホで困る。


 困るけれども――こんな関係は悪くはない。


◇ ◇ ◇ ◇


「……限りなく100点に近い99点!!」


「しゃぁーっ!! しゃっ!! しゃっ!! しゃぁーっ!! おらぁーっ!! どうだ見たかアホティトぉ!! ここに来て連続の高得点!! これがモーラさんの実力じゃーあい!! ほーっほっほっほ!!」


 エルフ狂喜乱舞である。


 拳を突き出し乱舞する女エルフ。

 風の精霊王の得点に、嬉しさからいてもたってもいられないという感じだ。


 対してそれを呆然とした目で見つめる男戦士。

 二回連続で低評価を食らっていた彼は、女エルフの上がり調子を素直に認めることができなかった。


 しかし、確かに彼女が示したそれは紛れのないラブコメ。

 しかも最近流行しているちょっと大人な感じがするむず痒い感じの奴だ。

 大人になっても、僕たちはラブコメがしたいのだ。そういう願望がふんだんに込められた、甘酸っぱい極上の奴だ。


 完敗だ。

 男戦士は岸部露伴に負けたジャンケン小僧のように顎先の汗をぬぐった。


 そんなアホパーティのやり取りを眺めながら、うんうんと頷く風の精霊王。

 ご満悦。ここに来て、彼の顔には今までにない満足感があふれていた。


「いや、正直に言って最高じゃった。なんじゃお主、やればできるではないか。ただのポンコツエルフではなかったんじゃのう」


「ポンコツエルフとはなんじゃーい!! まぁね!! これでも、ラブコメいやというほど見てきたからね!! ラブコメ大好きだからね!!」


「悔しいが、こればっかりは認めざるを得ない。風の精霊王よ、モーラさんの妄想力を思い知ったか。流石だろうどエルフさん、さすがだろう?」


「変化球織り交ぜてくるな!! まぁけど、今日ばかりは許しちゃう!! そんなアホな男戦士もいいかなって――そんな感じよ!!」


 劇中劇のノリで、いつものどエルフ弄りを流す女エルフ。

 高得点に完全に気をよくしていた。


 しかし。


 そうは問屋が卸さないのがこの話。

 そしてこの風の精霊王である。


「いや、言うたじゃろう。限りなく100点に近い99点と」


「……は?」


「100点取るまで試練は続くぞ。ワシのラブコメ試験、そこいらの基準の甘いテストや資格試験と一緒にしてもらったら困るのう」


「「は……はぁーーーッ!!??」」


 ほぼ限りなく満点に近い点数を取っても終わらない。

 風の精霊王はどうやら、相当にラブコメにうるさいようだった。

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